【モータージャーナリスト 西川淳氏に聞く】「パンデミックを機に考える自動車の未来」

トヨタ2000GTと西川淳氏
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今までクルマを必要としなかった都会の人々のなかには、今回のコロナ騒動によってその必要性を改めて感じたという人も意外と多いのではないだろうか。一方で今後世界恐慌や新たな感染症が起こるなどと指摘されており、人々の消費活動は以前よりも低くなって、比較的高額である自動車の売れ行きはさらに悪化するとも言われている。アフターコロナ時代において自動車業界はどう変わっていくか、社会と共にどう変わっていくべきか、そしてコロナ騒動の以前から自動車業界の大きな道筋となっている「CASE」は私たちの生活にどんな影響をもたらすのか、モータージャーナリストの西川淳さんにお話を聞くことができた。

西川淳

略歴

奈良県出身、京都大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社

中古車雑誌「カーセンサー」の編集に携わり副編集長を務めた後、34歳で独立。モータージャーナリストとして数々の雑誌・WEBサイトに寄稿、メディアにも出演し、日本カーオブザイヤーの審査員も務めた。またクルマのイベントの主催やコンサルティングなど多方面で活躍中。特にラグジュアリー車、クラシックカー、スーパーカーを得意とする。 公式サイト

 

 

後藤
西川さん、今日はよろしくお願いします。クルマを生業にしている方の前でいきなり失礼かもしれませんが、私全くクルマに興味がなくて、自分で運転するのも嫌で、所有すること自体が煩わしいというか、諸々と面倒だなって思ってるんです。

私は東京では文京区に2年、港区に9年間住んで今は関西2年目なんですが、どちらも都会のど真ん中に住んでいると自動車を所有する必要性がない。サクッと配車アプリでタクシー呼んで、遠出するときはカーシェアでいいし。ただ、結局のところクルマに興味がないっていうのが大きいでしょうね。クルマが好きならどんな環境であれ買ってるのかなって。

そんな私が今回のコロナでクルマ必要だなと思って購入しようとしたんですよ。ただ予算内で自分が欲しいって思うようなクルマがあまりなく、結局都心部を移動するだけならやっぱり必要でもないかなって結論に至って。だけど、自動運転にはとっても興味があるんです。早く自動運転の時代が来て欲しい。どんな未来が待ってるのかってワクワクします。 

西川氏

そう、今回のコロナ騒動で、感染対策という意味ではクルマが最強の移動手段であることにみんな気付いたんだよね。

だから4月の頭くらいまでは安いクルマが売れたり、今まで乗っていなかったクルマを動かすために修理工場が忙しくなったりした。自粛の期間中って繁華街にはウソみたいに誰もいないけれど幹線道路はいつもよりクルマが多かったような気がするし、オフィス街のコインパーキングもけっこういっぱいだった。ということはいつもより多くの人がクルマで移動していたんだよね。公共交通機関使うの怖いからさ。

今後も感染病と共存する社会はしばらく続き、人々の意識はさらに隔離された状態で移動したり食事をするようになる、ということは多くの人がクルマで移動するようになる。だから自動車ってすごくいいよね!と今回のコロナで見直された。

一方でクルマには”悪”があって最大の悪が事故。自分も巻き込まれる可能性があるし人を殺してしまうことにもなる、そういった意味では感染症と一緒だよね。日本では年間3000人もの方が自動車に限らずだけど交通事故関連で亡くなっている、コロナの3倍以上だね。これをできるだけ早くできれば”0”にする、というのが自動車メーカーの一番やらなければならないことで、その自動車事故”0″に向かって進まないことには感染症騒ぎの話じゃないはずなんだ、ホントは。みんなもう慣れちゃって、そこまで神経質になっていないというのも問題だな。

例えば後藤さんが自分で自動車に乗るとしたらどの位の大きさがあればいい?

まき
そうですね、私と子ども達が乗れたらいいかな。小回りが利いて強くて賢いコンパクトなクルマ(笑)
西川氏

そうだよね、クルマのサイズって今のままでいいんですか?って話もある。結構みんな大きなクルマ、たとえばミニバンやSUVに乗りたがるじゃない?そのために必要以上の高性能や快適な装備を与えてそれに高いお金払ってるのよ。それってムダとちゃうか。これにみんな気づき始めたらこれからの自動車はもっとミニマムで必要最低限になる可能性が高い。

なんなら速度だってそんなに速くなくてイイはずだよね。どうせ都心部を移動する平均速度って20~30キロなんだから、20~30キロで渋滞なく動けるんだってそれでいいはず。使うエネルギー小さくて済むしね。事故を起こしても軽度で済むはず。これからは低速化社会小型化社会、それに向けてとくに都心部、そして過疎化している田舎という正反対の場所で住まう人々の移動の自由を保証する小型で安全なマイクロモビリティが必要となってくると思う。それに向けて自動車メーカーや社会システムが変わっていかないと個人の自由な移動を保証する道具がなくなってしまうよ。

 

フランスでは16歳から乗れるマイクロコミューターが検討されている

 

