【酒とダンスと友情と】ユーモラスな人生賛歌『アナザーラウンド』

(C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
エンタメ

酔っ払いたちが繰り広げる笑いと涙に祝杯を

「人生こんなはずじゃなかった」と悲壮感漂う中年の高校教師達が辛い現実から逃れようと媚薬に手を染め溺れる人間の弱さをユーモラスに描く。人生の美しさと儚さを大胆に表現したラストのダンス、劇中に流れる楽曲たちに酔いしれる。
酒によって成功を勝ち取るものもいれば酒に飲まれて身を滅ぼすものもいる。
とりわけ秀逸なのが高校教師がアルコール濃度を0.05%保つことの効用を体験し実証するという脚本だ。歴史上の偉人達と酒とのエピソードを盛り込みながら、物語を通して“飲酒”との上手な付き合い方を示唆しながらも、人生の素晴らしさも説いている。

本作は2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出、さらに第78回ゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞にノミネート、第93回アカデミー賞でも監督賞と国際長編映画賞の候補に挙がり、国際長編映画賞を受賞したデンマークを舞台にした本作は、デンマークを代表する人気実力派俳優で主演は『ファンタスティック・ビースト3』『インディ・ジョーンズ5』への出演も決まっているマッツ・ミケルセンが主演を務めた。

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あらすじ
高校教師の主人公マーティン、仕事や冴えない日々に生き甲斐を見出せず人生にちょっとした行き詰まりを感じていた。
ひょんなことから同僚の教師3人と、ノルウェー人の哲学者が提唱した「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するため、実験をし論文にまとめることになるのだが、条件として「ノーベル文学賞を受賞したヘミングウェイは毎日、夜8時まで飲んで執筆していた」という逸話を参考に、「夜8時以降と週末は飲酒禁止」というルールを設定。
朝から夜8時まで酒を飲み続ける4人の教師たち、0.05%(ワイン1〜2杯程度)のアルコールを取り入れることによって、生真面目な主人公が少し陽気になったことにより、これまで授業に退屈していた生徒が楽しむようになり、私生活でもギクシャクしていた妻との関係が修復されたーー。ここでやめておけりゃいいものの、さらに取り入れるアルコール濃度を上げて試すことに。欲深き人間の弱さによってこれまでに築き上げたものがカタカタと音を立てて崩れていくーー。

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さすがは“ヴァイキングの末裔”だけあるデンマーク人。デンマークでは法律上16歳からお酒が飲めるため、高校の卒業式では高校生たちが酒を片手に踊りパーティに明け暮れる。それも尋常じゃない飲みっぷり。酒は高揚感と多幸感をもたらしてくれる良薬でもある反面、飲みすぎると日常にも支障をきたし、最悪の場合死にも至る。ドラッグやセックス同様に、お酒は幸せに満ちた時間を与えてくれる一方で、その時間は朧げで泡のように消えてしまうからこそ人が依存しやすい。ことわざ「酒は飲むとも飲まるるな」が映画になった感じ。コミカルで大胆かつ繊細、時に切なく愛おしい人生賛歌、ビールを飲みながら楽しみたい一本だ。

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アナザーラウンド

監督・脚本:トマス・ビンターベア
キャスト:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ
製作:2020年製作/115分/PG12/デンマーク
配給:クロックワークス
原題:Druk

文/ごとうまき