【多様性を優しく見つめる作品】僕の子どもの頃からの夢『MISS ミス・フランスになりたい!』

(C)2020 ZAZI FILMS - CHAPKA FILMS - FRANCE 2 CINEMA - MARVELOUS PRODUCTIONS
エンタメ

性別も人種も関係なく皆平等である

 

あらすじ

9歳の頃、学校で『夢はミス・フランス』と発表するとクラスメイトに嘲笑された。男はミス・フランスにはなれないと、夢を封印したアレックス。

パリの場末のボクシングジムの雑用をしているアレックスは偶然にも幼馴染のエリアスに再会する。幼いころからの夢を叶えて自信に溢れるエリアスに触発されてアレックスはかつての夢だったミスフランスの夢に挑戦することを決意する。

アレックスは下宿先の仲間たちにミス・フランスに挑戦することを告げる。母のような存在の家主、ドラァグクィーンや移民、インドのお針子など個性的な仲間たちがアレックスの成功を応援し協力する。幼い頃に両親を交通事故で亡くしたアレックスにとって彼女(彼)たちは家族のような存在であった。コンテストに向けてアレックスの奮闘が始まる。女王陛下と呼ばれるボスからは『24時間コルセットをつけて、靴は小さめの25.5センチ、フラット靴はNGでヒールは12センチ、疲れたら8センチヒール、さらにつけまつげを付けて谷間メイクや水着用に膨らみを隠す技も学ぶように』と厳しい指導を受ける。

コンテストの厳しい戦いを潜り抜け、美しく華やかな衣装を身にまとい輝くアレックス。コンテストが進むにつれ”真の美しさ”とは、”本当の自分”を見つけるために模索し苦しむアレックス。そんな中彼はある決断をする。まさかの展開のラストシーンに大きく心が揺さぶられるはず。

見どころと考察

主人公アレックス演じるのは圧倒的な美貌を持つジェンダーレスモデル

女性になりたいアレックス演じるのはジェンダーレスモデルのアレクサンドル・べテール。Netflixオリジナルドラマ『エミリー、パリに行く』やAmazonprimeドラマ『マーぺラス・ミセス・メイデル』などにも出演し俳優としてのキャリアも積んでいる。本作の見どころはアレクサンドルが恐ろしく、ため息が出るほどに美しいこと。立居振る舞いも佇まいも、全てがパーフェクトで洗練されている!そして演技力も申し分ない。

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「ミス・フランス実行委員会」と提携

本作は「ミス・フランス実行委員会」と提携しているため、美しく華やぐ衣装や、ミスコンの裏側、厳しい選考背景なども見られる。

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自分は何者なのかー

自分が何者か。それを知るためにコンテストに出場した主人公アレックス。

男でも女でもない自分は何者なのか。いや、私は私なのだ。そもそも〇〇らしさって何だろう。男だから、女だから、男らしく、女らしく、若者らしく、年寄りらしく、日本人らしく・・・。属性でくくられ”こうあるべき”と締め付けられる風潮が間違っているということに多くの人が気付いた。時代は確実に変化している。性別や人種、年齢などといった枠にはめること、発言する人に対して赦さない社会へと変わりつつあることは良いことである。

『流行りにとらわれると本質を見失う』

「真の美しさ」本作で良く出てくる言葉であるが、ミス・フランスのディレクターであるアマンダの言葉『流行にとらわれると本質を見失う』の言葉と通じるものがある。

多様性の問題を扱った作品はこれまでにも数多く世に出ているが、近年はジェンダー問題やLGBTQを多く扱った作品が印象に残り、私たちに問いかけている。あなたにとって「真の美しさ」とは何か?

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時代錯誤なミスコンを静かに否定している感じが痛快!

近年、若くて美しい女性の美を競うミスコン(その他のミスコンも)はルッキズムや男性主導の社会における性差別の象徴として批判されるようになっている。本作の製作者たちの本心はわからないが、筆者は本作が既存のミスコンなどに対して静かに中指を立てているようで観ていて清々しかった。これまでの形のミスコンは今の時代の流れから見ても、淘汰されていくであろう。

近年ミスコンは、”ルッキズム”や”セクシズム”の象徴として批判されているが、そもそもミスコン批判、ミスコン反対運動は1960年頃から始まった。

昨年、上智大学 が「女らしさや男らしさ」というコンテストが持っていたあり方を変えて名称を「ソフィアンズコンテスト」に改め、性別や国籍を問わず出場できるようになり話題になった。慶應大学藤沢キャンパスでもミスコンテスト、ミスターコンテストにおいて性別を問わない応募が認められるなど既存のミスコンが変化しているのはとても喜ばしいことである。

世界を見ると2019年には世界の5大ミスコンの優勝者はすべて黒人女性となったり、ミスコンという場での「多様な美」の提示が目指されている。また、「ミス・アメリカ」は2019年大会から水着審査を撤廃し、自分にとっての「正装」でのインタビュー審査に変えている。ちなみにジェンダーギャップ指数でワーストから数えたほうが早い日本は数字通り、相変わらずである。「ミス日本」は現在も水着審査を行っているとのことだ(2020年では)。どうやらこの国でのミスコンにおける変化はまだ先のようである。

とはいえ、社会や世界が確実に変化し、ボーダーレスな時代へ加速していることが本作や数多くの作品からも感じ取ることができる。

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また本作の評価すべき一つが白人、黒人、移民などと多様な人種やマイノリティと呼ばれる人たちも多く出演している。コンテストの参加者たちも「ダイバーシティ」に相応しいメンツで同じ志を持つ人々の連帯感を描いているところも素晴らしい!

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それにしても、アレックス演じるアレクサンドル・べテールのウットリするほどの美しさときたら・・。コミカルに描きつつ優しい涙が流れるヒューマンドラマ。おススメです!

MISSミス・フランスになりたい

監督:ルーベン・アウベス
脚本:エロディ・ナメ ルーベン・アウベス
キャスト:アレクサンドル・ベテール、パスカル・アルベロ、イザベル・ナンティ
製作:2020年製作/107分/G/フランス
原題:Miss
配給:彩プロ
文/ごとうまき