【映画好きは必見!】珠玉のロードムービー『ノマドランド』あなたは何を感じる?

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
エンタメ

ゴールデングローブ賞“2冠”を達成しアカデミー賞の最有力候補のひとつと称される『ノマドランド』は「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。

ある映画評論家は「車上生活者の女性を描く本作には、魔力が宿っている。緊急事態宣言が明け、最初に公開される洋画大作。万難を排して映画館で鑑賞してほしい」と力説しているほど、今観るべき映画である。

本作は2020年・第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得。第78回ゴールデングローブ賞でも作品賞や監督賞を受賞。第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など6部門でノミネートされる。

本作はジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価されたテレンス・マリックの後継者ともとれる新鋭クロエ・ジャオ監督が手がけた。ジャオ監督は今後、マーベル新作「エターナルズ」も手がけるとのこと。中国出身の女性監督はいま、最も注目されている監督である。

動画でも本作の解説をしています。↓↓

あらすじ

ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、夫に先立たれ、さらにリーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家も町も失ってしまう(アメリカの場合は地方の大企業が破綻すると、郵便番号さえも無くなり町が消えてしまう)。キャンピングカーに亡き夫との思い出や、人生の全てを詰め込んだ彼女は“現代のノマド(放浪の民)”として車上生活をスタートさせた。

ファーンはAmazonの商品倉庫での仕分け、オートキャンプ場での雑用など、短期労働で当面の生活費を稼いではまた移動する生活を続けていく。その日その日を懸命に生きながら、旅先で出会う人々との出会いと別れ、その中で直面する生と死。大自然が描く圧倒的な映像美に加え、人間の本質や社会問題も散りばめられたロードムービーをドキュメンタリータッチで描く。車上生活での旅を通して彼女が見たものとは、得たものとは何かーー。

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実際のノマドが実名で出演

驚くことに、ファーンは創作された人物であるものの、彼女が流浪の先々で出会う車上生活者たちは実名で出演している。素人が出演することは珍しいことではないのだが、リアルなノマドたちの出演によって芝居とは違った説得力があり、ノマドたちの台詞一つ一つが重みのある言葉となっている。

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実在する現代のノマドたち、その多くが高齢者でそれぞれ深い悲しみや喪失感を抱えて生きている。「いつかどこかでまた会える」最後のサヨナラを言わないノマド生活はそんな彼らにとっては居心地の良い世界でもあるが、このような方法でしか生きることのできない切実な背景と同時にアメリカの社会問題も見え隠れする。

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「ホームレス」ではなく、「ハウスレス」

「ハウスレス」は「経済的困窮」に対し「ホームレス」は家族、友人の絆が切れた人々のことを意味していて似ているようで意味は異なる。つまり、「経済的困窮」のため季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送っている。
先述した通りノマド生活をする人の多くが高齢者でそれぞれ深い悲しみや喪失感を抱えて生きている。家を失い、車上生活をするしかない高齢な彼らにとっては過酷な労働環境であり、快適とは呼べない生活環境である。しかし一方で自然と一体化し、ありとあらゆるモノ、人に縛られない生き方、何かに開放される生き方はそれはそれで魅力的でもある。幸せの基準とは様々で人の数の分だけの人生があり、何を軸とするか、これも”個”、”自由”について考えさせられる作品である。

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静謐な映画、だけど心にずっしり響く

数年前から日本でもアドレスホッパーやバンライフという言葉を耳にするようになり、コロナ禍に特集が組まれたり、より注目を浴びるようになった。

土地や道の狭い日本ではバンライフを送るには簡単ではなさそうだけど、広大な土地を持つアメリカではバンライフは珍しくもないとのこと。そしてノマドはアメリカの昔の開拓者、アメリカの伝統的なライフスタイルでもあるらしい。

withコロナとともに、これまでの生き方や価値観、生活スタイルが大きく揺れ動いた私たちにとって、ノマド的な生活スタイルも新たなライフスタイルのひとつとして注目をされているが、本作は、映像は美しいものの、未来への希望などといったポジティブなメッセージ性は感じられなかった。

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劇中のポエムを詠むシーンが印象的である。雄大な自然の圧倒的映像美と伴に(「ゴッズ・オウン・カントリー」「ザ・ライダー」などを手がけた撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ)、音楽(「最強のふたり」や是枝裕和監督作「三度目の殺人」などのルドビコ・エイナウディが担当)がこれまた美しい。「ノマドランド」が作品賞を受賞するのではないかと言われている理由の一つにこの作品が劇場用映画であるということ。なんとも言えない後に引く感覚、もう一度観てみたいと思わせる作品だった。

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ノマドランド

監督・脚本:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー
キャスト:フランシス・マクド―マンド
製作:2020年製作/108分/G/アメリカ
原題:Nomadland
配給:ディズニー
文/ごとうまき