【mol-74 武市和希インタビュー】結成13年目でようやくわかったライブの意義。新たな景色を一緒に作っていきたい!

アーティスト

  京都を拠点に活動し、北欧ポストロックを彷彿させる繊細な音作りで注目を集める4人組ロックバンド「mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)」のNew Mini Album『きおくのすみか』が7月19日にリリースされた。2022年12月に自主レーベル「11.7(イチイチナナ)」を設立してから初のミニアルバムで、現在は『きおくのすみか』を引っ提げ、ツアー中。

そして9月16日(土)には大阪・梅田TRADで開催される。『きおくのすみか』にはmol-74が大切にしている季節や情景をベースに、美しく儚い短編小説のような一枚に仕上がっている。そして新たなスタートを切った彼らの覚悟や挑戦も感じられるのではないだろうか。そんなアルバムのツアーだから、ライブもこれまでのmol-74の世界観とは全く違うものになっているという。ボーカルの武市和希にインタビューをし、様々な思いを語ってもらった。

mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)

7曲のどれか1曲でも誰かに刺されば……

── 『きおくのすみか』は自主レーベル11.7を設立してからの初のミニアルバムとのこと。そもそもどうして自主レーベルを設立されたのでしょうか?

武市
キャリアを重ねてきたこともあり、自分たちが本当にしたいことを具現化する場で、自らバンドとしてのテーマを打ち出した自主レーベルを立ち上げようと2022年12月に設立しました。実際に立ち上げるとストレスフリー。のびのびと楽曲制作に打ち込めています。

── 今作のテーマはある集合住宅を舞台に、それぞれの住人たちの記憶にまつわる物語が収録されています。今までとはまた違った明るい楽曲も印象的ですね。

武市
アルバムを制作する際、まずはテーマを決めて作ります。今回は先にリリースしていた『花瓶』と『ひびき』も入れようということになって、2曲に共通していたのが“記憶”でした。ただこの2曲の描かれる季節は違うから、集合住宅の住人の記憶に設定して。2022年に発売した2nd full album「OOORDER」は、自分にしか分からない悩みなどを投影したこともあって、今作は、誰かしらに刺さるような楽曲を作ろうと意識しました。

mol-74  new mini album「きおくのすみか」

自主レーベル設立によって、本来やりたかった曲作りができるように。

── 『花瓶』は自主レーベルを設立して1番にリリースした曲ですね。

武市
『花瓶』は前のレーベルにいる時に作った曲で、僕もメンバーたちも手応えを感じた楽曲。自主レーベルになったのなら自分たちが良いと思ったものをリリースしようと、いの一番に出しました。僕の楽曲の制作は先に曲から作ります。メロディーやコードの響きから季節や情景が浮かんで、そこから小説や映画、自身の経験を結びつけて詞を書いていくことが多いですね。

── 『ひびき』は死別について書かれているのでしょうか。

武市
以前流れていた生命保険会社のCMから着想を得ました。死別をテーマにした曲ですが、これはすでに消化された記憶。そして、この曲は昔飼っていた愛犬との別れを思って書いた曲です。”今、あなたのことを思い出したところ”の部分は、専門学校時代に愛犬が亡くなった後すぐに書いたフレーズで、そこから詞を紡いでいきました。

── 『花瓶』以外の曲は自主レーベルになってから作った曲なんですね。『忘れたくない』は良い意味でmol-74っぽくない曲。いわゆる挑戦曲のような。

武市
そうですね。この曲をメンバーに聴いてもらった時、今までの方向性にないようなポップでキャッチーな曲だったので、これをmol-74がやっていいのか?という声もありました。とはいえ、テーマは集合住宅。いろんな人が住んでいるから、こういった曲もあっていいよねと、収録しました。この曲なら住人は10代〜20代の若者と想定しています。『忘れたくない』は、コロナ禍を経験したからこそ生まれた曲です。今年の春に東京でライブをして、声出しが解禁され始めた時。曲と曲の合間に「Fu〜!」といった歓声や笑い声が久々に響いたりして、日常が戻ってきたことを感じました。だけど、あの3年間近くでほんの些細な日常がどれだけ大切かということに気付かされた。人との関わり、目の前にある当たり前の瞬間や感情を忘れないようにしようという思いが込められています。

様々な“記憶”をテーマに

── 『アンニット』は武市さんの1番パーソナルな部分が投影された楽曲とのことですが。

武市
“忘れることを肯定する″をテーマに作りました。こういった曲も収録しないと窮屈になってしまう。忘れないことも大事だけど、時には忘れることも大事。過去の嫌な記憶を忘れて手放していくことで、また進んでいけるというメッセージを込めています。ちなみにこの楽曲ができたのが、京都で大雪が降った2023年1月25日。部屋から降り積もる雪を見ながら作りました。

武市
『Summer Pages』はボルチモアクラブというジャンルをmol-74が取り入れたらどんな感じかというテーマのもと作られた曲。『此方へ』は僕と井上のエレキギターで構成されたシンプルな昔からのmol-74らしい静寂さが感じられる曲です。忘れてしまった記憶について書いていますが、忘れたとしても、きっと潜在意識として残っているんですよね。目には見えないけれど確かに存在している……という意味を込めています。

