「4K修復版」でリバイバル公開中『戦場のメリークリスマス』から紐解く【軍隊と男色】

(C)大島渚プロダクション
エンタメ

わたしには“全く響かなかった”、“理解できなかった”というのが予備知識などなく本作を観た一回目の感想。『戦場のメリークリスマス』は1983年に公開され、大島渚監督が第2次世界大戦中のジャワの日本軍捕虜収容所を舞台に、日本軍人と西洋人捕虜との関係を描いたヒューマンドラマで、本作は2021年4月にデジタル素材に修復した「4K修復版」でリバイバル公開されている。

なんというか、私は日本軍の鬼畜ぶりに終始イライラしっぱなし、彼らの、いや、戦争の愚かさ、おっかなさ。さらに洗脳の恐ろしさと、自分の正しさを信じて疑わないことの恐ろしさがありありと描かれている。

ところが、鑑賞後に詳しく調べると、なるほど!と、鑑賞時にひっかかっていたすべての謎が解けた。日本軍の鬼の所業にばかり意識をとられていたが、本質はそこじゃない。本作の一番のポイントは戦時中のエリート日本人兵ヨノイの連合軍捕虜の美青年セリアズ少佐捕虜に対する恋心と葛藤が描かれている。さらに極限状態におかれた人間達の本質や複雑に絡み合う心境を、西洋と東洋の文化の違いや思想などを絡めながら描かれているのが非常に興味深い。

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反戦と男の友情(愛情)と赦し

戦闘と性欲は密接な関係にあるのかもしれない。

舞台は戦時中で男色はタブーだった。本作の冒頭でも西洋人捕虜にちょっかいを出した日本軍のカネモトが切腹(実際の記録では男色行為だけでは切腹にまでは至らなかったそうだ)している。ヨノイの狂気に満ちた行き過ぎた行動は自身のセリアズに対する恋心への自制心と葛藤からきているのだろう。

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性欲というものは人間の三大欲求の一つ、ましてや10代20代の猿のように性欲旺盛な青年たちが戦時中にどのように処理をしていたのかというのは興味深い。女性がいないと自然と男色行為に走るのは仕方ないコトだしバイセクシャルの人の確率から見ても当然っちゃ当然である。

実際に男色行為は兵士や士官の間で蔓延していたらしい。民俗学者フリードリヒ・クラウスが刊行した『信仰、慣習、風習から見た日本人の性生活(1907年)』の中で「彼らが死を恐れなかったのは戦闘精神や死を軽んずる考えの発露ではなく、他の兵士に対する深い愛からなされたものである。兵士同士の愛と絆の強さが清やロシアを相手に勇敢に戦った最大の背景ではないか」と。

ヨノイがセリアズを初めて見た時、セリアズの上半身を見た時のヨノイの動揺っぷりは分かり易い。さらにセリアズにホッペにキスをされた際に失神したヨノイ、やはり恋に関しては驚くほどに奥手で純粋なのだ。時は流れて令和、いまは同性愛に対する世間の目は随分と寛容になり、ゲイのカップルが街で堂々と手を繋いで歩いていてもなんとも思わなくなった。むしろ微笑ましくもある。平和なこの時代で二人が出会っていれば、果たして彼らは結ばれていたのだろうか。

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『Merry Christmas Mr.Lawrence』

デビッドボーイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、内田裕也、内藤剛志など豪華なキャスト陣の若き頃が見られて感慨深い。それぞれ異なるジャンルで活躍するトップオブトップたちが化学反応し合い物語を紡いでいるところはさすが名作である。ハラ演じるビートたけしの茶目っ気と坂本龍一演じるヨノイのポーカーフェイスぶり、さらにデビッドボーイの美しさと存在感、役者としては素人に近い彼達だからこそ出せた“リアル感”と“深い味”、それを存分に引き出した大島渚監督の凄みを知った。

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ところで、わたしはピアノでよく坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』を弾く。しかし映画はこれまでに一度も見たことがない。DVDなどで観ることはいつでもできたのだけど、戦争ものは好きじゃないし、天邪鬼な性格が高じて“あえて観ない”と言い訳していた。しかし今、いまここで見ないとこの先も見ないだろうと、劇場にて鑑賞。

歴史を学ぶことは重要、だけど都合よく書き換え、改ざんされていることもあるから、自分で真実を見極める力が必要だってつくづく実感する。歴史だけではなく、今社会で起こっていることだってね。『戦場のメリークリスマス』はやはり名作であり大作なんだろう。多くを語らない、観るものに想像する余地を与えてくれる。何といっても戦争映画なのに美しい、景色も映像も音楽も。しつこいようだけど私は日本軍兵士達の鬼の所業に対する怒りの感情が勝り、本作を深く見ることができなかった。だけど不思議と最後は感動しちゃう。ビートたけし演じるハラの無邪気な笑顔に泣けてくる。最後のロードショー、せっかくのチャンス、緊急事態宣言が出ていない地域の人は感染対策をしっかりして映画館で是非!観て損はないと思う。

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戦場のメリークリスマス

監督・脚本:大島渚
キャスト:デビッドボーイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、内田裕也
製作:1983年製作/123分/日本・イギリス・ニュージーランド合作(日本初公開日1983年5月28日)
原題:Merry Christmas Mr. Lawrence
配給:アンプラグド

文/ごとうまき