【笑うはずが涙!】時代に翻弄されながらも強く逞しく生きる女役者の感動喜劇『泣いたらあかん』観劇レポート

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 大正から昭和の戦後へと激動の時代を逞しく生きた1人の女役者の生き様を描いた舞台『泣いたらあかん』が大阪・新歌舞伎座にて6月20日(火)まで上演中。本作は新歌舞伎座を設立した松尾波儔江(はずえ)の自伝『女役者』を基に作られ、これまでに3度上演された人気作。今回は松尾波儔江三十三回忌善として、16年ぶりに上演されている。初演と再演に続き、今回も藤山直美が主演を務めるが、脚本、演出、キャストは新しくなり、新『泣いたらあかん』が展開される。出演は藤山直美、榎木孝明、南野陽子、仁支川峰子、石倉三郎、内場勝則、金子昇、といった様々なジャンルで活躍する豪華で多彩な顔ぶれが揃う。

あらすじ

 舞台は昭和の大阪、劇団「大和なでしこ」という一座を率いる座長・川路鹿子(藤山直美)は、子どもの頃から父・川路流星(石倉三郎)の一座で、同年代の尾形耕三(榎木孝明)や辛島征爾(金子昇)ら座員と稽古に励み、やがて看板女優に成長していった。そんな鹿子に惹かれた耕三と征爾は鹿子を巡り対立、やがて鹿子と耕三は恋仲になる。失恋した征爾は一座を辞めて、軍の士官学校へ入る。

 そんな中、父が後妻・喜久江(仁支川峰子)との娘・禎子(南野陽子)を一座に入れると連れてきたが、芝居未経験の義理の妹を一座に入れることに鹿子は猛反対、仲裁に入った劇場の座主・松本國(大津嶺子)と社員の菜種千吉(内場勝則)も鹿子に加勢し、鹿子を座長にした新たな劇団「大和なでしこ」を旗揚げさせると宣言する。やがて川路流星一座は解散に追い込まれ、父と娘は喧嘩別れとなってしまう。

 その後、鹿子と禎子は“対照的な姉妹”として人気を博すが、ある些細なことをきっかけに鹿子は家族との間に大きな溝を作ってしまう。そして、その溝は鹿子の人生を波乱万丈へと導き、やがて劇団「大和なでしこ」も戦争の渦に巻き込まれていく──。

喜劇女優・藤山直美と多彩な役者たちの化学反応に心洗われる。

 本作には時代と共に変化する人やモノ、それでいて変わらないモノ、「家族愛」「姉妹愛」「赦し」など様々なテーマが散りばめられている。鹿子が子役として舞台に立ち、やがて女座長として活躍するところは当時の時代背景や、人々の営み随所に描かれ、個性豊かな役者達の化学反応によって、笑いあり、涙ありの豊潤で味わい深い作品として昇華されている。

 魅力的な登場人物は鹿子だけではない。姉に憧れる腹違いの妹・禎子、妻の鹿子をアッサリと裏切り、大陸に渡ってしまう夢追い人の尾形耕三、戦争によって人を信じることができなくなった辛島征爾など、時代に翻弄された人々の人間臭い人物像もなぜか憎めない。

 対立、裏切り、失望……、抗うことのできない時代の波。それでも前を向かないといけない、生きていかなければならない、役者は“泣いたらあかん”のやと。幾多の試練や苦難を乗り越え、逞しく生きる鹿子の生き様に観る人の多くが心揺さぶられ、涙することだろう。とはいえ、本作は喜劇だけあって、とにかく笑いが多い。普通ならしんみりとするような場面も巧みに笑いに変えていて、これが本作の魅力の一つだ。演者と観客が一緒になって笑って、ときに涙する。この臨場感と一体感が生の舞台の醍醐味だ。是非一緒に笑って、泣いて、劇場を出たときの爽快感を体感してほしい。『泣いたらあかん』は大阪・新歌舞伎座にて6月20日(火)まで上演中。

公演概要・チケット

松尾波儔江 三十三回忌追善
『泣いたらあかん』
出演:藤山直美・榎木孝明・南野陽子・仁支川峰子・石倉三郎・内場勝則・金子昇 ほか
公演期間 2023年5月28日(日)~6月20日(火)
料金 (税込)
1階席 13,000円
2階席 7,000円
3階席 4,000円
特別席 15,000円

チケット:「泣いたらあかん」 ○一般発売 | 新歌舞伎座ネットチケット[演劇 演劇のチケット購入・予約] (pia.jp)

新歌舞伎座テレホン予約センター:06-7730-2222(午前10時~午後4時)

撮影:髙村直希

文:ごとうまき