「合鍵」に託す未来と、15年目の覚悟。岩佐美咲が語る、演歌歌手としての“今”

インタビュー

演歌歌手として、そして一人の女性として、17歳でソロデビューを果たした「わさみん」こと岩佐美咲さんが、ついに15年目という大きな節目を迎えました。

AKB48から演歌の道へ。その道のりは決して平坦なものだけではありませんでしたが、現在の彼女の瞳には、積み重ねてきた軌跡と、支えてくれたファンへの深い感謝が宿っています。

秋元康氏プロデュースによる12枚目のシングル『合鍵』のリリースを控え、現在の心境からプライベートの素顔まで、たっぷりと語っていただきました。

15年という歳月が教えてくれた「演歌の肌触り」

ーーソロデビュー15年目、本当におめでとうございます。改めていまのお気持ちはいかがですか?

岩佐
ありがとうございます!丸14年が経ち、15年目。AKB48時代から数えると17年になりますね。正直、「ここまでやってこれたんだな」という実感がようやく湧いてきたところです。今年は一つひとつのステージに立てること、歌えることのありがたさを、例年以上にしみじみと感じながら過ごしています。

ーーデビュー当時は「演歌を歌うアイドル」という印象が強かったのですが、15年経った今、ご自身の中での比率は変わりましたか?

岩佐
そうですね。スタートがアイドルだったので、最初は演歌・歌謡曲界の独自のルールや雰囲気に戸惑うことばかりでした。でも、続けていくうちに共演させていただく先輩方ともお話しする機会が増え、ようやくこの世界に馴染めてきたのかなと感じています。今は、すごくリラックスして活動できているんですよ。

秋元康氏が描く切ない情景

ーー12枚目のシングル『合鍵』。今回も総合プロデューサーの秋元康さんによる書き下ろしですが、初めて詩を読んだ時の印象は?

岩佐
すごく切ないですよね。歌詞の中に、目黒川沿いの古いマンションが出てくるんですけど、その情景がパッと頭に浮かびました。女性の方はまだ男性に気持ちがあって、「こんなところが好きだったな」って思い出している。それがかえって悲しさを引き立てるんです。実は以前いただいた曲の歌詞にも「合鍵」というワードが入っていたことがあって。秋元先生にとって、合鍵はドラマを感じさせる大切なアイテムなのかな、なんて思ったりしました。

ーーミュージックビデオ(MV)も、そのイメージ通りに撮影されたそうですね。

岩佐
はい!まさに目黒川周辺で、築30年以上は経っていそうな、ちょっとレトロなアパートの一室をお借りして撮影しました。歌詞自体は短いんですけど、その短い言葉の中にギュッとドラマが詰まっていて、演じながらも胸が締め付けられました。

ーー岩佐さんは、この曲に登場する男女をどう捉えて歌っていますか?

岩佐
男性の方は……ちょっとプレイボーイというか、あまり良くない人かな(笑)。次の人が決まっているのに、まだ合鍵を返してもらっていないような。そんな「ダメ男」に、わかっていながらも惹かれてしまう女性。私個人としては、「もうそんな鍵、レターパックで送り返しちゃいな!」ってアドバイスしたくなっちゃうんですけど(笑)。でも、その断ち切れない未練心が演歌・歌謡曲の美学なんですよね。

ーーレコーディングで秋元さんからアドバイスはありましたか?

岩佐
「好きな人のことを考えて歌って」と言われました。でも、歌の中の彼はひどい男だし、どうしようかなって(ボヤきながら)。でも、完成したデモをお送りしたら、わざわざ「歌が上手くなったね、いいね」って連絡をくださって。それは本当に嬉しかったです。

着物からドレスへ、そして新たな音楽的挑戦

ーー前作から衣装もドレススタイルになりました。ご自身ではいかがですか?

