レクサスオーナーに愛されるホテルで学んだ『究極のおもてなし』著者 馬渕博臣氏インタビュー

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おもてなしは人生を変える

長野県蓼科のリゾート地に、トヨタグループが運営する唯一のホテル「テラス蓼科リゾート&スパ」がある。地元では“トヨタのホテル”として知られるテラス蓼科は、トヨタウェイとおもてなしが融合したリゾートホテルと評判だ。ホテルの随所に、トヨタのおもてなしのエッセンスが散りばめられている。このテラス蓼科で、2005年の開業から関わり、2021年の支配人を最後に退職したのが馬渕博臣氏だ。この馬渕氏が2022年3月、KADOKAWAから「レクサスオーナーに愛されるホテルで学んだ究極のおもてなし」を出版した。

日本で一番多くのトヨタマンを身近で見て接してきた人物として、また“人の心をつかむプロフェッショナル”として本書では語られなかったエピソードを語ってもらった。

ーー本書発売後、トヨタマンやテラス蓼科のスタッフの反応は?

馬渕さん
本書を手にしたトヨタのOBの方たちが、感想を沢山書いて送ってくださって。トヨタマンは誠実なんですよ。トヨタマンにとって思い出の土地である蓼科、その軌跡を記録にして残してくれて本当に良かったと言ってくださいました。一方で、テラス蓼科のスタッフたちからはプレッシャーだという声も(笑)。たしかにハードルがあがりますよね。‟伝説に終わらないように私たちも頑張りたい”と言ってくれています。

現役のトヨタマンやOBの方からは「おもてなし側面からのトヨタウェイへの切り口の数々を我が身の反省と共に学ばせていただきました」「自由闊達、古き良き時代のトヨタに思いを馳せながら楽しんで読めた。おもてなしは交換できない、は究極の覚悟」などといった嬉しい声が届いたそうだ。

実は「本書を書くことに、一瞬迷った時もある」という馬渕さん。本書の編集に関わった方々からの「レジェンドの馬渕さんがいなくなった後のテラス蓼科スタッフのために、想い出を刻んだトヨタのみなさんのためにも伝えるべきだ」という一言によって腹を決めたという。

ーー読者の方たちからはどういった声が寄せられていますか?

馬渕さん
‟おもてなしのコツが参考になった” ‟すぐに使えるメソッドが満載”といった声が多い。おもてなしは仕事だけではなく、人間関係全般にも使える。例えば老人ホームに入所する女性の読者からも「ご親切は宝物。私の老人ホームの人間関係にも役に立ちます。どこまでいっても人は愛に尽きますよね。」といった感謝の声が届いたりと、これを書いた私自身が参考になりました(笑)。

著書発売後は講演会の依頼も急増、テラス蓼科での16年間と34年間のおもてなし業で培ったメソッドを広めているが、旅行業界や弁護士事務所、自治体行政の方たちなど、あらゆる業界業種から引っ張りだこだ。

“おもてなし”は時として人の一生を預かる尊い仕事

馬渕氏は14歳のときにホテルでアルバイトをしたのがサービスマンとしてのデビューだったという。大学時代は居酒屋チェーンなどでアルバイト、希望の就職先には入れなかったが飲食チェーン、都市ホテルなどで腕を磨いてきた。2005年に奉職したテラス蓼科の16年を加えると、30年以上サービスマンとして働いてきたわけだ。「おもてなしによって得られる感動や喜びを積み重ねていくうちに(サービス業を)やめられなくなった」と話す。

馬渕さん
カタチのない商品であるおもてなしは、お客さまからめちゃくちゃ感謝されるんですよね。カタチある商品を何も渡してないのに。あらゆる方策を考え抜いて、“おもてなした”後のお客さまからの“ありがとう”は何者にも代え難い喜び。本書の俳優・菅原文太さんや外科医のお客さまのエピソードにあるように、お客さまの人生の大切なシーンに立ち会い、時にはその人の人生さえも変えることになる。このようなエピソードを折々で経験しているんです。そうすると、いつのまにか仕事がやめられなくなる。とか言いながら昨年退職していますが(笑)

これからその具体的なエピソードを紹介したい。

著書には書かれなかった感動エピソード

おもてなしがもたらす至上の喜び、著書では紹介されなかったエピソードを二つ紹介したい。一つは馬渕さんが19歳の時、大学受験の前日に泊まったホテルで出会った初老のベルマンの存在だ。

馬渕さん
僕が大学受験で東京に行った時の話ですが、受験日の前日にあるホテルに泊まったんです。その日はすごく緊張していて、調子の悪そうな顔をしていた。そんな時、初老のベルマンが『明日は大学受験ですか?焦っているのはみな同じ、大丈夫』と声をかけてくれた。その一言で、一気に緊張が解れた。僕はあの光景がずっと忘れられない。ホテルマンの一言が、人を変える。人の歩む道も変える、尊い職業なのだと。この経験を機に、ホテルマンの仕事を強く意識するようになりました。

2つ目は、27歳の時に長野県白馬のリゾートホテル「おもしろ発信地」の再建業務に携わった話だ。

馬渕さん
銀行管理案件でリオープンを目指すそのリゾートホテルは毎日クレームの嵐だった。ある日、宇都宮から家族連れで写真家の方が宿泊された。食事は冷凍肉のすき焼きかしゃぶしゃぶのみ、部屋の中には蜘蛛の巣が張っているし…。当然のごとく、そのお客さまからもクレームが寄せられた。だけど、その方に真摯に対応していくうちに、いつの間にか仲が良くなって、後日そのお客さまから感謝の気持ちが綴られた手紙が届いたんです。

馬渕さん
その手紙は今でも大切に保管しています。ホテルのハードがどうであろうと、お客様に真心で接すれば、お客様は必ず応じてくれる、感動してくれるんだと体感しました。そしてこのような感動エピソードがテラス蓼科では数えきれないほどあった。

「どんな状況でもお客さまへの対応一つで感動へと変えられる、と実感できた」と馬渕さん。 その後、宇都宮まで写真家を訪ね、感動の再会を果たしたという。

0歳からおもてなしに触れる

 原点は美容師の母

 馬渕さんはテラス蓼科を退職後、ホテルやレストランのコンサルタント、起業スタートアップ支援、生ハム事業などの6次産業化支援など多岐にわたる活動に関わっている。そのいずれでも本書にも表現がある「返品が効かない商品であるおもてなし」の大切さを説いている。また、“究極のおもてなし”の新しい武器を手に入れるため、東京鮨アカデミーに今年1月〜3月まで通学し、寿司職人の技術を習得。出張ソムリエに加えて出張寿司職人としても(寿司を握り、ソムリエとしてワインも合わせ、おもてなしをする)新境地の開拓も進めている。

馬渕さん
起業支援や事業支援もまた違った分野の“おもてなし”なんですよね。とはいえ、経営やマネジメントもいいけれど、やっぱり自分自身がおもてなしプレイヤーになることも好き。だから単なるソムリエだけではと考え、寿司職人も目指しました。

 豊臣秀吉が生まれた地・愛知県名古屋市中村区太閣で生まれ育った馬渕さんは、その地で美容院を営む母の背中を見て育った。

馬渕さん
母が商店街の一角で美容室を営んでいて、僕は0歳から母の店に来るお客さんたちを見てきたんです。客層は風俗や水商売で働く女性や離婚してめちゃくちゃになった人とか、女装をした人など多彩でユニーク。その光景を僕は物心ついたときからずっと見てきた。中には髪を切ったりするわけでもなく、ただ母と喋って満足して帰っていく人も沢山いた。あぁ、母は“商売”としてではなく、真心で接していたんだなと。

 ーー本書を読んでお母さまはどんな反応を?

馬渕さん
喜んでいました。感動と同時に驚きもあったみたいです。私の仕事のことは母に話していなかったので。だけど“おもてなし”は母にとって当たり前のこと。母は今も美容院を営んでいますが、お客さんとの親密な関係が50年以上も続いている。引っ越しても電車で2時間かけて来てくれるお客さんもいるんです。

 馬渕さんの生まれ育った街は、名古屋商人(尾張商人)の心意気を継承する街として知られ、店の都合ではなくお客さんに合わせて商売をする店が多い。そんな中で育った馬渕さんにとって“おもてなし”はごく自然なことだったようだ。

 おもてなし=一期一会

馬渕さん
おもてなしとは、顧客のリクエストを100%汲み取り、100%繋げること。究極のコミュニケーションであり、真心を込めて接すれば、人は応えてくれるんです。

 著書「レクサスオーナーに愛されるホテルで学んだ究極のおもてなし」にはテラス蓼科でのお客さまとの感動エピソードのほか、伝統のクレーム対応、具体的なおもてなしメソッドとともに、“トヨタイズム”も感じられる。仕事だけでなく日常生活や人間関係など、幅広く活用できるだろう。一人では生きていけない人生の真髄が描かれている。

上念司&馬渕博臣 出版記念トーク対談開催決定!

6月27日(月)に経済評論家・上念司と元株式会社トヨタエンタプライズ・テラス蓼科リゾート&スパ支配人・馬渕博臣による出版記念トーク対談が開催!皆さまのご参加お待ちしています!

 

イベント名: 上念司&馬渕博臣 出版記念トーク対談

日時:6/27(月) 19:00〜20:30 参加費:3,000円

定員:30名

会場:株式会社リンクス セミナールーム 大阪市中央区平野町1-7-3 BRAVI北浜3階

チケット:上念司&馬渕博臣 出版記念トーク対談 in大阪 – パスマーケット (yahoo.co.jp)

馬渕博臣プロフィール

世界で唯一のトヨタグループ運営ホテル・テラス蓼科リゾート&スパ元支配人(マーケティング戦略担当)。愛知県名古屋市生まれ。14歳にして地元ホテルで“日本最年少ホテルマン”デビュー。35年以上にわたり、おもてなしサービス業に従事。2005年よりテラス蓼科開業プロジェクトチームに参画。開業よりスタッフ教育やトヨタグループVIP顧客のおもてなしを主に担当。トヨタグループや他企業の飲食事業、宿泊、グランピング施設のプロデュースにも従事。2021年2月、ホテル運営会社である株式会社トヨタエンタプライズ退社。現在、ホスピタリティソリューションカンパニー、株式会社Minaera代表取締役。日本ソムリエ協会認定ソムリエ・エクセレンス。

 

インタビュー・文/ごとうまき