【こおり健太インタビュー】歌手として、店主として。二足のわらじで見えた「景色」

インタビュー

演歌界の“おんな唄の伝道師”として確かな地位を築いている、こおり健太さん。2025年10月8日にリリースされた新曲『十六夜(いざよい)橋』は、彼が磨き続けてきた艶と哀愁が極まった一曲となっています。しかし、今回のシングルはそれだけではありません。カップリングには、地元・宮城のラジオ番組から生まれた、これまでのイメージを覆す爽快なナンバー『LALALA君と生きる』を収録。

歌手として、また飲食店オーナーとして、激動の2025年を駆け抜けたこおりさんに、新曲に込めた想いと、愛犬「ずんだ」への愛、そして「責任」を胸に刻んだ2026年への展望をじっくりと伺いました。

極め抜いた「女唄」と、ラジオから生まれた「希望の唄」

――新曲『十六夜橋』、拝聴しました。まさに“おんな唄の極み”とも言える、こおりさんの真骨頂を感じる作品ですね。一方で、カップリングの『LALALA君と生きる』は、イントロから心がパッと明るくなるような、全く異なる魅力が詰まっています。

こおり
ありがとうございます。今回はまさに「動」と「静」、「陰」と「陽」のような、真逆の特性を持つ2曲になりました。実は制作の順序も少し特殊で、今回はカップリングの『LALALA君と生きる』のプロジェクトからスタートしたんです。

――東北放送(TBCラジオ)のワイド番組『GoGoはみみこい ラジオな気分』とのタイアップ企画ですよね。

こおり
そうなんです。「昭和100年特別企画!後世まで歌い継がれる宮城の名曲を作ろう!」というテーマで昨年の春から動いていました。作詞は番組パーソナリティの佐々木淳吾さん。以前から「いつか歌詞を書いてみたい」とおっしゃっていて。そこに前作からお世話になっている桧原さとし先生が曲をつけてくださり、リスナーの皆さんから寄せられたワードをパズルのように組み合わせて作っていきました。

――タイトルにある「LALALA」というフレーズが耳に残ります。

こおり
もともとは「僕らのふるさと」という仮題だったんです。でも、生放送中にリスナーの皆さんとやり取りする中で、自然と「ラララ」という言葉が飛び出してきて。「これは絶対にみんなで一緒に歌えるキーワードになる!」と確信して、僕から「どうしてもタイトルにLaLaLaを入れたい」とお願いしたんです。

――アレンジも、これまでの演歌の枠を超えた爽やかなサウンドですね。

こおり
編曲の杉山ユカリさんは、もともとシンガーソングライターとしても活動されている方。世代を問わず楽しんでもらえるサウンドにしたくてお願いしたのですが、期待以上の爽やかさで、僕の新しい一面を引き出してもらえました。

――この曲は、単に明るいだけではなく、どこか深い温かさを感じます。

こおり
実は、2番の歌詞には地元のリスナーの皆さんの強い要望で、震災についての想いが込められています。僕自身、前向きな歌を作る時に震災をどう扱うべきか、葛藤もありました。でも、皆さんの「どうしても伝えたい」という切実な願いを受けて、「悲しみを超えた先にある光」を表現しました。100年後まで歌い継いでほしい、そんな願いがこもっています。

吐息のなかに情景を置く――『十六夜橋』の美学

――そして表題曲の『十六夜橋』。こちらは一転して、静寂の中に月明かりが差すような、美しい情景が浮かびます。

こおり
「十六夜(いざよい)」は、満月を過ぎて少しだけ欠け始める月。ためらいながら昇る月のように、好きな人と添い遂げられない女性の切なさ、悲しさを描いています。麻こよみ先生からこの歌詞をいただいた時、その言葉の美しさに背筋が伸びる思いでした。

――歌唱において、特に意識されたことはありますか?