岩佐
何より、支度が楽です!(笑) 着物の時はマネージャーさんに帯を結んでもらったりと時間も力も必要だったので、今はすごくスムーズですね。でも、たまに着物を着ると「やっぱりいいな」って背筋が伸びる思いもします。

ーー今回のカップリング曲についてもお聞きします。シンガーソングライターの山崎あおいさんが手掛けられたそうですが、お二人は以前からのご友人だとか。

岩佐
そうなんです!20歳くらいの時から仲が良くて。ずっと「いつかあおいちゃんに曲を書いてほしいね」って話していたんです。これまでのカップリングはカバー曲が中心だったのですが、今回初めてオリジナル曲を収録することになりました。秋元先生に「友達に書いてほしい」と直接相談したら、「僕は全然大丈夫だよ」と快諾してくださって実現したんです。

ーー収録曲の『マリブの海へ連れていって』と『祈り』、それぞれ異なる魅力がありますね。

岩佐
『マリブの海へ〜』は、私が大好きな昭和のアイドル歌謡のような、松田聖子さんの世界観を感じさせる爽やかな曲です。ファンの方もライブで掛け声を入れて盛り上がってくださるんですよ。

一方の『祈り』は、15年目の節目として、ファンの皆さんへの感謝を綴ったポップスです。あおいちゃんとのレコーディングは、友達がスタジオにいるという不思議な感覚でしたが、その分リラックスして新しい自分を引き出せた気がします。

劣等感を抱えたアイドル時代を越えて

ーー15年を振り返り、17歳でデビューした当時と今、一番変わったと思う部分はどこですか?

岩佐
生きやすくなりましたね。当時は10代で、どうしても周りと自分を比べてしまって。「あの子は可愛いのに、私は……」ってコンプレックスの塊でした。総選挙のような、数字で順位が出る環境にいたことも大きかったと思います。でも30代になった今は、自分の欠点も「まあ、それはそれとして」と受け入れられるようになりました。諦め半分、受け入れ半分。心がすごく軽くなったんです。

ーー演歌への転身が、その心境の変化に影響を与えたのでしょうか。

岩佐
間違いなくそうです。AKB48の「ゆるゆるカラオケ大会」というイベントで、母に勧められて石川さゆりさんの『津軽海峡・冬景色』を歌ったのがすべての始まりでした。そこで優勝して、秋元先生に「演歌をやってみたら」と言っていただいて。アイドル時代のような「常に誰かと比較される」という感覚からは解放され、「自分は自分の歌を極めよう」と思えるようになりました。あの時、勇気を出して一人でステージに立って良かったです。

「没頭」が私を整えてくれる

ーーYouTubeなどでも拝見していますが、プライベートではかなりインドア派だそうですね。最近は編み物にハマっているとか?

岩佐
そうなんです!去年の春くらいから始めたのですが、もう沼ですね(笑)。今日も自分で編んだワンちゃん用の帽子付きマフラーを持ってきているんですよ。編み物の魅力は、とにかく没頭できること。編んでいる間は他のことを何も考えなくていい。「編み物は瞑想と同じ効果がある」と聞いたことがありますが、本当に一日をリセットできる大切な時間です。気づいたら深夜2時までやってしまうこともあります。

ーーお料理についても、かなり本格的だと伺いました。

岩佐
タイ料理が大好きで、ガパオライスをよく作ります。バジルやナンプラーもちゃんと揃えて、自分好みの味を研究しています。内向的なタイプなので、家で愛犬を眺めながら編み物をしたり料理をしたりする時間が、私にとってのガソリンになっています。

15年目の「ありがとう」

ーー最後に、応援してくださるファンの皆様へメッセージをお願いします。

岩佐
今年は15年目という特別な年。改めて、ここまで連れてきてくださったファンの皆様に、感謝の気持ちを歌でお返ししたいと思っています。一人でも多くの方に直接「ありがとう」を伝えられるよう、たくさんの機会を作っていきたいです。新曲の『合鍵』はもちろん、ライブでも皆さんと一緒に楽しい時間を過ごせたら嬉しいです。6月28日には神戸でのランチショーも控えています。ぜひ、会いに来てください!

インタビュー後記

ごとうまき
終始、穏やかで飾らない言葉で語ってくれた岩佐さん。ただ、その柔らかな物腰の奥には、15年という歳月を自らの力で歩んできた強さと、音楽に対する真摯な姿勢かしっかりと伝わってきました。かつての「演歌を歌う女子高生」は、今、人生の哀歓を深く歌うことのできる「一人の表現者」として、新たなスタートラインに立っています。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき