幸せの国ブータンから真の豊かさを問う『ブータン 山の上の教室』

エンタメ

“世界一幸せの国”と名高いブータン王国から届いた珍しいブータン映画をご紹介。

ここに描かれているのは“真の豊かさ”と“教育のあり方”。

オーストラリアへの移住と歌手になることを夢見る若き教師ウゲンがルナナという人口56人標高4800メートルの僻地に教師として赴任することになった。しかしその村は首都からバスで半日、そこからさらに徒歩で6日間かかるというとんでもない僻地だった。ここは電気もトイレットペーパーもないような厳しい生活で、とんでもないところに来てしまった!すぐさま帰らねば!とウゲンは心を掻き乱すが、「勉強をしたい」という子どもたちの純粋で真っ直ぐな眼差しと、人格者である村長をはじめとする優しい村人たちと触れ合ううちにいつしかウゲンの気持ちに変化が訪れるーー。

 

僻地への赴任を言い渡された際、数ヶ月の辛抱だと渋々受け入れた若い教師のウゲン。前半はルナナまでの長い旅路を描いている。人口3人の村での決して豊かとは言えない民家での宿泊、テントでの野宿をしながら一週間かけて辿り着いた秘境ルナナ。初めは戸惑いをみせるも次第に彼は居場所を見つけていく。やがて冬が訪れ、約束通り別れの日が訪れるのだが、この辺りがもう『世界ウルルン滞在記』そのもの。

(C))2019 ALL RIGHTS RESERVED

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ブータンの人々の生活や習慣を目にする機会がそんなに多くない我々にとって本作はブータンの人々の生活を知ることのできる貴重な作品である。その生活といったら、資本主義経済である日本で生まれ育った我々にとっては到底考えられないような質素で簡素な暮らしぶり。

なのに、なぜだろう、ブータンという土地に深く根付いた生活や人々の存在が美しく尊い。この地球にこんなにも神々しい世界が存在するのかと、ここに描かれる人々とは対照的な、消費し続ける私たちはなんて愚かな存在なんだろうと、そう思わずにはいられない。

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紙一枚さえも貴重で、勉強できることが幸せだと感じる人や場所がある一方で、私たちは生まれた時から多くのものを与えられ、底なしの欲や煩悩にまみれている。その対象は人や物、多くの経験をすることにも向けられている。だけどこの欲望は延々と満たされることはない。

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また“先生は子どもたちの未来に触れることができる”というセリフからも教育のあり方、教育者とは何ぞやという課題も突きつけている。

“幸せ”とは何だろうかーー。“真の教育者とは”

多くのものを知らないからこその幸せ、与えられた物や場所で全うするころも一つの幸せなのかもしれない。ため息の出るような美しい山々と生命あふれるヤクや愛くるしい子どもたちの笑顔に心洗われるとても貴重な作品だった。

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ブータン 山の上の教室

監督:パオ・チョニン・ドルジ
キャスト:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・ヘンドウップ、ケルドン・ハモ・グルン
原題:Lunana: A Yak in the Classroom
製作:2019年製作/110分/G/ブータン配給:ポニーキャニオン

文/ごとうまき