【レポート】不登校、夫婦のすれ違い、そして「自分を満たすこと」――映画『柊吾のこと』が問いかける家族の光

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ヤマト住建が日本初の試みとして製作したオリジナルショート映画『柊吾(しゅうご)のこと』。主演に市川由衣さん、監督に犬童一利さんを迎え、どこにでもある家族の“今日”を静かに、かつ濃密に描いた本作の舞台挨拶が3月16日(月)大阪で行われた。
10年ぶりに大阪の舞台に立った市川さんと、自身の葛藤を作品に投影したという犬童監督。撮影の裏舞台から、作品に込められた切実な願いまで、お二人の言葉を余すことなくお届けします。

「両方本当」でいい。自己犠牲の先にあるもの

── 本作は、不登校の息子を持つ主婦の葛藤や夫婦のすれ違いなど、30分という短編ながら非常に深いテーマを扱っています。まずは犬童監督、この物語が生まれたきっかけを教えてください。

犬童監督
 実は本作、僕自身が監督として3年ほどのブランクがあり、精神的に少し立ち止まっていた時期にオファーをいただいたんです。旧知の仲であるヤマト住建の磯野さんから「自由に撮っていい」と言っていただけて。そこで自分に問いかけたとき、出てきたメッセージが二つありました。
一つは「相反するように見える二つの感情も、両方本当なんだ」ということ。主人公の秋帆(あきほ)で言えば、息子が心配でたまらない気持ちも本当だし、かつて愛した音楽をまたやりたいと思う気持ちも本当。どちらかを優先すると、もう片方をないがしろにしている罪悪感に駆られがちですが、そのどちらも大切にしていいんだと伝えたかった。

── 「母親だから自分のことは後回し」という風潮に対する、監督なりのアンサーですね。

犬童監督
そうですね。二つ目は「自分を満たさないと、周りも満たせない」ということ。友人から教わった「シャンパンタワーの法則」という言葉があるのですが、1段目の自分を満たして初めて、2段目の家族、3段目の社会へと溢れていく。お母さんたちが陥りがちな自己犠牲ではなく、まずは自分を大切にすることの重要性を描きたかったんです。

「私自身、中学時代は不登校だった」市川由衣が語る役とのシンクロ

── そんな悩める主婦・秋帆を演じられた市川さん。プロットを読んだ際、どのような印象を持たれましたか?

市川
私自身、小学3年生の息子を持つ母ですので、台本にある悩みや子供との距離感には、痛いほど共感しました。日常の中で「あぁ、今日は最悪だったな」と思う日があっても、この映画を観ることで「明日もまた踏ん張ってみよう」と思ってもらえたら……そんな願いを込めて出演を決めました。

── 実生活での経験が演技に活かされた部分も大きかったのでしょうか

市川
 はい。それに、実は私自身も中学時代に不登校だった時期があるんです。 だからこそ、学校に行けない子どもの気持ちも、それを見守る親の焦りも、両方の立場が奇跡的なほど自分の中でリンクしました。家族であっても言葉にしないと伝わらないこと、自分が「分かっている」と思い込む怖さ……演じながら、私自身の支えにもなった作品です。

犬童監督
 市川さんと最初にお会いした時、本当にお話が早かった。同じ年代の息子さんがいらっしゃるからこそ、演出面でも「普段ならどう言いますか?」と相談させていただくことが多かったです。秋帆というキャラクターは、市川さんと一緒に作り上げた感覚がありますね。

── 劇中の市川さんは、普段の華やかなイメージとは一線を画す「疲れ果てた主婦」のリアリティがありました。あの空気感はどう作られたのですか?

市川
 現場では、本当に悲壮感が漂っていましたよね(笑)。

犬童監督
実は衣装合わせが一番大変だったんです。僕は「無個性で地味な服」を目指していたんですが、市川さんは何を着ても着こなしてしまう(笑)。スタイリストさんが用意した服を何十着と着てもらっても、どこかオシャレに見えてしまうんです。

犬童監督
現場のスタッフ全員で「これじゃない、あれじゃない」と迷宮入りしかけました。結局、その日に用意した衣装は一度すべて白紙にして、後日買い足しに行ったんです。クランクイン直前に上下すべて変えて、ようやく「どこにでもいる、疲れを背負った秋帆」が完成しました。

「3日間の強行軍」で生まれた、家族の温度感

── 撮影はわずか3日間、しかも11月の極寒の中で行われたと伺いました。

市川
本当に寒かったです! 夏の設定だったので、11月の海辺で震えながら撮影して。でも、出演者全員で事前にリハーサルを重ねていたので、短いシーンでもそれぞれの役の深みが出せたんじゃないかなと思います。

── 特にラストシーンの、息子・柊吾を見守る絶妙な距離感と表情が印象的でした。

市川
あのシーンは、現場でも監督とすごく悩みましたよね。「学校に行く準備を始めた」ことがゴールではない。これからも生活は続いていくし、すべてがスッキリ解決したわけでもない。ただ、少しだけ心がほぐれた……そんな、安易なハッピーエンドにしないリアリティを大切にしました。

── 最後に、これから作品を観る方へメッセージをお願いします。

市川
 私は子供の頃、辛い時にエンターテインメントに救われてきました。「来週のドラマが見たいから、あと少し頑張ろう」と。この映画も、今何かに悩んでいる誰かにとって、そんな小さな「ヒント」や「踏ん張るきっかけ」になれば嬉しいです。

犬童監督
最近、離婚調停中で家族と離れ離れになっていた友人が、この映画を観た直後、意地を張るのをやめて奥さんに連絡したそうなんです。映画には、人の行動や未来を変える力があると改めて感じました。
本作はヤマト住建の特設サイトで無料配信されています。不登校や家族関係に悩んでいる方はもちろん、すべてのお母さん、お父さんに届き、心が少しでも柔らかくなることを願っています。

【作品情報】
ショート映画『柊吾のこと』
出演:市川由衣、白鳥晴都、山中崇 他
監督:犬童一利
特設サイトにて無料配信中
[ヤマト住建『柊吾のこと』特設ページ] https://shugonokoto.com/

取材後記
「自分を満たすことは、わがままではない」。犬童監督の言葉と、自身の経験を投影して演じきった市川さんの眼差しは、現代を懸命に生きる家族への温かなエールのように感じられました。わずか30分の作品の中に、私たちの住まいと心が密接に繋がっていることを再確認させてくれる、体温が宿っています。

取材・文・撮影:ごとうまき