【グランピングの仕掛け人】ABC Glamp &Outdoors 代表取締役 吉村司 氏に聞くグランピング産業とその先にあるもの

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Withコロナでの宿泊、アウトドアの楽しみ方として、三密を避けられ、手ぶらでかつ自然の中で快適に過ごすことができるグランピング。今年はその需要が加速し、宿泊業においてグランピングの一人勝ちと言われている。

老若男女問わず、多くの人に受け入れられやすいグランピングは「グラマラス」と「キャンピング」を掛け合わせた造語であることは説明するまでもない。その歴史を遡ること、19世紀 イギリスが発端であると言われている。イギリスの貴族が植民地としていたアフリカなどに渡航していた際、テントの中でも王宮のような豪華で快適な生活をするというスタイルが脈々と今のヨーロッパに引き継がれていた。そしてこの文化が広大な土地を持つアメリカに渡ると、キャンピングカー、トレーラーハウスといった形で広く普及、日本ではヨーロッパでのグランピング文化が、SNSなどの影響も追い風となり、5年ほど前から人気が出てきた。今のようなグランピングブームが訪れる11年前、淡路島にグランピング・キャンプ場「FBI AWAJI」を開業し、日本初のグランピング専門雑誌「Glamp」(講談社)を創刊、所謂”グランピングブーム”を作ったきっかけの一人とも言える人物、ABC Glamp&Outdoors代表取締役 吉村司 氏にお話しを聞くことができた。

グランピング・キャンプ場「FBI AWAJI」を作ったきっかけ

「海の見える場所で何か楽しいコトができたら」

吉村さん
きっかけは、軽い気持ちだったんですよ。11年前、当時働いていたマガジンハウスを退社して、編集プロダクションなども立ち上げた時期だったんです。

ちょうど11年前って世間も、自分自身も”田舎でのんびりと悠々自適に過ごしたい”というような風潮だったんですよ。 その雰囲気に乗っかって、海の見える土地で、仲間を呼んで身内でワイワイ楽しく、秘密基地みたいなのがいいよね。と世界中を旅しているデザイナーの友人と一緒に選んだのが淡路島だったんですよ。

マキ
吉村さんはFBI AWAJIを開業される前からアウトドアがお好きだったんですか?

吉村さん
僕はどちらかと言うとインドア派で、アウトドアにはあまり興味がなかった。一緒に開業したデザイナーの友人は世界中を旅するバックパッカーで、実際に淡路島の土地を見に行った際にも『昔、この場所でキャンプをしたことがある』という話になった。ちょうどいい土地が見つかったと、退職金をはたいてデザイナーの友人とお金を出し合って土地を購入、週末に自分たちで改装し、また友人が顔が広いこともあって色んな人が集まって今のFBI AWAJIの礎を造っていった。それこそグランピングとは無縁の小さなキャンプ場から始まったんです。

マキ
吉村さんがアウトドアに対してあまり興味がなかったからこそ、グランピングという形にできたのかもしれませんね。

吉村さん
それはあるかもしれませんね。友人はキャンプ場のまま、『キャンパーが来てくれたらいい』という感じだったんですが、 僕はもう少し綺麗にしようよと。 この状況じゃ、女の子達が来てくれないんじゃないのか。もう少し清潔感が必要だし、せめて常設のテントがあればなという話をして・・・。そうなると彼達はデザイナーだから一旦やりだすととことん突き詰めるタイプ。だからテントは北欧のブランドだったり、あるブランドの家具がいいなどとインテリアや空間にもこだわった。そして少しずつグランピングの原型ができたんです。

お洒落なインテリアFBI AWAJI instagramより

マキ
私はインドア派だけど、時々自然に触れたくなる。だけど面倒くさがり屋なのでキャンプのように自分でテントを設営して、食事も自分達で・・というのは苦手。だからグランピングのように快適に自然を楽しめる施設って私にはピッタリで。そういう女性って多いと思うんです。がっつりアウトドアまではしたくはないけど、程よく自然を楽しみたいという層にも受ける。まさに老若男女問わず楽しめますよね。

吉村さん
FBI AWAJIを開業した当初は仲間内だけでしたが、後にキャンパーだけではなく、キャンプに無縁の女性達も来てくれるようになったんです。

母屋の隣に物置小屋を改装してキャビンを作って貸せるようになったらこれも事業になるよね。とか、最初は自分たちの理想のキャンプ場を作るためにそういう施設があればそこで収入を得て、キャンプ場作りに回せるよねという考え方だったんです。

そうこうしているうちに世間ではグランピングがブームになった。世の中が今のようになるなんて夢にも思わなかったです。

キャビン  FBI AWAJI instagramより

グランピングの定義って?

