【男性にこそ観てほしい】多くの女性が共感し涙したベストセラーが映画化『82年生まれ、キム・ジヨン』

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社会的価値観の呪縛から解放せよ

平凡な女性の人生を通して韓国の現代女性が担う重圧と生きづらさを描き、日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説を、「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチョン・ユミとコン・ユの共演で映画化。結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。(映画.com 解説より引用)

“セクハラ大国・韓国”と言われるほど男尊女卑が激しく男性至上主義国である韓国。2020年の今もその状況はほとんど変わらないとか。その歴史を辿ると、昔はここには書けないほど、もっと残酷なことが行われてきたらしい。90年代から少しずつ男性も変わり、女性も主張するようになったらしいが、男尊女卑の残り火がくすぶる過渡期に生きる82年生まれのキム・ジヨンも生き辛さを感じ、何者にもなれぬまま、妻となり母となり自分を押し殺して生きてきた。

誰かしら、何かしら不平不満を持ちながらも折り合いをつけて生きている。ただ、ジヨンのように知らぬ間に追い詰められて壊れてしまう人も少なくはない。育児ノイローゼも今は10人に一人の母親が陥っている。他者への想像力が欠如した社会、そして誰もが陥る可能性のある身近なストーリーを織り込みながら、社会が変わりゆくことを願い、わずかな希望と光を見せてくれる作品である。

義理実家でさんざん働かされて、プッツン。突然人が乗り移ったかのように別人になったジヨンに義理実家のみんなが唖然とするシーン

夫デヒュン(コン・ユ)が妻に寄り添い理解しようとしてくれていることが救い。

実母とのシーンは涙腺崩壊でした。実母もこの物語ではとても重要な役どころ。

韓国の物語であるが、今の日本の物語でもある

韓国の女性の生きづらさと多くのモノを背負って生きているのがリアルに描かれている。韓国の現代社会を描いているが、今の日本も決して他人事ではない、いや同じだ。

80年から90年代中盤に生まれたミレニアル世代と呼ばれている私たちは、今子育て真っ只中の世代でもあり、ある人は誰かの妻であり、ある人は誰かの母親であり、誰かの娘で誰かの姉であり妹である。

私たちは生まれたときから性を意識し、男であること、女であることの呪縛により生きている。女はこうだ。

女らしく、お淑やかに。

料理はできて当然

片付け掃除、裁縫ができないなんてあり得ない。

運悪く性被害、またはそのような怖い目に遭ったときには「露出した格好をしているお前が悪い」「誰にでも愛想よくするからダメなんだ」夜に出歩くから、人通りの少ないところを歩くから、脇が甘いからダメなんだと咎められ

30歳前になれば結婚はまだか?

結婚をすれば子どもはまだか?

35歳を過ぎると妊孕力が低下し、高齢出産になるから子どもは若いうちに早く産め。

1人目が生まれたら2人目はまだか?

次は男を産まないと、次は女を産まないと

子どもが生まれたら、3歳までは母親が育てるべきだ

0歳から保育園は可哀想。

「子育ては大変でしんどい」と少しでも弱音を吐こうモノなら、「自分が望んで産んだのでしょ?」という言葉で片づけられる。

そんな言葉はいらない。

世の中のお母さんの欲しい言葉は「今日もお疲れ様。よく頑張ってるね

ただ、労りの言葉が欲しいだけ、誰かに共感してほしいだけ。

育児は誰からも評価されず、孤独との戦いの日々である。

復職するにも保育園に入れない。シッターさんが見つからない、預ける先がない。だから働きたくても働けない!!!

赤ちゃんとの外出では、ベビーカーは邪魔者扱い

飛行機で子どもが泣こうモノなら冷たい視線が集中し、舌打ちされる。

仕舞いにはウルサイ!と文句まで飛んでくる。

そして子どもがグレるモノならば、母親が問い詰められる、全て母親の責任だと。

 

なんなんだ、この社会は?

煩い、煩い、煩い煩い煩い煩い煩い!!!!

最も子育てがしにくい国、日本。こんな国で今後子どもを産み育てるという若者はますます減っていくばかりだ。

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作品詳細

監督:キム・ドヨン
キャスト:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン
製作:2019年製作/118分/G/韓国
原題:Kim Ji-young: Born 1982
配給:クロックワークス
KANSAIPRESS編集部から

久しぶりに映画を観終わった後に沸々と怒りがこみ上げてきた。映画に怒っているわけではない。映画は最高に良かった。韓国映画界は今や世界に誇るほどだ。実は小説も半年前に買っていて途中まで読んでいた。私が怒っているのは、社会に、日本に、いや、この生きにくい、子育てがしにくい世の中に、だ。

私は3人の子どもの子育て真っ只中である。このストーリーの内容が私の今までの経験ともろに重なり、悲しさと怒りと、切なさと、そして自分1人の力ではどうしようもできない無力感に絶望するばかり。

 

さて、この作品を、特に45歳以上の今流行の一部の“昭和おじさん達”(失礼)が観て、どう感じるのか?純粋にこの人たちの感想を訊いてみたいと思った。

なぜかと言うと、この世代の母親の多くが専業主婦だったからだ。高度経済成長期の流れにより“男は外で稼ぎ、女が家を守る”ということがスタンダードだった時代であり、そのため、どこかで未だに、”女は家を守り、女が家事と育児をするのが当然である”という意識から抜け出せない人が比較的多くいるのも事実である。特に地方に行けば行くほど顕著だ。

そして、上の世代と今の若い世代との価値観の乖離によって社会システムがうまく回らずに今の母親たちを苦しめる原因ではないのかと。

 

時代は変わった。今は夫婦一緒に助け合って家事も育児をする時代である。もっというと子育ては夫婦二人で育てる必要もない。一人親でも子どもは立派に育つ。半分が一人親家庭であると言われるフランスや北欧のように。

 

学があり才能がある有能な女性が、好きで家庭に入るのは良いとしても、ほんとうは仕事を続けたい、やりたい事をしたいのに、世間の所謂”ベキ論”や仕事と育児を両立することが難しい環境により、彼女たちが働くことを泣く泣く諦めるということに対し憤りを感じる。

実際に私のママ友、彼女はとても優秀で才能もあるのに、保育園に入れず、子どもを預ける先が無いために泣く泣く専業主婦となり、キャリアを諦めるしかなかった。ただ彼女は聡明で優秀なので、子育てが落ち着くとすぐに再就職し、メキメキと頭角を現し今では大活躍しているが・・・。

子育て支援事業にもっと力を入れて欲しいし、今よりさらに男性の育休がスタンダードになり、社会全体で男性の育休が取得しやすい雰囲気を作っていかなければならない。

この作品は韓国の現代社会、いや日本、世界が抱える問題と希望を捨てずに生きていく女性たちのメッセージだと思う。是非男性たちにも見てほしい。そして原作を読んでいない人は是非読んでほしいと思う。

私の娘たちが大人になった時、もっと生きやすく、寛容な世界になっていることを切に願う。

文/86年生まれ、ゴトウマキ