【アルバムを通して伝える多様性】海蔵亮太が歌い継ぐ“不朽の名曲”「もっと、自由に歌っていく」

アーティスト

日本の音楽シーンにおいて、異彩を放つシンガー海蔵亮太。カラオケ世界大会では2016年、2017年と2年連続世界チャンピオンに輝き、多くのカラオケ歌番組でも賞を総なめしてきた。そんな海蔵が2月22日にカバーミニアルバム「Communication2〜Covers」をリリース。2019年にリリースした1stアルバム「Communication」に続く第2弾となる今作は、時代を彩った不朽の名曲や海蔵の代表曲などが収録。海蔵の抜群の表現力と歌唱力、さらに新たなアレンジによって、“リバイバルブーム”に新たな風が巻き起こる!今回は「Communication2〜Covers」の6曲について深掘り。さらに今年5周年を迎える海蔵の思いについても赤裸々に語ってもらった。

‟歌い継いでいきたい曲”をテーマとした選りすぐりの6曲が収録。

——今作で選曲した曲にはどんなテーマや意味がありますか?

海蔵
コロナ禍、皆思うような生活や活動ができなかった。そんな今だからこそ心に響くような楽曲、そして、“歌い継いでいきたい”をテーマに選びました。自分が生まれる前の昭和の名曲から令和の現代の曲まで幅広い楽曲をカバーしています。

——ちあきなおみさんの「喝采」や山口百恵さんの「秋桜」を歌われるのは初めてとのこと。

海蔵
どちらも歌ったことがなく、「喝采」については、これまで知らなかったんです。歌うことが決まって、曲を沢山聴いていくうちに感じたのは“女性の強さ”。この曲が生まれたのが51年前ですが、当時の女性と現在の女性の価値観は大きく変化しているので、原曲とは違った歌唱法で歌いました。主人公も歌い手の設定なので、自分が歌い手だったなら…と、想像を膨らませて歌っています。

「喝采」に描かれる女性の”覚悟”はいつの時代にも必要なこと

——「喝采」の歌詞は、まるで1つのドラマを見ているかのよう。海蔵さんはこの歌詞をどのように受け止められましたか?

海蔵
今は結婚しても働く女性が多く、女性が家にいる、という時代ではありません。この曲が作られた当時は、女性は結婚したら家に居て守るというのが当たり前とされていた時代。そんな価値観の時代に、女性としての幸せを捨てて、1人の歌い手として世に出て行く決意をした女性の歌。当時、女性が社会に出ていくというのは、相当覚悟のいる事だったんだと思います。そしてそんな中、大切な人との死別を経験する。だけど僕の中では”死別”よりも”女性が社会に出ていく覚悟”についての印象の方が大きかったです。もちろん、今の時代も女性の覚悟が大事。もっと女性が女性らしくいられる世の中であってほしいという思いもあります。

「愛燦燦」は、コロナ禍の暗い世の中における一筋の光

——美空ひばりさんの「愛燦燦」は子どもの頃から歌われている歌だとか。

海蔵
そうなんですよ。子どもの頃、家族でカラオケに行っていた時から好きな曲で、よく歌っていました。今回カバーするにあたって改めて歌詞を見返すと、いい曲だなぁ〜ってしみじみ。この曲はコロナ禍の暗い世の中における一筋の光だと思うんです。生きるのが辛い、人生が嫌になった、そんな人達に響く歌。いろいろあるけれど人生って何が起こるかわからない。とくに、“人生って不思議なものですね”のフレーズは、今の時代にぴったりなワード。歌詞も、現代の曲のように文字数はないんですが、文字がないからこそ、伝わる世界観があるのではないのかなと。

——全てを言わない、余白って良いですよね。俳句や川柳のように少ない言葉から、いろんな情景が浮かんでくる。

海蔵
そうなんです。この曲からは特に日本語のわび・さびを感じていて、こういった曲の方が聴き手ももっと自由に楽しめるのではないのでしょうか。

新たなアレンジで不朽の名作「糸」が蘇る

——中島みゆきさんの「糸」のカバーはまた違った魅力「糸」に仕上がっていますね。

海蔵
僕の中で「糸」は、楽しい曲というより、自問自答を繰り返すような曲だと思っていました。なので今回のアレンジも、明るい部分を削ぎ落とし、淡々と進んでいく感じに。歌詞がより伝わるような曲に仕上がっています。ただ、歌うのには一番苦戦しましたね(笑)。録り直ししたし、レコーディングも1時間かかりました。

——具体的にどんな部分で苦戦しましたか?

