罪を犯した前科者たちの更生と社会復帰を目指して彼らに寄り添い奮闘する「保護司」を描いた同名漫画(原作・香川まさひと/作画・月島冬二)を、「あゝ、荒野」の岸善幸監督のメガホンによって映画化。主人公・佳代が新人保護司として奮闘し、成長する姿を描く連続ドラマ版「前科者 新米保護司・阿川佳代」(全6話)が2021年11月にWOWOWで放送された。その後の公開となる本作には原作にないオリジナルストーリーが描かれている。奮闘する保護司佳代役に有村架純、寡黙な前科者誠役を6年ぶりの映画出演となる森田剛が演じるほか、磯村勇斗、リリー・フランキー、木村多江、若葉竜也、マキタスポーツと実力俳優らが脇を固める。
あらすじ
保護司を始めて3年となる阿川佳代は、コンビニのアルバイトと二足の草鞋を履きながら、保護司という仕事にやりがいを感じ、さまざまな前科者のために奔走する日々を送っていた。彼女が担当する寡黙な前科者の工藤誠は順調な更生生活を送り、佳代も誠が社会人として自立する日を楽しみにしていた。ある日自立する日まであと一歩というときに誠が忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身となってしまう。一方で連続殺人事件が発生、捜査が進むにつれ誠の悲痛な生い立ちや佳代の過去、彼女が保護司という仕事を選んだ理由が次第に明らかになっていくーー。
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
レビュー
前科者を人間へと生き返らせる手助けをする「保護司」はまるで聖母
元受刑者などが登場するサスペンスなどで普段はメインのお皿の添え付けの料理ぐらいにしか描かれていない「保護司」が今回のメインディッシュ。本作、胃もたれするほどでもないのだが重く、そしてあとを引く。だけど体にじんわりと沁みわたる良作だ。「前科者が保護司によって更生、再生していく話」と思いきや焦点はそこではない。そこに辿り着くまでにありとあらゆる問題や「保護司」という仕事の尊さを浮かび上がられせている。
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
また阿川が無事に娑婆に送り出した元受刑者、刑事、弁護士などなど彩り豊かな人を揃えてサスペンス、ロマンス少々に友情を加えて130分の大作と昇華、いわば“保護司”というメインディッシュに前科者の再犯、犯罪者達の悲痛な過去と背景、社会的弱者と強者、DV問題、養護施設の虐待、重くて暗いものが幾つも乗っかっている。
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
ちなみに保護司とは国家公務員である一方で無報酬というボランティアで成り立っている(これほどまでに尊い仕事がなぜ無報酬?)。なので定年退職してお金にも余裕と時間のある人や、よほどその仕事に対しての強い思いがないとできないはず。まだ20代の阿川がコンビニのアルバイトをしながら保護司を務める理由も描かれており、本作の重要な要素、登場人物とも大きく関連し、幾つもの“仕掛け”が仕込まれている。
前科者を普通の日々に戻すには様々な問題があって一筋縄ではいかないのかもしれない。だけど結局人が求めているものはいつだって人の温もり。「気持ちに寄り添う」そして抱擁すること(それくらい寄り添う)が一番大事なのかも。意外とシンプル!
森田剛の魂の熱演と若葉竜也の怪演に圧倒
前科者工藤誠と弟の生い立ちや回想シーンでは胸が締め付けられまともにスクリーンを見れなかった。「お願い、もう止めて!」と見ているこっちが叫びたくなるほどだ。そんな兄弟を演じた森田剛と若葉竜也演の演技には驚嘆しかない。筆者の小中学校時代、ジャニーズに夢中になる女子が多かったなかジャニーズには全く見向きもしなかった筆者が唯一好きだったアイドルが森田剛!最初年取ったなぁと(メイクの効果も大きい)驚いたけど、やっぱりいい男!そしてなんといっても色気がある。工藤誠が憑依したかのような森田剛の演技、抱きしめたくなるほどの儚さ、今にも消えそうになるほどの弱さはそう簡単には出せないだろう。今泉力哉監督作品で常連の若葉竜也の怪演はさらに上を!途中まで若葉竜也だと気づかなかったほど、なんて凄い俳優なんだ!そして有村架純、メガネにちょっとださめの衣装着てもたまらなく可愛いんだもの。彼女こそ女神だわ。
見終わった後には自分の心が分厚い雲で覆い被さっているような、だけど僅かにうっすらと差し込む光陽、希望も感じられるような大きな余韻を残す作品だ。
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
前科者
監督・脚本:岸善幸
原作:香川まさひと 月島冬二
製作:石垣裕之 鳥羽乾二郎 藤本鈴子 富田朋子 久保雅一 鈴木貴幸
キャスト:有村架純、磯村勇斗、若葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、リリー・フランキー、森田剛
製作:2022年製作/133分/PG12/日本
配給:日活、WOWOW
文/ごとうまき