マキ
グランピングブームは加速する一方で、なんでもかんでもグランピングと言っている施設、人も少なからずいる気がするんです。この秋に初めてグランピングをしに行ったんですが、ロケーションが最悪でした。これがグランピング?って、拍子抜け。ドームテントに泊まる体験ができたのは良かったのですが、正直また同じ所に行く気にはとても・・・。何がグランピングなのかわからなくなってきました(笑)

吉村さん
キャンパー達が快適に過ごすのではなく、キャンプが未経験の人でも、手ぶらで自然の中で快適に過ごせることがグランピングと言われていますよね。単純にテントが設営されていてそこに泊まるのがグランピングではない。 オシャレで清潔感があり、ホスピタリティやアクティビティが充実していることも重要視されている。 そして水回りも綺麗で快適で清潔ということも大切。 リゾートホテルに望むような最低限の環境が整っていることが大切だと。

全てのライフスタイルに連動

さらにグランピングは全てのライフスタイルに連動していると吉村氏は言う。

吉村さん
例えば車、洋服、お酒、食事、ブライダル事業、住宅、など市場が大きくなり増えていく。あと、グランピングはどんどんモノを持ち込むというスタイルが多くて、女性同士だとアウトドアグッズは持っていないけれど、クッションや照明などを持ち込んで自分達の世界観を創り楽しんで、それをSNSなどでアップしている。

対してキャンプは突き詰めれば、どんどんマニアックになり、”極力道具を持たず最低限の装備で”と いうスタイル。もちろんそれはそれで素晴らしい世界だけどね。

そういった意味でグランピングって新しいライフスタイルでまだ市場が確率されていない世界なので可能性が未知数なんですよね。

「アウトドア」ではなく「ミドルドア」

アウトドアとグランピングは別モノ

マキ
数年前から第三次アウトドアブームなどと言われていますが、グランピングの影響も大きいのでしょうか?

吉村さん
アウトドアとグランピングはまた違うものと分けて考えたほうがいいかな。というのも、アウトドアブームは現在の団塊の世代が作ってきたブームで、グランピングはそのカテゴリーにはなく、あくまでもグランピングは手ぶらで自然を楽しむ。 アウトドアのブームとはまた違うんですよ。

グランピングをきっかけに自然を好きになりキャンプにハマる人が出る可能性も大いにあるし、逆のパターンもあって、キャンパー達が今まではテントに泊まっていたけど、テントよりトレーラーハウス、トレーラーハウスよりキャビンがいいよねってなるパターンもある。

グランピングはグループでも楽しめる

そしてグランピングの魅力の一つとして、大人数のグループでも楽しめるところである。日本ではグループレジャーを楽しめる施設が少なく、多くのリゾート施設がカップルベースとなっているのが現状である。

吉村さん
FBI AWAJI、FBI DAISEN(鳥取)では大人数のグループでもよく利用をされますね。室内の空間は寝るだけで、外にデッキがあって大人数で楽しむ。 そこに女性がいたり、ファミリーだったり と多様な楽しみ方ができます。日本ではグループレジャーを楽しめるところが多くはないので、そういった意味でグランピングはもってこいだと。事業者側としても収益が上がるしね。

吉村氏が注目する新しいグランピングスタイルとは?

テントとキャビンの中間型の「トレーラーハウスに大注目」

マキ
グランピング産業は今後さらに伸びていく中で 吉村さんが注目しているものは?

吉村さん
トレーラーハウスには注目していますね。 台風が多く、雨も多く降る日本ではテントはすぐに使えなくなる。キャンピングカーだと高価で大型になるし、キャビンになると施設を作れない土地用途が多く簡単に設置できない。となるとトレーラーハウスになるかと。トレーラーハウスは置くだけだし、ほどよくコンパクトなので非常に利用しやすい。日本には美しい自然がまだまだ多く眠っていて、トレーラーハウスではないと自然の環境を楽しめないというロケーションもあって、今後は ロケーションに合わせて使用するという選択肢がどんどん増えていくのではないかなと思っています。

トレーラーハウス

トレーラーハウス FBI AWAJI instagramより ※2020年12月現在、FBI AWAJIではトレーラーハウスは使用していない

トレイラーハウス FBI AWAJI instagramより ※2020年12月現在、FBI AWAJIではトレーラーハウスは使用していない

トレイラーハウスの中もいちいちお洒落で可愛い。これは借りるより所有したくなるかも FBI AWAJI instagramより ※2020年12月現在、FBI AWAJIではトレーラーハウスは使用していない

快適で耐久性のあるドームテントといったものも人気

ドームテントは耐久性にすぐれており、台風などにも強い。 写真=せとうちグランピングのドームテント

キャビンのニーズも高い

 

吉村氏の仕事の流儀

吉村さん

行き当たりばったり(笑) それと「面白そう」 ということが大切かな。

まずはやってみようよと。僕はグランピング市場を見据えて計画を立てて、この仕事を始めたわけではないんです。 単純に「海を目の前に自然の中で仕事ができたらいいよね 」ということから始まり、自分の経験値を活用してアンテナを張っていった結果だと思っています。僕は雑誌を仕事にしていたので、毎回特集を考える方が好きなんですよ。ポン、ポン、ポンと完結させて色んなことをやっていくということが身についているので、それが仕事に繋がればいいなと。

事業計画を立てて、入念な準備をして取り組むというのはあまり得意ではないんだけれど、代わりにそれをしてくれる仲間たちには恵まれている。やはり仲間、パートナーは大切かな。 真逆のポテンシャル、能力を持つ友人や仲間がいたから うまく行ってるのだと思いますね。ただこれがあまり多すぎると、まとまらないけどね(笑)

今後の目標は?

吉村さん
今後はさっきも言ったけれど、トレーラーハウスを広めていきたいし、あとは2025年の大阪万博でグランピングをすること、これは一つのミッションですね。僕はやっぱり雑誌屋なんですよ、なんでもやろうとしちゃう。まだまだ色んなこと仕掛けていきたいです。

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取材・文/ごとうまき