人間は愚かだ。先のない恋だとわかっているのに気付けば相手に夢中になってしまう。「恋愛は惚れたもん負け」「失恋はいつだって時が解決してくれる」何度も耳にする恋愛論。今この瞬間も世界中のあちこちで“情熱的な”恋の物語がいくつも生まれているのだろう。まぁ、そのおかげで子孫繁栄、こうして私もこの世に存在しているわけだ。
本作は大ベストセラーを記録した「シンプルな情熱」を映画化。ノーベル文学賞の候補にも名を連ねるフランス現代文学を代表する作家アニー・エルノーの年下既婚男性との官能的な実体験が赤裸々に綴られた恋愛小説の傑作(1991年に発表)、大反響を巻き起こした。
あらすじ
パリの大学で文学を教えるエレーヌは、あるパーティでロシア大使館に勤める年下の男性アレクサンドルと出会う。エレーヌは彼のミステリアスな魅力に強く惹かれ、瞬く間に恋に落ちる。彼女は自宅やホテルで逢瀬を重ね、アレクサンドルとの抱擁がもたらす陶酔にのめり込んでいく。今までと変わらない日常を送りながらも、心の中はすべてアレクサンドルに占められていた。気まぐれで妻帯者でもあるアレクサンドルからの電話をひたすら待ち続けるエレーヌの恋の行方とは…。
『若い女』でリュミエール賞有望女優賞を受賞したレティシア・ドッシュがエレーヌを演じ、日本でも大ヒットした『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のセルゲイ・ポルーニンが恋人役を熱演。ポルーニンの鍛え抜かれた見目麗しい肉体美とミステリアスな眼差しはため息もの。愛の街パリを舞台に、美しく官能的なベッドシーンを通して愛の歓びがスクリーンいっぱいに広がる。
女性ならではの視点に共感!
本作はシングルマザーで大学教員のエレーヌが年下既婚男性との甘く切ない恋の日々と情熱が描かれている。恋がもたらす多幸感と苦しさは自身を一皮も二皮も剥かせてくれる最高のギフトかもしれない。とはいえ、彼女の“情熱”は行き過ぎだ。仕事の論文にも手がつかず、息子の世話も上の空、ほぼ育児放棄で情事に耽るエレーヌ。母親信仰の強い日本人には理解できないかもしれないが、フランスでは‟夫・彼氏>子ども”という構図がわりとスタンダードだ。ただし本作のエレーヌの育児放棄っぷりはあまりにも酷い。ここまで恋にのめり込むと手の施しようがなく、ただただ‟痛い女”でしかない。
恋はアルコールと同様とびきりの快楽と高揚感、時には人生を豊かにしてくれる良薬であることには違いない。どっぷりハマりすぎると毒薬となり中毒に。しかし恋愛はアルコールと違い相手のあることだから自分ではコントロールが難しい。大人の恋愛の楽しみ方とはスパイスを味わいながらも常に客観的に自分を見つめることが大切なのではないだろうか。自戒も込めて。
この関係性を観る人がどうとらえるか?
この関係性は女性が勝手に盛り上がっているだけで男性からすればただの‟都合の良い女”、そこには大して愛などないわけで・・・。日本ではこの関係性を‟セフレ”というなんとも軽薄なカテゴリーに分類されると思うんだけど、この虚しい関係を情緒的にロマンティックに小説にし映画化できるのはさすがである。ストーリー的にはエレーヌに突っ込むところが多い(この人やばい的なw)が、所処に共感するところも多い。また、さすがはフランス映画。オシャレで粋で、画は素晴らしい。
また本作は男性からの共感は少ないのではないかと。重い恋煩いになった女心を理解するには良い教材かもしれない。いま、恋愛で苦しんでいる只中の人、また過去にこのような激しく苦しい恋愛を経験した人、またはメンヘラちゃん(失礼)はめちゃくちゃ共感するだろうし、そして絶賛不倫中の人にも是非見てほしい作品だ(色々と目が覚めるでしょう)。とはいえ、成就できない恋も弄ばれた恋愛も、全ての恋愛は人生を豊かにし、自分を成長させてくれるのは間違いない。
なんせベッドシーンの数が多すぎて、もはや何も感じないくらいなんだけど、多少気まずくなるので一緒に観る相手は選びましょう!
シンプルな情熱
文/ごとうまき