彼らは、いつ「兵士」になったのか——封印された日記が明かす、戦場への静かな道のり

役者による戦中日記の朗読
ドキュメンタリー

映画『豹変と沈黙_日記でたどる沖縄戦への道』が全国順次公開中だ。戦争を語る言葉は、いつも雄弁だ。だが、戦争を生きた人々の多くは、沈黙した。
本作が向き合うのは、その「沈黙」の中に封じ込められた、4人の男たちの声である。彼らが残したのは、日記。戦場で綴られた、ごく私的な記録。そこには、教科書には載らない戦争の姿が刻まれていた。

書家による表現ー牛島満旅団長の南京戦時の命令

普通の青年が、いかにして兵士へと変わっていったのか。

1937年、盧溝橋事件を機に拡大した日中戦争。徴兵された若者たちは、否応なく戦場へ送り込まれた。映画は、名もなき3人の日本兵と、1人の沖縄出身者の日記を丹念に朗読することで、彼らの内面の変化を追っていく。

最初は戸惑い、恐れ、ためらっていた若者たちが、次第に感覚を麻痺させ、命令に従い、人間性を損なわれていく——その過程を、日記は静かに、しかし痛々しいまでに記録している。
「豹変」とは、戦場が人を変えるという残酷な真実を指す言葉だ。「沈黙」とは、戦後、彼らが体験を語れなかった、語らなかった長い時間を意味する。

役者による朗読シーン

戦争を「体験」ではなく、「記録」から読み解く試み

監督の原義和は、前作『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』で、歴史の中に埋もれた声を掘り起こすことに挑んだ。本作でも、その姿勢は一貫している。
元日本兵たちの日記という一次資料に徹底的に向き合い、そこから戦争の実相を浮かび上がらせる。感情的な演出や過剰な音楽に頼らず、ただ言葉を読み、事実を積み重ねることで、観客は歴史の「当事者の視点」を追体験する。

いま、なぜこの映画を観るべきなのか

戦争体験者が次々とこの世を去り、「記憶の継承」が叫ばれる時代。だが、私たちは本当に戦争を知っているのだろうか。この映画は問いかける。戦争は「起きるもの」ではなく、「起こされるもの」だと。そして、ごく普通の人間が加害者にも被害者にもなりうる、その恐ろしさを。
日記という極めて個人的な記録が、やがて普遍的な真実へと昇華していく——その体験は、静かだが、圧倒的だ。歴史は、沈黙の中にこそある。この映画は、忘れてはならない記憶を、静かに、しかし力強く私たちに手渡してくれる。

元日本兵の息子と虐殺被害者の娘ー2世同士が握手

映画『豹変と沈黙_日記でたどる沖縄戦への道』原義和監督作品|ナレーション:相沢舞

全国順次公開中
• 大阪 第七藝術劇場|10月11日(土)より公開
• 熊本 Denkikan|10月17日(金)〜23日(木)
• 神奈川 シネマ・ジャック&ベティ(横浜)|11月15日(土)より公開
• 埼玉 深谷シネマ|11月16日(日)〜22日(土) ※18日(火)休館
• 沖縄 桜坂劇場|12月6日(土)より公開
舞台挨拶など最新情報は公式Facebookにて

文:ごとうまき