【BRADIO真行寺貴秋インタビュー】ファンキーな炎を灯す15年の軌跡

アーティスト
ステージの幕が上がる。真行寺貴秋のアフロヘアがスポットライトに映え、ファルセットの声が会場を切り裂く。 BRADIO、ソウルとロックが溶け合う3人組は、ファンキーな炎を燃やしている。2025年、結成15周年。新アルバム『FUNK FIRE』が7月16日に発売され、8月のマレーシア・クアラルンプールで開催される「AniManGaki 2025」へのスペシャルゲスト出演、そして9月からの全国ツアーと、「15の公約」を掲げた怒涛のアニバーサリーイヤーが開幕中だ。
真行寺の瞳は、遠くの地平線を見据える。「火が灯るところに、人が集まる。BRADIOは、そんな場所でありたい」。その言葉の裏には、コロナ禍の闇を抜け、音楽で世界を繋いできた男の情熱と葛藤があった――。

「Ten」「あったかい涙」「未来サイダー」の制作秘話

今回のアルバムは「Say Cheese」や「大人たちのPOPS」をはじめとする夏をイメージした楽曲が多い。10曲それぞれこだわりがあるが、なかでも「Ten」は、真行寺の遊び心とこだわりが詰まった一曲。
「1から9までの数字を歌詞に織り込んだんです。『ひと握りの』で1、『二度見』で2、『三千は踊った』で3、って。」彼は笑いながら続ける。
「でも、10はあえて数えない。最後の10歩目は、自分で踏み出すってメッセージ。」
コーラスには、真行寺の師匠である中ノ森文子が参加。
師匠の声、めっちゃパワフルで。レコーディングで、曲の幅がグッと広がった」。
彼女の声に導かれ、「Ten」は人生の頼り合いと自立を歌う、遊び心と深みを両立した曲になった。
気づく人は少ないかもしれないけど、こういうこだわりが制作の醍醐味なんですよね。」
「あったかい涙」は、3年間の執念の結晶だ。
8分の6拍子のバラードを、「DANCEHALL MAGIC」(メジャー3rdアルバム)の頃から作りたかった。」
フェスのセットリストで、激しい曲の後に心を掴む曲――サザンオールスターズの「真夏の果実」のような雰囲気を夢見て、何度も挑戦と挫折を繰り返した。
「取り掛かっては諦めて、を3年。今回は絶対完成させるって。」
真行寺のファルセットが、ゆったりしたリズムに溶け合う。
「フェスの広い空間で、みんなの心に響くバラードにしたかった。完成したとき、ようやく報われた気がしました。」
「未来サイダー」は、アニメ『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』2ndシーズンのタイアップ曲。1stシーズンの「ファンファーレ」に続くオファーだった。
ギターの聡一がトラックを作って、俺がメロディーを乗せました。サビで一気に開放感が爆発するビートを意識した。」アニメの疾走感とリンクさせ、歌詞には作品のフレーズを織り交ぜた。
制作はトントン拍子でした。BRADIOらしさとアニメのイメージが、バチッとハマった。」MVもポップでカッコよく、アニメの世界観と融合している。

ファンキーな魂の爆発

「バッカナーレ」は、バカ騒ぎしたかったと言う。真行寺は笑いながら振り返る。『FUNK FIRE』の収録曲「バッカナーレ」は、その名の通り、馬鹿騒ぎのエネルギーが炸裂する一曲だ。だが、曲の途中でリズムが切り替わり、まるでディズニー『アラジン』のジーニーがステージに飛び出すようなミュージカル調の展開になる。
「ディズニー好きなんですよ。ミュージカル映画のあの魔法みたいな派手さ、舞台のワクワク感。あれを音で表現したかった。」
真行寺の声に、少年のような輝きが宿る。
この曲のセリフパートには、深いメッセージが隠されている。
悪魔の証明って知っています? ないことは証明できない。夢がない、希望がないって言うけど、それを証明できなきゃ、つまり夢はあるってこと。」
真行寺の言葉に熱がこもる。馬鹿騒ぎの裏に、人生の前向きな叫びを込めたのだ。
同じく「My Fantasy」も、ディズニーの影響を受けた。
「Aメロは、ディズニー映画の冒頭みたいに、小鳥が窓辺で歌い出すようなファンタジーを意識した。」
当初の仮タイトルは「あったかい涙」が「My Fantary」だった。だが、メロディーが完成した瞬間、セクシーな路線は似合わないと感じた。
もっと人間臭い歌詞が合うなって。」恋や人生の情熱を歌う、温かみのあるバラードへと生まれ変わった。

