【怒髪天・増子直純ロングインタビュー】この4人で1日でも長くバンドをしていく!「俺はバンドではなく、怒髪天がやりたいんだ!!」

アーティスト

熱い情熱と強いメッセージを込めたロックバンド・怒髪天が3月22日にニューアルバム「more-AA-janaica(モウ エエジャナイカ)」をリリースした。初回限定盤には、今作の楽曲から着想を得たアートでモードでシュールな撮り下ろしの写真集が付属、6曲全てに彼らの熱い思いが詰まっている。今回はボーカル・増子直純にインタビュー。アルバムやツアーについて、そしてメンバーへの思い、40周年を目前にした怒髪天の軌跡を辿る。希望や勇気を与え、常に聴衆の心を揺さぶり続ける彼らの源とは何なのだろうか——?

モウ我慢の限界!幕末の熱狂に重ねたタイトル「more-AA-janaica(モウ エエジャナイカ)」

——変顔浮世絵に80年代のUKロックが融合した北斎テイストのジャケット写真が素敵です。アルバムに込めた思いは?

増子
ジャケットは今作のアルバムタイトルのmore-AA-janaica(モウ エエジャナイカ)とリード曲『令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜』のイメージでデザインしてもらった。世の中はいま、我慢の限界にきている。令和の今こそ“ええじゃないか”を起こそうぜ!!という感じかな。

——中でも『令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜は、今の私たちの叫びを具現化していますよね。

増子
俺はめちゃくちゃ怒ってるからね。ロック、パンクはこうした怒りや不安、鬱々とした気持ちをリアルに叫んで声を上げるものだと思ってるからね。普通に暮らしてたら、皆思うところは絶対にあるはずなのに、言わない人が多すぎるよね。Go 自愛』は、55歳も過ぎるとまわりの大切な人が死んじゃうことがふえてくる。その度にもっと自分にしてあげられたことはなかったのかなって後悔するけど、結局できることって何もないし、やる必要もないんだって。出来ることがあるとすれば、自分のことを大切に思ってくれていたその人のために、無理したり頑張ったりしないで今のままの自分で生きていくことなんじゃないのかなって。

——今作はいつも以上にストレートで強いメッセージが込められています。

増子
昔はもう少し表現を柔らかくして書いていたけど、ここ数年で思ったのは、はっきりと言わないと伝わらないということ(笑)。本当は怒りたくもないし、楽しい歌だけ歌っていたいけれど、世の中がそうさせてくれない。この2〜3年でいろんなことが露呈したし、もう日本は復活出来ないんじゃないかって悲嘆している。パンが5個入りから4個入りになり、ピザは小さくなってさ…。世の中がこんな状況なら言わずにいられない。皆同じように思っているのだと思っていたけど、意外とそうでもないの?こんなふうに感じてるのは、俺だけなの?という気持ちを書いたのが『ジャナイWORLD』。特にこの間の選挙には失望した。みんなもっと危機感を持っていると思ってた。俺らなんか、あと何十年も生きることはないけれど、若い世代や子ども達が可哀想だよね。

——写真集『DA・SO・KU』もそれぞれの曲をイメージして撮り下ろしされたとのこと。

増子
写真集は、タイトル通り蛇足なんだけど(笑)、特に坂さんがカツラ被った写真の撮影が一番時間がかかったね。北海道の大先輩のフラットバッカーっていうバンドをオマージュしたんだけど、怒髪天を知らない人がバンド名からイメージするならこういった感じかなって。で、検索して出てきたら想像してた通りのこの写真!きっと面白いだろうなって。

自分たちの音楽を愛して、慕ってきてくれる人たちの生活の中で多少でも生きる糧の一部になれたら。

——そんな新作アルバムを引っ提げて、5月10日から千葉LOOKを皮切りにライブツアーが始まりますね。コロナ禍を通してライブへの価値観も変化しましたか?

増子
コロナ禍でのライブは大変だった。せっかく高いお金を出して来てくれているのに、マスクして声出しNG。ライブは本当はもっと楽しいものなのに、申し訳ないという思いがあった。だからこそ、もっともっとできることをやらねば、との思いで活動してきた。音楽や創作活動は“人の為に”やるものではない、そうなった途端に胡散臭くなってしまうと思っているし、ただ自分が楽しくて、やりたいことだけをずっとやってきた。だけどね、震災の時もそうだったけどこのコロナ禍でさらに価値観は一変した。自分たちの音楽を愛して、慕ってきてくれる人たちの生活の中で多少でも生きる糧の一部になれたらって。

——やっとコロナ禍前の光景が見られそうですね。

増子
お客さんと長年育ててきたコール&レスポンスを本来の形でできることは凄く喜ばしいこと。曲の良さが二倍にも三倍にもなる。新曲もどう育っていくのか、とても楽しみだよね。

こんなにバンドやっているなんて思いもしなかった

——今年で結成39周年、長く続けてきた根底にあるものはなんですか?

