【ロジャー・ミッシェル監督遺作】1961年に実際に起きたゴヤの名画盗難事件の知られざる真相を描く『ゴヤの名画と優しい泥棒』

(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
映画

1961年のイギリスを表現した粋な演出とミッシェル監督の気概が滲む作品

2021年9月にこの世を去った「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督がメガホンをとり、彼の長編劇映画の遺作となる本作は、1961年、世界の名だたる美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた事件の真相をユニークかつドラマティックに描いている。2月25日から全国劇場で公開中。
この事件の犯人は60歳のタクシー運転手。長年連れ添った妻とやさしい息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトンは、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企んだ。が、この事件には実は驚くべき新たな真相が隠されていた。

お人好しで他者思い、ユーモアとエスプリが効いた可愛いおじいちゃんケンプトン・パンプトン、それに振り回される妻のドロシー、夫婦の哀しい過去と、愛すべき者を守るための“ある行動”に涙腺が緩む。

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あぁ、なんて痛快な脚本、爽快で小粋な演出なんだ!と思わず叫びたくなる本作、ラスト35分ぐらいからは物語の面白さに拍車がかかる。とくに法廷シーンは観客も傍聴席に座ったような感覚となりケンプトンを見守るだろう。彼が発する小気味良いセリフには思わず吹いちゃう(弁護士が良い味出してた)。

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センスの良いお洒落な音楽と、60年代のイギリスを体現した映像やカット割りが絶妙に効いている。
本作の描かれた1961年は、今公開中の「ウェスト・サイド・ストーリー」の旧作が公開された時の話のため、作中でも「ウェスト・サイド物語」に触れられて、口元が思わず緩む。
ゴヤの絵が盗まれた真相が2000年以降のイギリスの政策に繋がっている部分も重要なポイント。
ドロシー演じたヘレン・ミレンは今作ではtheおばあさんな役だけど、(ワイルド・スピードジェットブレイクではキレッキレのマダム役で登場)やはり上品な美しさは健在!こんな風に歳を重ねたいと思わせてくれる筆者の憧れの女優の一人である。
笑ってほろっと泣ける素晴らしい作品を遺し、天国へ旅立ったロジャー・ミッシェル監督、ありがとう。「ノッティングヒルの恋人」また見直さないと!

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ゴヤの名画と優しい泥棒

監督:ロジャー・ミッシェル
脚本:リチャード・ビーン クライブ・コールマン
キャスト:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、マシュー・グード
原題:The Duke
製作:2020年製作/95分/G/イギリス
配給:ハピネットファントム・スタジオ

文/ごとうまき