「死ぬ時に思い出す景色の中に、この作品があってほしい」――松岡充×丸尾丸一郎、8年越しの咆哮『UME-今昔不届者歌劇-』

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2026年、早春。大阪から世界へ、そして人の心の奥底へと……。松岡充と丸尾丸一郎が、8年ぶりにタッグを組む。2月末からCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて開幕するVol.M『UME-今昔不届者歌劇-』。2017年の衝撃作『不届者』をベースに、音楽劇(歌劇)として進化させた本作は、現代の保険金詐欺を巡る復讐劇と、江戸幕府第8代将軍・徳川吉宗の暗殺疑惑が交錯する壮大なエンターテインメントだ。なぜ今、この物語なのか。なぜ「音楽」なのか。
再始動の真意と、本作に懸けるふたりの「業(ごう)」を深く掘り下げた。

8年の歳月を経て「音楽」で対等に向き合う

ーー2017年の『不届者』から8年。このプロジェクト「Vol.M」が再始動したきっかけを教えてください。

丸尾
松岡さんと出会ったのは2012年、鴻上尚史さんの舞台『リンダリンダ』でした。主演を務める松岡さんの芝居に向き合う姿勢を間近で見て、「鴻上さんが引き出したものとは違う、僕の想像する松岡充を描いてみたい」と、公演中にご本人に伝えたんです。それが形になったのが5年後の『不届者』でした。

松岡
あの時は、ふたりの価値観をぶつけ合って、当時の僕らにできる最高傑作を作りました。でも、そこからの8年で世界は大きく変わった。パンデミックがあり、今もどこかで戦争が起きている。そんな時代を生きる表現者として、単なる再演ではなく「今、やるべき意味」を込める必要があると感じたんです。

丸尾
実は『不届者』の時、あえて音楽劇という形は避けていたんです。松岡さんは音楽のプロ。中途半端な知識で僕が踏み込むべきではないと思っていた。でも、この8年で僕自身も多くの音楽劇を経験し、今なら松岡さんと対等に「音楽」について話し、新しいものを作れるんじゃないか。そう思えたことが、再始動の大きな理由です。

現代の復讐者と「徳川吉宗」がシンクロする

ーー本作『UME-今昔不届者歌劇-』は、どのような物語になるのでしょうか。

丸尾
妻をひき逃げで亡くし、保険金詐欺の疑いをかけられた男・梅本(松岡)が主人公です。彼は謎の保険屋にそそのかされ、復讐のシナリオを渡される。そのシナリオが、徳川吉宗の物語なんです。吉宗には「兄たちを暗殺して将軍に上り詰めた」という黒い噂がある。梅本が吉宗を演じるうちに、現代の復讐と江戸時代の野望がシンクロしていく……。人生の悲喜劇を凝縮した物語です。

松岡
僕が演じる梅本と新之助(吉宗)、そして他のキャストが演じる役柄も、実はすべて「梅本」という一人の人間の中にある人格なんじゃないか、という解釈で向き合っています。今回のポスターもそういったものを表現しています。

異種格闘技のようなキャスティングと「引き算」の音楽

ーー今回、漫談家の街裏ぴんくさんや、フィリピン出身の歌姫Beverlyさんなど、非常に多彩な顔ぶれが揃いました。

丸尾
キャスティングは松岡さんと二人で、丁寧に突き詰めました。Beverlyさんは松岡さんのご紹介ですが、彼女の圧倒的な歌声が入ることで、作品が国際的な広がりを見せると確信しています。

松岡
角田/村垣左太夫(さだお)/家継(いえつぐ)を演じる街裏ぴんくさんは、R-1で優勝される前から注目していました。彼の漫談は完全に「一人芝居」なんです。人間の影の部分を笑いに変える力がある。僕が子どもの頃に憧れた笑福亭鶴瓶さんのような、面白さと怖さが同居する世界観を感じて、お声がけしました。

ーー音楽劇としての音楽面でのこだわりは?

丸尾
今回は“引き算”を意識しました。劇中には23曲ほど流れますが、核となるのは「津軽三味線」と「パーカッション」の生演奏です。

松岡
西洋の音階ではない、日本人の肌になじむ音。三味線は単なる伴奏ではなく、楽器自体が歌っているんです。ボーカリストとして、三味線とのデュオのような形で歌うのは非常に挑戦的で面白い。さらに、今まさに僕がテーマソングを書き下ろそうとしています。稽古で生まれた感情をそのままメロディと歌詞に落とし込みたいので、ギリギリまで粘っています。

和歌山、そして世界へ。メイド・イン・ジャパンの誇り

ーー大阪公演のあと、和歌山公演も控えていますね。

松岡
吉宗の故郷である和歌山(紀州藩)での公演は、『不届者』の時からの念願でした。今回は行政や地元企業も一丸となって盛り上げてくださっています。会場に着いた瞬間からその世界観に浸れるような、仕掛けも計画中です。

丸尾
昨年、僕は劇団鹿殺し初の海外公演、エディンバラ・フェスティバル・フリンジに挑戦し、手応えを掴みました。日本の演劇が、言語の壁を越えて世界に通用することを証明したい。この『UME』も、海外を意識した演出を詰め込んでいます。

松岡
僕も30周年を迎え、50代半ば。いまの活動も命も“いつか終わる”ということを意識するようになりました。危機感のようなものも感じています。それに「次に繋がりそうだから」といった理由で作品を選ぶことはなくなりました。死ぬ間際に思い出す景色の中に、この作品があってほしい。そう思えるものにしか参加したくないんです。僕らは今、情報が溢れる中で“何が正解か”を問いながら、迷いながら生きています。この舞台では、悪役だと思っていた人が別の視点ではヒーローかもしれない、という視点の切り替えを描いています。それは今の世界情勢にも通じることだと思うんです。

ーー最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

丸尾
松岡さんは、常に「この表現は本当に正しいのか」と疑うことを忘れない。楽な方を選ばず、あがき続ける。そのエネルギーをすべて作品に注いでいます。僕たちが1ヶ月間、泥臭くあがいた先に生まれるものを、ぜひ目撃してください。

松岡
演劇は可能性の塊です。でも、安易な慣れに逃げ込みやすい世界でもある。僕はそこに入りたくない。この舞台で時代を変える。届かなかった人にメッセージを届ける。そんな「本物の日本の演劇」をここで見せると決意しています。期待していてください。

【公演情報】

Vol.M『UME-今昔不届者歌劇-』
* 大阪公演
* 2026年2月27日(金)~3月1日(日)
* COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール* 和歌山公演
* 2026年3月7日(土)
* 紀南文化会館 大ホール脚本・演出: 丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
振付: 辻本知彦
主演: 松岡充
出演: 街裏ぴんく、阪本奨悟、雷太、Beverly、⼤平峻也、山田ジェームス武、藍染カレン、橘輝、仲⽥博喜、丸尾丸⼀郎
撮影:松本いづみ

取材・文:ごとうまき