西川氏

ま、ほんとは自転車でエエやんって話なんやけど、子どもが数人いたりとか雨降ったりすること考えたら自動車あったほうが便利だよね。

小さなクルマで良いってことになれば、当然、低エネルギー社会になる。今なぜ電動化に苦労してるかというと今のクルマで置き換えようとするから。とにかくガソリンって便利なエネルギーで、たとえば航続距離ひとつをとっても同じ性能の電気自動車を作ろうと思ったら大変なわけ。でも長距離は違う移動手段でいいとして、多くの人が使うのは近距離移動が圧倒的に多いでしょ。普段使いにはエネルギーの低いクルマ、EVでいいわけ。一日100キロ動かすくらいなら今の技術でもそんなに難しい話じゃない。今後日常生活における個人のモビリティはそういったものにならなければダメでしょうねってこと。

・・・E(Electric)電動化

後藤
クルマの価格も下がりますよね?そうすればより多くの人が購入する。

子どもを連れて田舎に行くのにちょっと大きめのクルマがいるよね、とか大阪から名古屋まで行くとか、そういう時はシェアリングが今よりももっと普及されますよね。・・・S(Shared)シェアリング

西川氏

そう、そしてクルマが互いに事故を起こさない為にはクルマ同士が繋がっている必要がある。これが”コネクティッド”。自分の存在を相手に常に伝えるというか、もっというと”センシング技術”が大切で、そのクルマ自体が人間で言うところの目や耳を持つ。人や自転車やクルマの存在を認識しながら走るんだけど、ここに5Gの通信技術が必要で、互いに大量の動的データを渡しあう。人や自転車はスマホで連動し、クルマはクルマ同士で連動させる。これで事故・渋滞のないスムーズな運転ができ、そこが進化すると自動運転が見えてくるんだけど、そこまでいくにはちょっと早いかな。

・・・C(Connected)接続、A(Autonomous)自動運転

こんなマイクロカーなら乗りたいと思うんだよね。街中で大きいクルマはもう要らないかも、と思わせる説得力があるというか。シトロエンやるなぁ(ヘリテージ名を上手く活用した)。フランスもええなぁ(14歳以上なら免許なしで乗れる) 西川氏のFacebookより

西川氏

そのさらにうえの移動の概念として『MaaS』があって、例えば後藤さんが東京に友達の結婚式に行きますって時に自分のライフスタイルに最も合った移動手段(好みや経済状態に合った)を提案してくれる、そこに決済システムの全てが繋がっていて一つで完結できる。日本ってスイカやイコカなど、もうある程度その素地はできてるよね。そして今後は手段を変えるたびに立ち止まらなくていいっていう”シームレスな社会”が実現する。例えば駅について結婚式場までタクシーで行くという手もあるけれどちょっともったいない。そんな時シェアリングのクルマが駅で準備されていて自分のスマホで乗れれば自分で運転することも友達と一緒にも行ける。そういったことを決済する時から全てスマホで解決できる、なんならレンタル自転車、新幹線、レンタカーなど全部そこにまとめてしまえる。

シームレスな移動を実現する社会システムが『MaaS』、人間の移動がもっともっと楽になるんだよね。

・・・MaaS

後藤
快適な社会ですよね。私の子ども達が大人になったときには22世紀のドラえもんの世界も夢じゃないんですね。空飛ぶクルマも欲しいです(笑)ただ、その一方で問題があるとすればどんなことですか?
西川氏

そう、そこには別の大問題も潜んでいて、ようは「街の経済活動が成り立つんですか?」って話。今回のコロナでもわかったけど人々が出歩くから街が活気づいて経済的に潤っていたわけ。全員クルマで通り抜けるとどうなる?都会が繁栄するのは満員電車に揺られて人々が集まるからであって、その人々が色んな経済活動に関わっている。個人の移動が便利になるとそういったことが無くなるよね。さらに自動運転がきて車道と歩道を分けると事故が起こらなくなっていいんだけど、一方で歩行者が限られた所しか歩けなくなって、例えば美味しいカレー屋さんが道の反対側にあるんだけれど簡単に渡れない、みたいな。そのあたりも考えておかなければ。未来の都市のあり方ってとても難しい課題だから、トヨタの「ウーヴンシティ」計画のように壮大な実験都市を作ろうと自動車メーカーが現れる。人とモビリティと街がどのように共存して生活と経済を成立させるかを考えていかないといけないね。

後藤
西川さんが得意とするスーパーカー、ラグジュアリー車、クラシックカーは今後さらに”趣味のクルマ”といった意味が強くなり”日常車”と”趣味車”がはっきりと差別化されますね。でも、こういったクルマは別格、美しくてセクシーで芸術的。永遠にあってほしいです。

3億円のフェラーリ

西川氏

そうなるだろうね。おそらく趣味のクルマは閉ざされた場所、サーキットなどで楽しむものになる。そういう場所もこれから増えていくと思うよ。ほら、昔、乗馬がそうなったようにね。クルマの運転が将来、オリンピック競技になるかもね!

 

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取材・文/ごとうまき