【佐藤優樹インタビュー】モーニング娘。の「石の土台」から、自分だけの道へ。全19曲に刻まれた再生のストーリー

J-pop

19曲に込めた優樹の軌跡

モーニング娘。10期メンバーとして加入し、約7年間グループの中心メンバーとして活躍した佐藤優樹(さとう まさき)2021年12月に卒業後、音楽大学での学びを経て2023年にソロデビュー。そして2025年10月22日、待望の1stアルバム「now rise」をリリース。全19曲という大ボリュームのアルバムには、彼女のこの数年間の葛藤と成長、そして再生のストーリーが刻まれている。

今作では「優樻(まさき)」名義での作詞、「rire」名義での作曲も手がけ、クリエイターとしての才能も開花。さらにポルノグラフィティの名曲「サウダージ」、ボカロ曲「右肩の蝶」といったカバー曲も収録し、多彩な表情を見せている。

モーニング娘。という強固な土台から、ソロ活動へ——。その中で彼女は何を感じ、何を掴んだのか。アルバムに込めた想い、音楽大学での学び、そして父への想いを綴った「Small voice」の秘密まで、赤裸々に語ってくれた。

「やりたくない」から「やりたい」へ——気持ちの変化の記録

――アルバム発売おめでとうございます。全19曲、ボリュームがありますね。

佐藤
そうですね、みんなに言われます(笑)。今回全19曲収録したのには理由があって、一番やる気がなかった時期から、「やらなきゃいけない」に変わって、そこから「やりたい」に変わるまでの声色が全部入ってるんです。モーニング娘。の時は、つんく♂さんの明確な指示があったし、モーニング娘。がどうあるべきかっていう土台ががっつり固まっていた。でも佐藤優樹としては土台もコンセプトも決まってない中で新曲を紹介しろって言われて、何を話せばいいのか分からなくて。もうやりたくないってなっちゃったんです。

――それはいつ頃のことですか?


佐藤
「ロマンティックなんてガラじゃない」の時ですね。リリースイベントもキャンペーンも何もしたくないって言ったら、連続でコロナになっちゃって。体が拒否反応を起こしていたのかな。例えるなら、川を渡る時に石があったら渡れるじゃないですか。優樹の場合、全部土とか段ボールみたいな感じで、踏んだら潰れちゃう状態だったんですよ。でもモーニング娘。は石とか鉄のパイプがしっかり並べられてた。そこから、優樹も渡れるように土台を作ろうってなるまでの声が全部入ってるんです。

同期・石田亜佑美との絆、そして選ばれた3つのカバー曲

――2曲目の「Error!」は10期の同期・石田亜佑美さんがラップ部分を担当されていますね。


佐藤
亜佑美には本当に感謝しています。モーニングの時、ディレクターさんに「佐藤、ラップ下手やから録らなくていいよな」って言われるぐらい下手くそだったんですよ(笑)。ラップとセリフ系と可愛い曲は「ブリッコすぎてダメ」とか言われて。「Error!」にはラップがあるんですけど、歌ってみたいってなった時に、ラップはできないなと。それで「亜佑美ちょっと付き合ってくんね」みたいな感じで電話したら、「いいよいいよ」って快諾してくれました。

――カバー曲3曲の選定理由を教えてください。


佐藤
「サウダージ」は、やる気のない優樹を起こすきっかけとなった曲でした。「戻って来い」って思いながら歌ってました。その後に「右肩の蝶」があって、これは嫌だって思っている自分を変えるのは自分次第なんだっていうのを気づかせてくれた曲です。「右肩の蝶」は、妹が聴いてたのがきっかけでした。「何の曲?」って聞いたら「右肩の蝶だよ」って教えてもらって。すぐにスタッフさんに電話して「右肩の蝶、歌いたいです!」って(笑)「サマーナイトタウン」は、私が大好きなお姉ちゃんみたいな存在の田中れいなさんと。ファーストアルバムには田中さんと一緒が良いと思って。

作詞・作曲への挑戦、そして父への暗号「Small voice」

――今回、「優樻」名義で作詞、「rire」名義で作曲も手がけられていますね。作曲された楽曲は優しくて美しいメロディーが印象的でした。


佐藤
ありがとうございます。私、ああいう曲しか作れないんですよ。ピアノからしか作れなくて、ピアノだから逆にみんなは嫌いなんじゃないかなって思ってたんです。

――4曲の中で特に思い入れのある曲は?


