【大沢桃子インタビュー】“誰かのため”が制作の原動力に。好きな音楽で世の役に立ちたい。

アーティスト
 女性演歌歌手としては珍しいシンガーソングライター・大沢桃子が今年デビュー20周年を迎えた。20周年記念シングル『ねがい桜』が2023年8月2日に発売され、オリコン週間シングル演歌・歌謡ランキング(8月14日付)では、初登場4位を獲得し、好調な売れ行きだ。『ねがい桜』は岩手県・普門寺本堂に奉納されている“つるし飾り″で、布地の桜の花に東日本大震災の犠牲者・行方不明者への祈りと想いを記したもの。“大切な人を忘れない”という普遍的なテーマと王道演歌で紡ぐ曲が、聴く人の心を癒してくれる。今回は楽曲やMVの制作秘話をはじめ、今後の活動や野望を語ってもらった。才能豊かな大沢さんの人生や仕事に対する哲学も垣間見ることのできる時間となった。

デビュー20周年記念シングルで原点回帰

── 『ねがい桜』はどのような思いで書かれた曲ですか?
大沢
この曲を書くまでは「ねがい桜」の存在を知りませんでした。今回は復興や震災というテーマでは書いておりません。“二度と散らない桜″というワード、これは誰しもが人生の中で経験すること。命ある限り、愛する人、大切な人を忘れたくない……胸に咲かせた桜を、二度と散らすことなく生きていこうという心の歌となっています。 
大沢
ねがい桜は、私の故郷、大船渡市の隣りの陸前高田市の商工会女性部が中心となって、2013年から進めてきたプロジェクト。ちりめんの布が本当の桜の花びらみたいなんです。その中に犠牲者や行方不明になった方への手紙を入れて、つるし飾りになっています。ギネス世界一記録にも認定されているんですよ。この曲は聴いてくださる方、歌ってくださる皆さんに“自分の歌″と思ってもらえるくらいに愛してほしい。そんな思いを歌に込めました。 
── 大沢さんのこれまでの曲は、故郷をテーマとした曲が多いですよね。
大沢
そうなんです。ただ自分の中で意識してご当地ソングや復興ソングを書いているわけではないんです。歌を通して故郷の魅力を知ってもらうきっかけになれば……。私の曲で、“そんな場所が岩手にあるんだ!”って知ってもらえると嬉しいですね。 
── 曲調は王道の演歌ですね。曲づくりや歌う部分で意識されていることは?
大沢
今回は20周年記念シングルとして、演歌・歌謡曲ファンの皆さまが喜んでくださるような楽曲を初心に戻って作りました。この曲は歌い出しが大切で、語るようにして歌っています。一番最後のフレーズ“人それぞれに 夢それぞれに ねがい桜″の部分が好きで、ここから曲を書きました。 

聴く人それぞれの思いが重なる

──聴いた方からどんな声をいただいていますか?
 
大沢
今回とても反響が良いんです。メジャーな曲調とはいえ、涙してくださる方がいて。きっとそれぞれが持つ思いと重なるのかな……。CDを買ってくださった方から“桃ちゃんありがとう″という嬉しいお言葉をいただいたり。この人の人生に『ねがい桜』の思いが重なった瞬間なんだと、私も作って良かったとしみじみ感じます。 
 
── MVでの大沢さんもとても表情が豊かです。コンセプトやロケ地についても教えてください。
大沢
事務所の社長の娘さんが千葉県御宿町に嫁いでいて、嫁ぎ先の隣りの古民家で撮影しました。なんとここ、古民家を利用した予約必須の農家レストランなんです。小鉢が20種類も出てきて、昼食もとても美味しくいただきました。 
大沢
人の思い出の中に幸せがあると思うんです。大切な人を思い出す時って特別な瞬間じゃなく、日常生活の中で、あの人こうしてたな、あんなこと言ってたなとか……ふと思い出すことが多いのかなって。生活の中でも、いつもあなたのことを思っているよ、忘れていないよ、というメッセージをテーマに撮りました。いざ完成したものを見たら、お掃除ビデオみたいになっていますけど(笑)。 

 

