【信友家の軌跡】老いと死を真正面から捉えた愛に溢れた作品『ぼけますから、よろしくお願いします。おかえり お母さん』

(C)2022「ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん」製作委員会
映画

広島呉市で認知症の母と老老介護する父の暮らしを、ひとり娘である信友直子監督が撮り2018年に公開されたドキュメンタリー「ぼけますから、よろしくお願いします。」の続編が3月25日から劇場公開されている。200万人を動員し観客を感動の渦に巻きこんだ前作完成後も、信友監督は東京と広島を行き来しながら90代の両親を撮り続けてきた。2018年、母の認知症はさらに進行し、ある日脳梗塞を発症し遂に入院してしまう。入院した母に面会するため、父は毎日1時間かけて病院へ通い、いつか母が帰ってくる時のためにと筋トレを開始。一時は歩けるまでに回復した母だったが、新たな脳梗塞が見つかり、病状は悪化する。そんな最中に訪れた新型コロナウイルスパンデミックによって、病院の面会すら困難な状況に。認知症とともに生きることの家族の苦労や日本が抱える高齢化社会の問題を炙り出しながらも、「生と死」、肩を寄せ合い歩む一組の夫婦と家族の物語が丹念に紡がれている。

高齢化社会、いつか訪れる「老いと死」を浮き彫りにしながらも、溢れ出す家族愛に涙が止まらない

本作は、映画に多くの人が求めるような粋な演出や洒落っ気な映像があるわけでもない。広島呉市に暮らす、年老いた両親と二人を支えるひとり娘の3人家族の記録がフィルムに収められている。現実の姿がありのままに撮られているため、正直目を逸らしたくなるような気持ちにもなる。全ての人間に訪れる‟老いと死”に、自分自身や自分の両親を重ね合わせてしまうから。だけど本作には夫婦の強い強い絆と、とびきり美しい生きる希望が詰まっている力強い作品でもある。これほどまでにこの作品に惹きつけられるのは、やはり信友一家の家族の人柄と、監督の思いがそうさせているのだろう。想像していた以上に素晴らしい作品だった。

(C)2022「ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん」製作委員会

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信友直子監督は監督・撮影・語りを担当、監督の「お父さん」「お母さん」とカメラ越しから呼びかける優しい声、映像から伝わる両親への愛と感謝の気持ちが溢れ出していて、見ている私はなぜだか涙が止まらなかった。

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本作に映し出されたこの一組の夫婦の姿は他人事ではない。そして今後さらに増える「老々介護」、本作にも出てくる「胃ろう」からも、死生観や終活について考えさせられる。
どれだけ年老いても、どれだけ辛い現実に直面しても、お母さんに寄り添うお父さんの姿、お父さんに労りの言葉をかけ続けるお母さんの姿に心が震える。夫婦の互いに敬う姿に切なくって、温かい気持ちに包まれる。
そう、本作は信友家の夫婦の生きた証、信友家の軌跡と愛の物語なんだと。
お父さん、120才まで生きてください。直子さん、どんな状況でもカメラを向け続け、素晴らしい作品を世に送り出してくれてありがとう。信友家に幸あれ!

(C)2022「ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん」製作委員会

ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん

監督:信友直子
プロデューサー:濱潤 大島新 堀治樹
語り:信友直子
製作:2022年製作/101分/G/日本
配給:アンプラグド

文/ごとうまき