佐藤
一番は「Small voice」です。父が入院した時に作りました。父は3人姉妹それぞれに合った育て方をする人で、言葉も一人ひとり違うんです。でも1つだけ、3人全員に同じことを言ってくる言葉がある。それを暗号として「Small voice」に入れました。遠い未来に父が死んだ時、私たち3人だけが思い出せる暗号として。父はよく「親が死んだ時に仕事と重なったら、仕事を優先しなさい」と言っていました。だからせめて、父が隣にいるように感じられる曲を、自分の未来のために作ったんです。記憶ってどんどん薄れていくじゃないですか。脳内に微かに残っている声、それを「Small voice」と名付けました。

――「All right」と「reverie」はどういう曲ですか?


佐藤
ファンの方の声だったり、お喋り会をした時に得たヒントを曲にしました。私と話したことがある方は分かるような曲になってると思います。

ファンを置いていかない——「愛のサバイバー」に込めた想い

――アルバム曲の中で一番思い入れがある楽曲は?


佐藤
やっぱり「愛のサバイバー」ですね。佐藤優樹として、モーニング娘。時代には無かったカラーの楽曲に挑戦しているのですが、これまでの曲のテイストとはかなり違ったものばかりだと・・・。新しいテイストも受け入れるけど、つんく♂さんの曲で付いてくださったファンの方を置いていくこともしたくない。新しいことに挑戦したいけど、このファンの人達のことを置いていかない曲を作って欲しいと、ディレクターさんと5、6時間話しました。その後にその曲を作ってきてくださって。めちゃくちゃいろんなものが詰まった曲です。

 

卒業セットリストが示した未来、音大で学んだ歌の本質

――卒業コンサートでのセットリストがその後の道を示していたとか。


佐藤
自分が卒業した時のセットリストを全部見返した時に、面白いことに怠けるところからやる気が出るところまでの言葉が全部並んでいたんですよ。「青春Night」「Help me!!」「One・Two・Three」のメドレーで、最後に「笑顔の君は太陽さ」があって、歌詞にある“大人になってからもまだ勉強は続く”“悔しいは忘れない方がいい”とか。このセットリストにすごいヒントをもらって、自分がどうすべきかっていうのが分かった。これからの未来を提示してくれたみたいな。だからつんく♂さんから頂いた曲にすごく感謝をしてます。

――音楽大学での学びを経て、声との向き合い方に変化はありましたか?


佐藤
めちゃめちゃありました。ボイトレの先生に「あなた10年間本当に歌手やってたの?」って言われたぐらい(笑)。優樹は今まで16ビートだけを気をつけて歌ってきたんですけど、先生が「16ビートはベースだけど、楽曲の持っているノリに乗っていかないと音楽なんて遅く聞こえてつまんない」って。「アイドルの子たちは皆、脇をしめて歌うけど、脇を開けなさい」って言われて。歌は身体で歌うもの。16ビートも大切だけど、音色やグルーヴ、全部体のノリが違うんだと教えてもらいました。先生が歌うと、私の曲が私の曲じゃなく聞こえたんですよ。それがすごくかっこよくて。

――音楽大学で学んだこと、今作に生きてる要素は?


佐藤
確かに他人からの信頼は得られるし、ルールは知れるんですけど、独創性は少し無くなるかもしれないです。頭の中がルールで出来上がるから。優樹の場合は、逆にルールを知れたことによって、知らないコード進行を知れたから楽しかったです。

ソロ活動のいま、付き合いたてのドキドキ感がある

――モーニング娘。時代とソロ活動、パフォーマンスにおいて違いは?


佐藤
今はそんな余裕はありません(笑)。モーニング娘。の時は土台がしっかりあって、全部固まっている状態でした。照明さんの動きさえ覚えれば、何が来るか分かった。でもソロになった今は、MCで話す内容を忘れないことに必死なんです(笑)。日にちを間違えないようにしないと、とか。今の私の土台はまだダンボール。本当に立ったらプスンって落ちちゃうぐらい。でもその土台を作るのがすごく楽しいんです。こういう初々しさってなかなか味わえないじゃないですか。だから、もう一度この経験ができることがすっごく楽しくて。

――今後の展望を教えてください。


佐藤
私だけの秘密基地を作りたいです!都内ではなく森に。お仕事頑張って森に帰るっていう2拠点生活。まさきはファンの方にパワーをあげたいんですよ。休憩した時にバッテリー溜めて、ファンの人にすごい元気になってほしいなって。私は森のパワーを吸い取っていきたいなと思いました。

 

インタビュー・文・撮影:ごとうまき