エレキバンドも結成15周年!家族のような存在

──カップリングには2012年に発売された『恋し浜』のカップリング『御祝い大漁節』が収録されています。今回アレンジを加えて、再度収録されたとのことですね。
大沢
地元に伝わる大漁唄をモチーフにして演歌を書きました。今回収録したバージョンはコンサートでも歌っていました。毎回とても盛り上がるんですよね。20周年という節目に景気付という意味も込めて収録しましたが、テンポはかなり上げてアレンジし、エレキバンドのフレーズもカッコよく入っています。お祭りやライブでもこの曲で盛り上がっていきたいですね。 
── 大沢さんはエレキバンドもされているんですよね。
大沢
はい。コンサートを見にきてくださった皆さんも、とても喜んでくださるんです。エレキバンドも今年で結成15周年。バンド仲間もコンサートスタッフさんも修業時代からの私を知ってくれているので大変心強い存在です。そりゃ皆20年経ったら老けるよねって(笑)。 
──シンガーソングライター(仲村つばき 名義)として活動されていますが、曲作りを始められたのはいつからですか?
大沢
歌の師匠であり、エレキの神様と呼ばれていた寺内タケシ先生との出会いをきっかけに曲づくりを学びました。それまで書くなんて思ってもいませんでしたから。私の曲づくりの原動力になっているのが″誰かに喜んでもらいたい”なんです。自分の為にはやりたくなくて。どんな仕事でも“誰かのために″と思うと頑張れるし、思いも膨らむのではないのでしょうか。でも結局は母が“良い”って言ってくれることが一番嬉しいんですよね。母は辛口なんですけど。 

好きな音楽を通して、世の中の役に立つ活動をしたい。

──今後挑戦してみたいことはありますか?
大沢
東日本大震災から10年目の年に、風化させてはいけないという思いを込めて、私が幼い頃より祖父母から受けた教訓から「てんでんこ」の言葉を用いて制作しました。現在、合唱曲を通して防災意識を高め合うという目的で「命の道」つなげるプロジェクト〜防災伝承歌〜を行っています。無償で合唱用の楽譜を教育機関や市民合唱サークル団体等にお届けしたり、英語バージョンも作りました。さらに今年の夏から、『命の道』をダンスバージョンにアレンジし、東京のコンサートでは、埼玉県春日部市の小学生たちが「ちびもも」というチームを結成し披露してくれたんですよ。今後はダンスバージョンも広めていきたいですね。実は今、中国語バージョンも作っているんです! 
大沢
目標としては『命の道』を教科書の中で取り扱ってもらいたい。そしてアニメーション化して、防災教育の教材としてお届けできたら。歌の道を歩む間はこの活動を一つの柱としていきたいです。 
── 『ねがい桜』のジャケットのタイトルは大沢さん直筆ですよね!大沢さんと言えば、書道8段の腕前を活かした「今日の書道」が印象的です。毎朝欠かさず更新されていて、驚きました!
大沢
はい、筆ペンで毎朝欠かさず書いています。X(Twitter)を始めた時に何を呟いていいかわからず、書を書いて載せていたんです。それこそ一週間でやめようと思っていたんですが、今では毎日のルーティンになっています。朝5時出発の時など、前夜に書けばいいと言われるんですが、なんだかズルしているみたいで出来なくて(笑)。「今日の書道」にも皆さんがコメントをくださるから、嬉しいですよね。言葉を乗っけるときちんと返ってくる。歌と同じですよね。 
コロナ禍は書道で仕事
大沢
コロナ禍で仕事がない時は書道のお仕事で食べていました。かなりの数のお店の暖簾や看板を書かせていただいたり……人生何に助けられるか分からないですね。 
── 今年で20周年。どんな20年でしたか?
大沢
今があることに感謝です!誰だってそうだと思いますが、良い時ばかりではありません。次の作品が出せないんじゃないかっていう低迷期もありました。だけどそんな時も、皆さんの支えや応援が私の力になりました。次は25周年に向かって、これからも皆さんへの感謝を力にして一緒に頑張っていきますね。これからもよろしくお願いします! 

 

インタビュー・文・撮影:ごとうまき