海蔵
特に出だしが難しかった。そしてどういう気持ちで歌おうかとか、いろいろ試行錯誤しましたね。とくにこの曲に関しては呼吸音を大事にして歌っています。僕の癖として、歌うときにブレスの音が聞こえないみたいなので、この曲に関しては敢えて息を聴かせることを意識しています。

MVでは手話パフォーマーが「花束のかわりにメロディーを」の世界観を表現

——「花束のかわりにメロディーを」のMVは手話パフォーマーさんとの共演ですね。

海蔵
昨年参加した多様性を認めていくイベント『True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-』で出会った、手話パフォーマンスの方に出演していただいています。手話パフォーマーは、手話通訳士のように直訳するのではなく、音楽の世界をそれぞれのパフォーマーが手話で表現されています。つまり、手話パフォーマーさんが違うと表現方法が異なる。海外では認知されているものの、日本では手話パフォーマーという名前すら知らない人が多い。それが悔しい、と話されているのを聞きました。僕自身、手話パフォーマーの方がイベントで、全てのアーティストの曲に手話で表現されている姿を目の当たりにして感動。僕も多くの方に手話パフォーマンスのことを知ってもらいたく、今回のMVでお力をお借りしました。

——それぞれの楽曲の本質を手話で伝えていると。

海蔵
そう、僕自身が手話パフォーマーさんの解釈や表現を見て、逆に気付かされるんです。耳が聴こえても、作品を見て、手話として伝えたい世界観を感じてもらえるのではないでしょうか。実は、今回「糸」以外の曲にも、手話パフォーマーメインのMVもあるので、順次皆さまにご覧いただけるかと思います。楽しみにしていてくださいね。

敬愛する さだまさし さんが20代で手掛けた「秋桜」

海蔵
「秋桜」を調べたところ、山口百恵さんはこの曲を10代で歌っているし、さだまさしさんが20代の頃に作詞作曲された曲。若い人がこの壮大な世界観を歌っているというギャップに驚き、感動しました。自分も30代に近づき、親の気持ちはまだ分からないけれど、親元を離れる子どもたちの気持ちは少しずつ理解できるようになりましたね。そして、この曲の“親子の愛”のテーマに感動しました。歌う時に気をつけているのは、この曲を誰かに届ける、というより、自分自身に歌うようにしています。

——海蔵さんはさだまさしサンのことが大好きとのこと。

海蔵
もう、大好きです!このメロディーとワードセンスは国宝級ですよ。自分の中では千利休と同じレベル、“さだの利休”。同じ時代に生きていただきありがとうございますと言いたいです(笑)。さだまさしさんは、音楽の在り方を教えてくださる方。大変尊敬しています。

5周年を記念して、新たにアレンジ・収録した「愛のカタチ」

——海蔵さんのデビューシングルで代表曲でもある「愛のカタチ」、5年近く経ち、歌への思いはどのように変化しましたか?

海蔵
この曲をきっかけに、いろんな人に知っていただく機会ができました。デビュー後、アレンジして出来上がった曲を聴き比べた時に、デビュー当時の感情と、今歌っている感情が大きく変化していると実感しましたね。祖父が認知症になったこともあり、より一層、歌詞との距離感が近づいたように思います。

——おじいさまの死、そしてコロナ禍と、この5年間目まぐるしく変化したことも影響しているのでしょうね。

海蔵
はい。コロナ禍で音楽を続けることに悩んだ時期もあったけれど、こうして応援してくださる皆さんの支えがあって続けてこれました。今回は応援してくださる方への感謝の気持ちが、曲に多く出ているように感じます。

“多様性”について考えるように

——グッと大人の雰囲気を纏ったジャケット写真。ネイルも素敵ですね。

海蔵
『True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-』に参加したことによって、多様性とは何か?と考える機会が多くなりました。その一つとして、ネイルを取り入れてみたんです。今は性別関係なく楽しめる時代だし、だったら自分もネイルをやってみようかと、始めました。そう言った意味では、このイベントをきっかけに考え方が大きく変わり、深みを増して、人間として成長できたのかもしれませんね。

——『True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-』はそれほど大きなきっかけを与えてくれたんですね。

海蔵
例えどんな障がいやハンディキャップがあっても未来を生き抜く力強さみたいなものをイベントで感じました。イベントには、様々な国のパフォーマーの方が来ていて、言葉は通じないものの、芸術を通して仲良くなれたし心が通じ合えた気がします。改めて音楽の偉大さを実感していますね。

これからも自由に歌う

——今年でデビュー5周年。この5年間を振り返ってどのような心境ですか?

海蔵
周りからは順風満帆だと言って頂くのですが、自分では上手くいかなかったことの方が多かったんです。チャンスを掴みたくても掴めなかった瞬間も結構ありました。だけど、もう終わってしまったことにクヨクヨしたって仕方ないから、これからはもっと音楽と向きあって、もっと自由に歌いたい!“自由に歌う”は、デビュー時から言っていることです。どんな曲でも海蔵なら歌える、と言ってもらえるような人間になりたいですね。

——今後も海蔵さんらしく、さらに活躍の場が広がるといいですね。

海蔵
昨年のイベントを通していろんな国の人と繋がることができました。今年は国内だけでなく、機会があれば海外でも音楽を届けていけたら。もちろん、日本でまだ回りきれていない場所が沢山あるので、より多くの場所で歌を届けていきたいです。それに、自分はファンの皆さんにすごく恵まれていると思っています。そんな皆さんの期待を裏切らないように、もっともっと、自由に歌う姿を見せていくので、5年後、10年後も見守ってください。

インタビュー・文/ごとうまき