── リード曲の『0.1s』は疾走感ある夏らしい曲ですね。

武市
『0.1s』はスタジオで1時間で完成した曲です。ドリームポップというジャンルを踏襲しつつ、mol-74らしさを出しました。この曲に関しては坂東のドラムのビートに合わせて、コード進行はベースの髙橋が、そこに僕がメロディーを、ギターの井上がギターフレーズを乗せる形で作りました。

── MVもおしゃれで、夏らしさが感じられます。

武市
この曲が出来上がった時に浮かんだ情景が、専門学校時代の友人と旅行に行った時の三重県鳥羽の行き道での風景。歌詞の世界観やこの曲の出来上がった背景を監督にお伝えし、自分が写している瞬間と季節感が出るように作ってもらいました。僕たちは、一貫して美しいものが好きなので、いつもMVには美しさや儚さというものを意識していますね。

結成13年にして、初めて感じた一体感

── アルバムを引っ提げたツアー「きおくのすみか」ReleaseTourも終盤に近づき、9月16日(土)には大阪・梅田TRADでライブがあります。これまでツアーを重ねて、どの様なことを感じておられますか?

武市
めちゃくちゃ楽しんでいます。僕たちの曲は静かな曲が多いため、これまでのライブでもお客さんとの一体感を感じることが少なかったんです。だけど今回はこれまでとは全く違うライブになっていて。『忘れたくない』ではコールアンドレスポンスを入れてみたり、お客さん達との距離もグッと近づいている。それに今回は明るい曲が多いので、僕たちとお客さんのエネルギーが循環してより良い空間が出来上がっていました。それまではお客さんとの間に線があったような気がしていて……。もちろんそれはそれで良いのですが。13年目にしてやっと、ライブの意義や、お客さんと一緒にライブをする意味がわかってきたような気がします。

──「きおくのすみか」ReleaseTourを経て得てきたものを、大阪でしっかりと出せそうですね。

武市
きっと僕たちとお客さんとのエネルギーがぶつかり合って、とても良い空間を作り出してくれるんじゃないかって期待しています。このツアーで収穫した明るく元気なエネルギーが一番合うのが大阪だから、これまでmol-74になかった景色を一緒に作っていけたら。もちろん、アップテンポな曲ばかりではなく、自分たちの深い部分も出していきます。静かな曲もあれば、明るく元気な曲もあり、感情の振れ幅が大きいですが、それが今の自分たちのモードなので、そういった部分も見ていただけると嬉しいです。

自分と向き合うことのできたコロナ禍を経て、原点回帰

──ところで、コロナ禍は思うように活動もできなかったと思いますが、あの3年はどの様な期間でしたか?

武市
すごく苦しかった。活動ができなかったという物理的なものではなく精神的な面で。ライブやリリースも中止となって、自分自身にとことん向き合った時期でしたね。というのも、2020年1月ぐらいに当時いたレーベルのディレクターさんに歌詞についてのアドバイスをいただいたこともあって、作詞とは何か……など、もがいていた時期。これまでとは違ったアプローチで歌詞も書きました。僕は歌詞についてはそこまで重きを置いていなかったんですよ。それよりもメロディーに合う言葉を見つけていくという方法をとっていたので……。正直いうと、その当時に作ってストックしているデモは、今聴くと「何でこんな訳の分からない歌詞にしたんだろう…」と思ってしまうことも多いです(笑)。

── 自主レーベルを設立したことによって、本来やりたかった音楽活動ができているのですね。曲作りにおいて、武市さんが大切にしていることは?

武市
昔から季節感や情景を大切にしています。自主レーベルになったことで、それをストレートに表現できるようになりました。そこがブレてしまうと自主レーベルの意味がなくなっちゃうから。だけど本当は、アニメや映画などのタイアップ曲もバンバン書きたいし、どんなことにも柔軟に対応できるアーティストになりたかったんですよね。だけど自分には向いていなかったということも認めて、受け入れなくてはいけない。詞を書いていてもまだ痛みは伴うし、まだ傷は癒えていないんだけど、少しずつ自分らしい歌詞が書けるようになってきました。

自分たちの色を大切にしながら挑戦していく

武市
ただ自主レーベルになったからといって、ひっそり活動をするつもりはありません。バンドのテーマやポリシーを突き詰めていった先には、可能性は広がっていくと信じています。これからも純度の高い音楽を作って、mol-74らしさを追求していきます。

<RELEASE INFORMATION >
mol-74  new mini album「きおくのすみか」
2023年7月19日(水)リリース
¥2,200(税込)
品番:LADR-48

<収録曲>
1.忘れたくない
2.0.1s
3.Summer Pages
4.花瓶
5.此方へ
6.アンニット
7.ひびき

mol-74「きおくのすみか」release tour
<ワンマン編>
9月08日(金)愛知:名古屋CLUB QUATTRO
9月16日(土)大阪:梅田TRAD
9月22日(金)東京:六本木EX THEATER

前売り:¥4,500(税込・D代別)

<ARTIST INFORMATION>
■mol-74 オフィシャルHP:https://mol-74.jp/
■mol-74 Youtube チャンネル:https://www.youtube.com/@mol74/videos
■mol-74 Twitterアカウント:@mol_74
■mol-74 Instagramアカウント:https://www.instagram.com/mol_74/
■mol-74 TikTokアカウント:https://www.tiktok.com/@mol_74_official\

インタビュー・文・撮影:ごとうまき