こおり
「歌い過ぎないこと」ですね。演歌だとどうしても力強く節を回したくなりますが、この曲はゆったりとしたテンポの中で、言葉を丸く、そっと置いていくようなイメージ。力を抜いて、吐息の延長線上に物語を乗せる……。そこに一番気を使いました。

――レコーディングが史上最短で終わったという噂を耳にしましたが。

こおり
そうなんですよ!(笑) 3回歌ったか歌わないかくらいで終わってしまって。麻先生も桧原先生も本当にお人柄が温かくて、まるでお母さんのような優しさで包んでくださる。先生方の想いがスッと自分の中に落ちていたので、迷いなく歌えたのが早さの理由かもしれません。

歌手として、飲食店オーナーとして。二足のわらじで見えた「景色」

――こおりさんといえば、歌手業の傍ら飲食店も経営されていますね。オープンから1年半が過ぎましたが、振り返っていかがですか?

こおり
正直、体力的には「死んでるな」と思う日もあります(笑)。でも、始めて本当によかった。歌手をやっているだけでは絶対に出会えなかった方々と繋がれるのが面白いんです。「食べる」「飲む」というのは、世代を問わず共通の行為ですから。

――お店では「歌手・こおり健太」を全面には出されていないとか。

こおり
あえて言わないようにしています。でも、どこからか情報が広がって、今では業界の方や歌手仲間も集まってくれる。コロナ禍を経て、演歌ファンの方々だけでなく、もっと広い層にどうアプローチするかを考えていた時期だったので、お店での出会いは僕にとって大きな財産になっています。

愛犬「ずんだ」が教えてくれる、人生のブレーキ

――お忙しい日々の中、愛犬の「ずんだ」との時間は確保できていますか?

こおり
それが一番の悩みどころで……。以前は1〜2週間東京を空けることも平気でしたが、今は「ずんだが待っているから」と、200日連続で東京に戻るほどです(笑)。

――ずんだ君が、良い「ストッパー」になっているのですね。

こおり
まさにそうです。20代、30代のように「これでもか」と無茶をすると、いつか体が壊れてしまう。自分ではなかなかブレーキをかけられない性格ですが、ずんだがいるおかげで「今日はここまでにして帰ろう」と、自分をコントロールできています。彼には本当に感謝しています。

2026年――「広げる」よりも「深く、大切に」厄年を終え、背負う責任の重み

――2025年は厄年(後厄)の年でもありましたが、どのような1年でしたか?

こおり
「役割を持て」という意味での厄年だった気がします。お店を始めたのもそうですし、自分一人の夢を追いかけるだけでなく、周りの人の人生をも背負う責任を強く感じた数年間でした。

――お店で働いている方々への想いも強いとお聞きしました。

こおり
今、うちで働いてくれているのはミャンマーから来た学生さんたちが中心です。母国の情勢が大変な中、命がけで日本に来て、一生懸命働いている。彼らの生活を守らなきゃいけないという思いは、歌手としての自分にも良い緊張感を与えてくれています。

――最後に、2026年の抱負と、今後挑戦したいことを教えてください。

こおり
2025年を振り返ると、別れも多い年でした。だからこそ、2026年は「今ある縁」をより深く、大切にしたい。むやみやたらに新しいものを追いかけるのではなく、これまで支えてくれたファンの皆さんに、どれだけ感謝を伝えられるか。そこに注力したいと思っています。

――具体的な目標はありますか?

こおり
いつか、地元・宮城で大きな「フェス」を開催したいですね。お世話になった故郷に錦を飾るじゃないですが、リスナーの皆さんや地域の皆さんと一緒に、音楽で一つになれる場所を作りたい。今回の『LALALA君と生きる』が、その第一歩になれば嬉しいです。

【インタビュー後記】

どんなに多忙でも、常に周りへの感謝を忘れず、責任感の強いこおり健太さん。女唄で聴かせる繊細な表現力と、お店を切り盛りするガッツ。その両輪があるからこそ、彼の歌声には深みが増しているのだと感じました。新曲『十六夜橋』、そして『LALALA君と生きる』。この二つの歌が、2026年の日本を優しく、そして力強く彩ってくれるはずです。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき