【日本の伝統芸能✕Clubhouse で聞きほれる】『Club house寄席』のあれこれを落語家 桂雀太に訊く

毎日22時から開催のclubhouse寄席
エンタメ

今、世間は空前の”Club houseブーム”。「Club house」はアメリカのサンフランシスコのベンチャー企業が2020年春にリリースし、開始してすぐに人気を博した招待制音声チャットソーシャルネットアプリケーション(現在はiosのみ対応)である。日本でも1月23日よりβ版の運用が開始され、多くの著名人やインフルエンサーたちが参入、ここ二週間で爆発的な人気となり週間のユニークユーザーは200万人以上となっている。本アプリは音声チャットであるが、会話している内容を関係のないユーザーもroomに入りオーディエンスとして聞くことができる。中でも今話題となっているのが毎晩22時から開催されている「club house寄席」という落語家の桂雀太、桂紋四郎、笑福亭笑利、桂九ノ一、MCにFM802DJの樋口大喜を迎えての小噺、渾身のネタを披露していくというroomである。

clubhouse寄席の放送裏側をまとめた動画がこちら↓↓夜中の3時に寝て朝の5時に起床していると言う桂紋四郎さんが動画を編集。彼らの表情からもその本気度が伝わってくる。

 

今回メンバーである桂雀太さんにお話しを伺うことができた。

桂雀太プロフィール

桂雀太

桂雀太・・・1977年 奈良県五條市うまれ。関西大学法学部卒業後、2002年5月、桂雀三郎に入門。同年7月大阪トリイホール「雀三郎みなみ亭」にて初舞台。「子ほめ」を披露。2005年5月より定期的に収録したネットラジオ番組「ネットでじゃくったれ」の無料配信を開始。繁昌亭、動楽亭をはじめとした寄席以外でも、カフェ、ライブハウスなど様々な場所で落語会を開催。毎回満席の盛況をみせる桂雀太ひとり会を2006年から年1回開催。2017年所属事務所から独立し現在フリーランスとして活躍中。

2016年1月第53回なにわ芸術祭新進落語家競演会にて新人奨励賞を受賞。2016年12月NHK新人落語大賞、2017年大阪市咲くやこの花賞、2018年繫昌亭大将 奨励賞、2019年上方落語若手噺家グランプリ優勝、2019年花形演芸会銀賞、2020年文化庁芸術祭新人賞など数々の賞を受賞している。

いま、なんとも言えない高揚感に満たされている。

雀太さんは開口一番にこう話す。

雀太さん
ここ数日間、なんとも言えない高揚感に満たされているんです。今、本当に楽しくて。

ーーclubhouse寄席を始めて6日、今現在の心境は?

雀太さん
6日間clubhouse寄席をさせてもらってますが、私ね、実はめちゃくちゃアナログ人間なんです。このメンバーの中では僕がキャリアが一番上なんですが、いかんせん付いていくのに必死で(笑)僕今まで京都でゆったりと過ごしていたんですけどね、紋四郎さんに誘われるがままclubhouseを始めて、寄席して、この6日間何が何だかわからぬまま毎日があっという間でもの凄いスピードでかけていく感じで、少しパニくっております。(笑)

桂雀太さん 「この写真みたいにパニックになっています」と雀太さん

エエかっこしなくていいSNSを待っていた。

雀太さん
もう、ほんまの事話して素の自分を見せる。さらけていこうと思っているんですよ。むしろ、clubhouseはかっこつけなくて良い自分、素の自分が出せる場所なのかなぁと。今までのSNSってカッコいい自分を見せる場所だと思っていて、例えば写真はいくらでも加工したり過去のものを使えるし、高級車や高級バッグだって人のもの借りれば分からない。”いいね”が沢山欲しいために取り繕うわけですよ。いわば虚像の世界。対してこのアプリは音声のみ、文字とは違いダイレクトにその人の感情が声に乗っかりますよね。本当の自分を出さないとリスナーに届かない、フォロワーもつかない。かっこつけなくていいSNS、こんなSNS待っていたんです!

本アプリはアーカイブにも残らないため、リアルな“いま”が届く。その人の感情や本気度も伝わってしまうためにある種嘘がつけない。つまりclubhouse寄席の噺家達の本気度がダイレクトに伝わる。声の周波数に落語家が乗っかりリスナーたちに届けることができる落語とclubhouse相性抜群最適のツールなのかもしれない。

雀太さん
これまでにもテレワーク落語と称してzoomやYouTube LIVEなどても寄席を実施してましたが、ただあの時のオンライン寄席とclubhouse寄席の興奮度、高揚感は全く違うんですよ。

上方落語がバズるチャンス!?

ーー“高揚感”ほかのSNSなどと違う大きな理由は?

雀太さん
例えばzoom寄席などはある程度落語が好きな人、落語ファンが聴いてくれはるんですが、clubhouse内では落語に触れたことの無い人たち、または少しは興味持ってるけど生の落語を見たことの無い人たちがひょっこり現れるんです。その人たちに落語の良さを知ってもらえる絶好の機会、私たちは落語の魅力を少しでも伝えられたらという思いで必死でスマホ片手に噺をしています。今まで(言い方めっちゃ失礼ですが)一本釣りしていたのが、大きな網でバサーって釣れるような感じ。落語に興味がない人達がclubhouse寄席を聴いて落語に興味を持ってもらえるという事に大きな喜びを感じる。高揚感の理由はここにあるのかもしれない。

clubhouse寄席ルームに聴きにくる人たちのほとんどが生の落語を見たことがない人

笑福亭笑利さんからも少しだけ話を聞くことができたのだが、笑利さんも同じようになんとも言えない高揚感を感じていると話す。

笑福亭笑利さん
clubhouseでの名前の登録の際「笑福亭笑福亭」と間違えて登録し、周りから心配の声が寄せられているというが・・

笑利さん
保守層に好まれる落語、新しいものに敏感なアーリーアダプターにおける人たちに刺す機会がなかった我々にとっては絶好のチャンスなんです。そこに興奮を覚えますね。

その必死さは毎晩のclubhouse寄席で聴く声からもありありと伝わってくる。ダラダラ話すトークルームではなく”一つの番組”として成り立っているのである。

そしてその本気度を筆者も実感したのが“神回”と言われているclubhouse寄席vol.5の回である。2月2日の夜、アプリ内でルームを楽しんでいた多くの人の回線が落ちるという現象が起こった(この日から中国の人々が本アプリを使い出したことが起爆剤となりサーバーに負荷がかかったといった説がある)。

途中から落語をするというリレー落語が誕生

clubhouse寄席でも噺の途中突然噺手がルームから消えてしまうといった現象が度々起こった。しかし「とりあえず、小噺でつなごう」と機転を利かせ、途中で噺手の回線が落ちいなくなっても、残っている噺手がカバーしてバトンを繋ぐという”リレー落語”でリスナーたちを楽しませた。他のトークルームが脱落していく中、clubhouse寄席は粘りに粘り、素晴らしい連携プレーを披露、最後までやり抜いた。落語家達の連携プレーと本気度に多くのリスナーが心を打たれ、Twitterの#clubhouse寄席でもリスナー達からの称賛の声が上がっている。https://togetter.com/li/1662305

雀太さん
あの日、あんなに集中して落語に向き合ったのは久しぶりで。僕アナログ人間だから落ちるという感覚もよくわからなかったんですが、「これは何とかしないと」という緊張感と、台風が近づいてくる時のような妙なテンションに見舞われました。あの時同時にLINEでも「誰が落ちている」「今から僕が小噺でつなぎます」などとみんなで報告しあっていたんです。同時にTwitterでもリスナーさんの反応を見ながらしていました。特に紋四郎さんはスピーディーかつ機転が効きますね。

ーーclubhouse寄席と生の寄席との違い、工夫していることは?

雀太さん
普段行なっている寄席での噺とは間の取り方などが違います。生の寄席は聴覚以外にも視覚や空気感、セリフにならないセリフや”間”を大切にする。一方、聴覚のみのclubhouse内だとその“間”がリスナーのストレスになるのではないかと思って、普段よりは”間”は詰めて、リズミカルにテンポよく話ています。テンポ感は人生で一番意識しているかもしれないかなぁ。

ーーチーム戦であるclubhouse、優れた連携プレーの秘訣とは?

紋四郎さんと笑利さんが本アプリで樋口さんと初めて出会い、急遽clubhouse寄席が実現した。まだ6日目というが、そのチームの結束力には圧倒される。

雀太さん
1月30日に桂紋四郎さんに誘ってもらって、1回目は寄席から同時に繋げ、2回目からは毎晩22時からになった。実は桂九ノ一さんとは今回のclubhouseで、話すのは初めてじゃないかというくらい。ただこの六日間で関係性はめちゃくちゃ密になりましたね。

また、場を仕切ってくれているFM802 DJの樋口大喜さんの存在はめちゃくちゃ大きいです。彼がいないと成り立っていないと思いますね。

落語好きで自分でも落語をされるという樋口さん、MC能力、傾聴力がある人が活躍しやすいと言われている本アプリではまさに彼のようなスキルを持つ人たちの活躍が際立っている。

ーーclubhouse寄席、いつまで続きそうですか?

雀太さん
まだ分からないですね~。一ヶ月後、皆さんの熱量などもどうなっているかわからないし、まずは様子を見ながら流れにまかせる感じでしょうか。なんせ今はみんな寝不足で、紋四郎さんなんて毎朝YouTubeを配信しているし。身体持つかなぁ〜。(笑)

clubhouse寄席のゴールは生の寄席に来てもらうこと

最終的には寄席を生で体感してもらいたい、答え合わせをしてほしいんです。

雀太さん
clubhouseでの噺でリスナーさんそれぞれが主人公やその状況や表情などを想像して聴いてくれてはると思うんですよ。落語に興味を持っていただいたら、次は是非、生の落語を体感していただけたら、こんなに嬉しいことはないです。噺家がこんな表情、こんな仕草をしているんだなと、答え合わせをしてもらえたら嬉しいですね。

筆者もclubhouse寄席を連日22時から、最後の”clubhouse締め”まで聴いている。多くのリスナーたちが感銘を受けたという第5回の神回では、周波数に乗せた感情、熱意といったものがダイレクトに聴き手に届くということを実感した。落語以外のフリートークも、誰かがボケてすかさず誰かが突っ込む。まるで関西の男子校をのぞいているような感じで癖になるものがある。最後のリスナーからの質問コーナーでも他のルームとは別格の「笑いのエッセンス」も盛り込みながら、質問に対しても真剣に答えている満足感の高いルームだ。1日の終わりにクスッと笑える幸せなひとときを是非多くの人にも感じてもらえたら・・・。

お知らせ

◎生の落語を体感するにはこちら天満天神繁昌亭|上方落語専門の定席 (hanjotei.jp)
桂雀太:clubhouse・・@jakutta、桂雀太さん (@jakutta) / Twitter
笑福亭笑利:clubhouse・・@shofukuteishori、笑福亭笑利さん (@yntsgr) / Twitter
桂九ノ一:clubhouse・・@katsura9_1 、 桂 九ノ一さん (@katsura9_1) / Twitter
樋口大喜:clubhouse・・@itsdaikyhiguchi、 樋 口 大 喜 (び!!)さん (@ItsDaikyHiguchi) / Twitter
取材・文/ごとうまき