海外の熱気とファンキーな進化

マレーシアが、BRADIOを待つ。8月22日(金)から24日(日)「AniManGaki 2025」へのスペシャルゲスト出演での公演を控えている。2023年の台湾、2024年のチリとフィリピン、コロナ前のテキサスやワシントンD.C.。海外公演は、BRADIOの音楽に新たな息吹を吹き込んだ。
チリのライブは、サッカーの応援みたいなウェルカム感がすごかった。」
特に忘れられないのは、チリでの一幕。
ファンの方からメールが来たんです。『BRADIOの曲でプロポーズしたい。この曲が世界一美しいから』って。」
ライブの最後にその曲を演奏すると、観客のどよめきの中、プロポーズが成功。会場は歓喜の渦に。「あんなドラマ、忘れられませんよね。」
チリの熱気は、アルバムにも影響を与えた。「On Fire」は、チリのラテンの空気感が入ってる。1週間の滞在は、BRADIO史上最長の海外公演。
「あの情熱、熱量。無意識に曲に滲み出た。」『FUNK FIRE』のタイトルは、その情熱を象徴する。「火を灯すと、人が集まる。ライブハウスも、そういう場所にしたい」と、目を輝かせた。

三本柱と15年の葛藤

2023年の『DANCEHALL MAGIC』は地下のクラブの親密さ、2024年の『PARTY BOOSTER』はパーティーの爆発的なエネルギー、そして『FUNK FIRE』は野外フェスの開放感をテーマに、まさに『FUNK FIRE』は3年間の集大成だ。
「コロナ禍で、バンドをガッツリ見つめ直した。ダンス、ファンキー、パーティー。この三本柱で、BRADIOらしさを全開で出そうって。」
真行寺の声に、力がこもる。だが、その道は険しかった。
「コロナ禍は、キツかったですね。」ライブハウスが閉まり、配信ライブの画面越しの空虚さに心が沈んだ。「何しても、なんか虚しかった。」その闇の中で、彼は問い続けた。
自分らの強さって何だ?周りが言う『ファンキーなバンド』って、それでいいのか?」葛藤の末、BRADIOは「らしさ」を受け入れた。
「いいもの持ってるのに、使わないのはもったいない。」日本クラウンへの移籍も、新たな一歩を後押しした。

(左から)酒井亮輔(Ba.)真行寺貴秋(Vo.)大山聡一(Gt.)

ライブハウス、炎を灯す場所

9月からの15周年ツアーは、『FUNK FIRE』の曲を育てる場だ。
「どの曲も、ライブで化ける。合唱やコール&レスポンス、ギターソロを伸ばしたり。曲の個性をグッと引き出したい。」
真行寺の言葉には、曲への親心のような愛が溢れる。すぐにツアーが始まる。
「15周年だし、初めての人にも『来てよかった!』って思わせたいんです。」
ライブハウスは、自由に体を揺らし、声を上げる場所。
「BRADIOの炎を、みんなでデカくしたい。」

15年の肥やしと未来への一歩

「15年、迷いながら走ってきた。」中学時代、ビートルズやマイケル・ジャクソンを教えてくれた英語教師。L’Arc〜en〜Cielのベースラインにも心を奪われた。ベースからボーカルに転身し、BRADIOを結成した20代。
良いことも悪いことも、全部肥やしになった。」コロナ禍の試練がなければ、三本柱は生まれなかった。
「今、BRADIOにしかない栄養素を届けたい。ダンス、ファンキー、パーティー。それが僕らのプライドです。」
最後に、彼は言う。
「『FUNK FIRE』は、ライブでこそ輝く。一人でも、ライブハウスが初めてでも、気軽に来てほしいですね。絶対楽しませる自信があります!」
インタビュー・文・撮影:ごとうまき