増子
やっぱり楽しいからかな。そんなに儲からないのにやれているってのは、メンバーが仲良いからだよね。常に新しい発見があるし、ツアーを同じセットリストまわっていても、その時々によって全く違うし、これ以上楽しいことはないよ。スタジオでリハをやるだけでも楽しいし。3年間活動休止していた時に、他のバンドからボーカルやらないか?って誘われたけど、断った。結局、この4人でバンドをやるのが楽しいんだな、って再認識した。そりゃ一緒にやってりゃ腹立つこともあるよ。でもこの4人じゃなきゃできないことがあるんだよね。メンバー全員が言っていることだけど、こんなにバンドやるなんて思いもしなかった。俺なんかバンドで食えるようになるなんて思っていなかった。そもそも札幌でオヤジの会社を手伝いしながら月の半分働いて、残りの半月はバンド活動をできたらいいやって思っていたからさ。

——25歳で上京、30歳で活動休止、3年間でいろんな仕事をされたんですね。

増子
札幌にいた周りのバンドが皆行くからって、結局8バンドぐらい、さらにメンバーの彼女や友達も含めるとものすごい人数で上京してきた。ただバンドブームの終焉後に上京したからえらい目にあって、結局30歳の時になんとなくいきづまって活動休止したんだよね。活動休止中は、穴あき包丁の実演販売やったり、雑貨屋の店長やったりとそれはそれで楽しかった。実演販売をしている時なんか、全然知らないおばちゃんが信用して買ってくれたり、差し入れ持ってきてくれる人がいたり…。普通に生活してる人たちの優しさが身に染みた。それまでは確証もなく世間に対して中指立ててたけれど、俺らが言ってたことは絵空事、地に着いてない部分も沢山あったんだなって思った。

ロック的なかっこよさにはもう全く興味もないし、価値も感じていない

——そしてこの活動休止期間が、後の怒髪天に大きく影響しているんですね。

増子
いま俺が思うリアルを歌詞に書いて表現していくことがロック。だけど今の日本で暮らしていると、俺が思うリアルとロックのかっこよさがどんどん乖離していく。だけどロック的なかっこよさにはもう全く興味も価値も感じていなくて、特に役者の仕事をするようになってから、より強く思うようになったね。役者は演じることが大事だけど、バンドは演じてはいけない。自分の裸を曝け出すことにしか価値がないんだと思う。

——そういった心境の変化が音楽にも現れた。怒髪天の王道JAPANEASE R&E(リズム&演歌)にも影響しているんでしょうか。

増子
世界中のどのロックバンドを見ても、自分の国の土着的な音楽や血を流れているものがミックスされている。70年代以降、日本はロックを輸入しただけで土着的な部分が削ぎ落とされ、いかに洋楽に近いかが良いとされてきているけれど、それって絶対に違うと俺は思う。やっぱり日本人の血に流れている歌は演歌なんだよね。失恋したら北へ行くという、演歌の世界観も日本人の共通認識だし。そこをもっと組み込んでいくことが、日本人がやるロックだと思ってる。

——これまでの怒髪天の歌で影響を受けた人も多いはず。これまでに届いた印象的な声は?

増子
一番多いのは会社辞めました、っていう声や手紙をもらう(笑)。すっごい責任感じるよね。そんな若くないんだから無茶すんなよって(笑)。でも僕もずっと楽しいことしかやってこなかった。ドキドキワクワクするために生きているし、人生ってそのためにあると思っている。もちろん、ドキドキワクワクする為の苦労も沢山あるけど、それは苦ではないなぁ。

いろいろあったけど、怒髪天の4人でないといけないんだ

——怒髪天の4人が出会って30年余り。若い頃から紆余曲折を共にしてきたメンバーとの関係性を例えるならどんな感じですか?

増子
ある時は軍隊、ある時は動物園、ある時は学校でもあり幼稚園でもある(笑)。その時々によって関係性って変わるけど、やっぱりかけがえのないメンバーではあるよね。若い頃に現場仕事してて、仕事終わったら、よく皆コンビニのビール買って飲んでたんだけど、今もリハーサル終わりにコンビニでビール買って飲んでいる。職業変わっただけで、やっていることは若い頃から恐ろしいほどに何も変わっていないんだ(笑)。

——改めて他のメンバーに対してどんな思いをお持ちですか?

増子
ギターの友康(上原子友康)は、音楽の総監督だけあって凄い才能あるし、ギターも巧い。優しいし、怒ったところも見たことないんだけど、ニコニコしながら人の話は全然聞いていないね(笑)。ベースのシミ(清水泰次)は2学年下で、活動再開する時もアイツがやりたいって言ってくれたし、だらしない部分もいっぱいあるけれど、一緒にやっていて楽しいし、いい奴だよ、飲まなければね(笑)。ドラムの坂さん(坂詰克彦)は何も考えてないよね(笑)。昔は器がでかいと思っていたけど、そうじゃない。ここ真っ直ぐ歩いて行って、って言ったら、そのまま歩いて崖から落ちるようなくらい馬鹿正直な人間だからなぁ(笑)。

今の4人で1日でも長くバンドをやっていきたい。

——今後挑戦してみたいことなどはありますか?

増子
これまでやりたいことは全部やってきたからなぁ。それに後悔もないよ。あるとすれば、怒髪天の4人で1日でも長くバンドをやっていきたい。バンド以上に楽しいことなんてなかなか無いからね。もちろん、失ったもの、得られなかったものもいっぱいあるけれど、それを差し引いてもバンド活動は楽しい。それに、やっぱりバンドがやりたいというより怒髪天をやりたいってことを痛感しているよ。怒髪天を知らない人にとっては無価値かもしれないけれど、自分にとっては人生そのもの。そんな俺達のことを好きでいてくれる、応援してくれる人たちへの感謝の気持ちは計り知れない。ライブもやっと一緒に歌える状況になってきたし、これまで一緒に歌って育ててきた曲が本来の形に戻る!会場で一緒に汗かいて楽しもう!

最新アルバム「more-AA-janaica」詳細はコチラ▶怒髪天 / IMPERIAL RECORDS (teichiku.co.jp)

ツアー情報怒髪天オフィシャルウェブサイト (dohatsuten.jp)

インタビュー・文・撮影/ごとうまき