スピルバーグが込めた思いとは
時を超えて繰り返される憎しみと悲しみ、「ロミオとジュリエット」をモチーフにした‟愛”で乗り越えることができるのだろうか?
「レディ・プレイヤー1」(18)から約3年ぶりとなるスティーブン・スピルバーグの新作は、ミュージカルの最高峰「ウエスト・サイドストーリー」。しかもスピルバーグ監督初のミュージカルで「オールウェイズ」(89)「宇宙戦争」(05)に連なるリメイク企画となる。今作は1957年に発表された、ブロードウェイ舞台の再構築とのことだが、1961年の映画版をリメイクし現代の人たちにも共感を得られるようにと現代版に昇華。さて、教養として見ておきたいこの不朽の名作を、巨匠スピルバーグはどのように料理したのだろうかーー。
あらすじ・解説
「ウエスト・サイド物語」は、1950年代のニューヨークのウエスト・サイドでのヨーロッパ系移民「ジェッツ」とプエルトリコ系移民「シャークス」で起こっている若者の対立が描かれており、そこで対立し合うグループの男女が一目惚れし恋に落ちるという「ロミオとジュリエット」をモチーフにした切ないラブストーリーが展開される。プロットやおなじみの名曲そのものは今作でもしっかりと踏襲。しかし、細かい部分はある程度アレンジされ、ダンスもよりパワフルにダイナミックに、冒頭のカメラワークも斬新な表現で切り込み、本作の舞台である“解体されてバラバラになる場所”を巧みに表現。スピルバーグの映像技術と創造性がのびのびと活かされている。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ネタバレなしのレビュー
「タタタ、タタタ、タン・タン・タン」6/8 拍子で奏でられる『アメリカ』のアフリカリズムが、見終わった後も筆者の頭の中で鳴っている(これ聴くとその場で踊り出したくなるんだ)。
『ウェストサイドストーリーは教養として見ておきなさい』筆者が中学生か高校生だった頃に誰かに言われた言葉を覚えてる。結局、十数年経ってからの2019年のリバイバル上映で一度見たっきり。本作の名曲と華やかなダンスシーンが鮮明に残っている。
旧作では夜のシーンとして踊られた「アメリカ」は、今作では街中を舞台に総勢で踊り出す。最後はプエルトリコ移民を巻き込んでの壮大なダンスシーンが。これには圧倒だ。アニータ演じるアリアナ・デボーズはブロードウェイ俳優だけあって歌はもちろんダンスもキレッキレ。彼女のダンスシーンを見るだけでも天にも昇るほどの高揚感に包まれる。その他、トニーとマリアが初めて出会うダンスパーティー、決闘に向かう前のそれぞれの大合唱シーンには、感情が沸き立ち全身からアドレナリン大放出!も〜う、たまんない!

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
現代に合った女性の描き方
映像はオリジナルを再現したかのような色味と厚みと質感が使用され、人種的な描写や配役の公平性にも配慮がなされている。計算されたキャストたちの衣装の色づかいによって視覚からも心沸き立つ演出が施されている。
また今作では女性の描き方にも注目したい。旧作では男子の仲間入りがしたい女の子だったエニーボディズが本作ではトランスジェンダー、ノンバイナリーとして描かれていることに“現代らしさ”が際立ち、スピルバーグの思いが込められている。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
“ロミオとジュリエット効果”によってより燃え上がる男と女、国や肌の色によって対立する人、居場所を求めて闘う人たち、時代を超えても人間の本質は変わらないという普遍的なことを教えてくれている。そしてラストシーンに込められた‟愛と希望”が私たちの一筋の光なのだろう。今まさに分断されている私たちだからこそ響くんだろうなぁ、この不朽名作が。巨匠スピルバーグ監督の熱い想いが込められた今作、是非劇場で味わってほしい。
ウエスト・サイド・ストーリー
監督:スティーブン・スピルバーグ
製作:スティーブン・スピルバーグ クリスティ・マコスコ・クリーガー ケビン・マックコラム
キャスト:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、デビッド・アルバレス、ジョジュ・アンドレス、コリー・ストール
原題::West Side Story
製作:2021年製作/157分/G/アメリカ
配給:ディズニー