大金を巡って激しくぶつかり合う姿を予測不能な展開で描いた『藁にもすがる獣たち』は、日本人作家・曽根圭介の同名小説を韓国のキム・ヨンフン監督が脚本も兼ねて、韓国社会に置き換えてスリリングかつ巧妙な構成、伏線で見ごたえあるクライムサスペンスに仕立てている。韓国では興行収入ランキング初登場第1位を記録している。
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あらすじ
ヴィトンのボストンバッグを巡る獣たちの争奪戦
商売に失敗しアルバイトで生計を立てているジュンマン、失踪した恋人が残した多額の借金を金融業者からの取り立てに追われるテヨン、新たな人生を歩もうとするヨンヒ、借金のために家庭が崩壊、夫からのDVに苦しみ水商売をするミラン。お金に困る四人の男女が繰り広げる群衆劇。
ある日、ジュンマンがアルバイト先でのロッカーの中に忘れ物のヴィトンのボストンバッグを見つける。その中には10億ウォンもの大金が入っていた。一つのバッグを巡り4人の男女とそれにかかわる人々。大金を前にすると人はどのようにして豹変するか。窮地に陥り、藁にもすがりたいともがく人々が欲望に駆られた時ーーーどのようにして獣になるか、そして最後に誰がバッグを手にするのか。
キャスト
メロドラマ、ヒューマンドラマや犯罪映画まで振り幅の大きな様々な役を演じる演技力を持ち、その評価は国内だけにとどまらず、2007年には『シークレット・サンシャイン』でカンヌ国際映画祭最優秀女優賞を獲得した韓国を代表するチョン・ドヨンがヨンヒ役を。
『アシュラ』『私の頭の中の消しゴム』など、2019年に2大映画賞で最優秀男優賞を獲得したチョン・ウソンは恋人の残した借金により窮地に追い込まれた男テヨンを演じている。テヨンのクズっぷりに注目。
見どころ
大金を目の前にし獣と化して豹変する人たちを、「借金」「ヤクザ」「介護」「DV」「保険金殺害」など、社会問題と絡めながら描いていく。
本作は時間軸をいじり、伏線と回収の仕方が巧妙、後半に進むにつれてパズルのピースが一つずつハマっていく感覚は気持ちよく、この爽快感に夢中になるはず。
巧妙な伏線と回収
前半にこれでもかというほどの伏線が貼られ、少しずつ後半で回収され、一つ一つ謎が解き明かされるが、その展開には終始目が離せない。
時間軸を入れ替える手法が巧妙
『本日のニュースをお伝えします…』から入る冒頭シーン、事業に失敗したジュンマンがアルバイト先でのサウナのロッカーでヴィトンのバッグに入った大金を見つける。
大金の入ったバッグを巡る争奪戦が繰り広げられるのだが、その構成は凡庸に留まることなくあえて時間軸をうまくいじって観るもの達を引きつける。さらに冒頭シーンからのラストシーンでの答え合わせ。いやぁ、お見事です!
エンドロールは必見!
本作のエンドロールは見ごたえがあるため、是非最後まで席を立たずに見てほしい。”一筆書き”の演出が粋でお洒落。
やっぱり面白い!韓国ノワール
韓国ノワールとは韓国を舞台とした裏社会を描いた小説や映画のジャンルで、韓国ノワールの名作といえば、南北分断の悲劇をテーマとした『シュリ(1999)』、『復讐者に憐れみを(2002)』『オールド・ボーイ(2003)』『アシュラ2016)』『パラサイト(2019)』などなど、人間の闇、悪事によって身を滅ぼしていく姿を容赦なく描いている。筆者はこのジャンルがホラーと並ぶほど苦手で、パラサイト以外鑑賞していなかった。(そもそも韓国映画はほとんど観ていない)しかし、本作で少し見る目が変わったというか、今まで見ず嫌いだっただけで、韓国映画界の凄さに惹きこまれている。ダークでとことんやってしまう所に韓国の真髄を感じる。嫌いじゃない。
本作から学ぶ格言とメッセージ
「悪銭身につかず」「生きてさえいればなんとかなる」そして「大金を手に入れたいなら誰も信じてはならぬ」
人は大金を前にするといかに豹変するか、人間の儚くダークな部分を映し出している。
後半のシーンのジュンマンの母が放つ言葉が、本作のメッセージ性であり本質的なことなのではないだろうか。
レビュー
韓国映画界の勢いは止まらない!
人によっては展開が予想できるかもしれないけども、物語の中盤から面白くなってくる。それぞれの群衆劇が、ある時一つになり線になる。
おしなべて高評価な本作であるが、すでに書いた通り、個人的にこういったジャンルの作品が苦手で(グサグサ人を刺す、何人も死ぬ、サイコパス達のオンパレード)グロいし、えぐいし、エゲツない。もう勘弁してよ!ってグロいシーンなどは毎回手で目を覆いながらもついつい観てしまうこの癖になる感じ。そして予想通りの展開に小さくガッツポーズ決めちゃったり。
この手のジャンルが好きな方にはたまらないでしょう!韓国映画界の底力と、新人監督(初の長編を手掛ける)に多くの予算を思い切ってかけることのできる韓国映画界にますます目が離せない。