SF×ラブコメ×哲学!? 甘くて切ないドイツ映画『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』

(C)2021, LETTERBOX FILMPRODUKTION, SÜDWESTRUNDFUNK
エンタメ

1月14日に公開された映画『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』が全国上映中。これはSFなのか、ラブコメディなのか、それともヒューマンドラマなのか? たぶん、全て兼ね備えているという回答が正しいだろう。そしてこれは創造的で哲学的な作品だと。 ロボットとの恋といえば 「アンドリューNDR114」や「her 世界でひとつの彼女」などを筆頭に数多くの作品が、人型ロボットが人間にとっての理想の伴侶になるか?をテーマに描いてきた。 本作はそんな過去の作品とは一味違った、人生の奥深さや生きることへの様々な課題、さらには近未来の私たちの姿に対しての疑問を投げかけている。

あらすじ

ベルリンの博物館で楔形文字の研究をしている考古学者のアルマは研究資金を稼ぐため、ある企業が実施する極秘実験に参加することに。その内容とは全ドイツ人女性の恋愛データ及びアルマの性格とニーズに完璧に応えられるようプログラムされた高性能AIアンドロイドと3週間過ごすという内容だった。アルマの前に現れたハンサムで穏やかな好青年トム。このロボットはイギリス訛りのドイツ語を話し、豊富な知識とデータを網羅しあらゆる恋愛テクニックを駆使してアルマにアプローチしてくる。トムは過去の恋愛などで傷ついたアルマの心にどのような影響を与えるのかーー。 ハンサムな人型ロボットトムを実写版「美女と野獣」のダン・スティーブンスが、アルマを「まともな男」のマレン・エッゲルトが演じ、2021年・第71回ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞を受賞。2人の実証実験を見守る相談員を「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが演じた。

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イケメンロボット=トムを演じたダン・スティーブンスの演技力に舌を巻く

アルマを幸せにするために作られたトム、アルマが喜ぶだろうととった行動が空回りしたり、アルマから想定外の反応が返ってきた時の彼の反応がなかなか可愛い。ロボットでありながらも時折見られる“人間らしさ”が絶妙なバランスでアルマの乙女心に訴える。トムを演じたダン・スティーブンスの目の動き、首の傾け方、表情ひとつとっても本当にアンドロイドのように思わせてくれる演技の巧さに舌を巻く。

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近未来に思いを馳せる

ハンサムで優しくて頭も良い。毎日甘い言葉で愛の言葉を囁いてくれ、エスコートなんてお手のもの。その上何でもできて的確なアドバイスもくれる。欲求を全て満たしてくれるパーフェクトな彼。だけど彼は生身の人間じゃないーー。 「私もこんなのが欲しい!たとえロボットだとしても・・・」物語の途中で何度思ったことか(笑) だけど、生身の人間との触れ合うことの喜びや時には苛立ちなど様々な感情と幸福が生まれる楽しさも煩わしさも知っているがゆえに、ロボットとの共生は少し躊躇うだろう、私は。人生って夢や喜びや希望があってこそ日々を頑張れるわけで、、、、。 物語の後半にアルマが企業に出した報告書が本質をついている。 とか言いながらもラストには矛盾した展開が待っている。ここにアルマの、人間の近未来に対する“葛藤”が描かれているのだろう。 近未来を表す“アンドロイド⇔考古学”、‟アンドロイド⇔野原や野生の鹿”、“父の介護や過去の悲しみや研究の成果”⇔“何不自由なくスムーズに送れるアンドロイドとの生活” 、近未来と過去、人工と自然、困難と平易が巧く対比され描かれている。 ベルリンを舞台に描かれた映画を見たのは『水を抱く女』ぶり。両作ともに似たような雰囲気がある。私はベルリンという街が好きみたいだ。早く気軽に行けるような日々が訪れて欲しい。

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アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド

監督:マリア・シュラーダー
脚本:ヤン・ショムブルク マリア・シュラーダー
製作:リーザ・ブルメンベルク
キャスト:ダン・スティーブンス、マレン・エッゲルド、サンドラ・フラー、ハンス・レーブ
原題:Ich bin dein Mensch
製作:2021年製作/107分/PG12/ドイツ
配給:アルバトロス・フィルム

文/ごとうまき