【すべてのリスナーの伴走者として】馬場俊英が最新ベスト盤に込めた「風の中のメッセージ」

J-pop

30周年という大きな節目を目前に控えた馬場俊英さん。その温かな人柄と、聴く人の心にそっと寄り添う楽曲たちは、どのようにして生み出されてきたのか。最新ベストアルバム2作のリリース、そして思い出の地・大阪での記念公演を控えた馬場さんに、これまでの歩みと、その心を支えた大切な言葉についてたっぷりと語っていただきました。

「人生の半分を音楽の中で過ごせた幸せ」——デビュー30周年を迎えて

——まずはデビュー30周年、本当におめでとうございます!2026年2月21日が記念すべきデビュー記念日ですね。改めてこの「30」という数字、馬場さんご自身はどう捉えていらっしゃいますか?

馬場
ありがとうございます。デビューした頃は、まさかこんなに長く続けられるなんて思ってもみませんでした。気づけば人生の半分をこの活動の中で過ごしてきたことになります。それは本当に幸せなことですし、幸運だったなと心から思いますね。

——その節目を記念して、2026年1月28日にベストアルバムが2作品同時リリースされました。まず、全活動を網羅した決定盤『ALL TIME BEST 1996-2025 風の中のアイラブユー』について伺います。膨大な楽曲の中から28曲を厳選するのは大変な作業だったのではないでしょうか。

馬場
選曲の軸としたのは、単に「シングル曲だから」という理由だけではないんです。もちろんチームで決めた代表曲も入っていますが、今回は「コンサートで歌い継がれてきた曲」を中心に選びました。僕自身がステージで頼りにしてきた曲、そしてお客さんが求めてくれた曲。誰が、というより「その場に必要とされた曲」たちです。ライブのセットリストを決めるような感覚で選んでいきました。

——タイトルにある「風の中のアイラブユー」という言葉、とても素敵ですね。

馬場
「風の中のアイラブユー」という楽曲自体も作っているのですが、フレーズとして以前からすごく好きな言葉なんです。時代の風に吹かれながら、その時々の想いを曲に託してきた。晴れの日も、曇りも、雨の日も繋いできたメッセージ……そんな思いを込めてこのタイトルに決めました。

豪華アーティストとの共演で破った「馬場俊英」の殻

——今作には多くの豪華アーティストとのコラボレーション楽曲も収録されています。コラボを通じて得たものは大きかったですか?

馬場
皆さん、その道の第一人者であり、唯一無二の「決め技」を持っている先輩方ばかりです。自分一人だと、どうしても「馬場俊英はこうあるべき」というイメージに自ら縛られてしまいがちなんですよね。学校で急にキャラを変えるのが難しいように(笑)。でも、誰かと一緒にやることで、その環境に合わせて自分を壊し、殻を破ることができる。それが本当に楽しかった。

——KANさんとの制作はいかがでしたか?

馬場
KANさんは歌詞の個性がとても強いので、「どちらが書いたかわからないようにしよう」と共作しました。あえてKANさんになりきって、普段の自分なら書かないようなフレーズを書いてみたり。制作面での新しい挑戦ができました。

——他にも、佐藤竹善さんや池田綾子さん、森大輔さんなど多才な方々が参加されています。

馬場
 佐藤竹善さんはボーカリストとして本当に尊敬する方で、一緒に歌うと自分の意識まで引き上げられる感覚があります。池田さんと森さんとの「ステップ・バイ・ステップ」も、男女のハーモニーが自分の楽曲に新しい世界を運んでくれました。こうして刺激を受けることで、次からの自分の中の基準がまた一つ上がっていくんです。

「どこにでもいる誰か」を主人公にする理由

——馬場さんの楽曲には「君はレースの途中のランナー」や「ボーイズ・オン・ザ・ラン」など、ひたむきに頑張る「普通の人」が主人公として描かれることが多い気がします。そこにはこだわりがあるのでしょうか。

馬場
 僕は本当に「普通」なんだと思います(笑)。デビュー当時から「見た目が普通の人ですね」とよく言われていたし、歌もオーソドックス。だからこそ、暮らしの中にある何気ないワンシーンの感動や情熱を歌いたいと思うんです。

——「君はレースの途中のランナー」は、今でもライブで大切に歌われている曲ですね。

馬場
これは30代後半に、がむしゃらだった自分を投影して書いた曲です。今でも歌うと、当時の自分が降りてくる感覚があります。自分の中に「自信がない自分」や「勇気がある自分」など何人かのキャラクターが同居しているとしたら、この曲の主人公は僕そのものなんです。

——馬場さんといえば中学生までは野球部に所属する野球少年でしたが、楽曲の中にも野球をテーマにしたものがいくつかあり、印象的です。

馬場
 野球は僕の人生において大きなテーマです。グラウンドには友情も、成功も失敗も全部ありました。野球って、選手もお客さんも一個のボールの行方を全員で追いかけますよね。音楽も、ステージの僕らとスタッフ、そしてお客さんが一つの「見えないボール」を追いかけている。その一体感がすごく似ていると感じるんです。

それと、僕は三塁手でしたが、「ボールよ来るな」と思っていたら失敗していた。「来い!」と思うようになったらプレイも上手くいくようになって変わったんです。音楽も同じで、「失敗するかも」ではなく「いくぞ!」という気持ち一つで結果が全く変わる。心の声がそのまま音に出るんですよね。

原点を見つめ直すインディーズ時代の「原石」

——もう一作のベスト『UP ON THE ROOF EARLY DAYS RECORDINGS 2001-2004』は、ご自身のレーベルからのリリースですね。こちらは「聴き手を意識せずに作った」とコメントされています。

馬場
一度目のデビューの後、挫折感を抱えていた時期の曲たちです。それまで人の意見を聞きすぎてやりたいことができなかった反省もあって、「ヒットさせなきゃ」というプレッシャーから離れて、自分が本当にいいと思えるものを作ろうと、好き勝手にやったんです。

——それが結果的に、今の馬場さんの土台になったのですね。

馬場
 そうなんです。不思議なもので、好き勝手にやった方が評判が良くなって。「鴨川」などは、作家の重松清さんが気に入ってミュージックビデオのプロットまで書いてくださった思い出深い曲です。

——ボーナストラックには1995年の未発表デモ音源「28」が収録されています。

馬場
 恥ずかしさもありますが、形にしないと「なかったこと」になってしまう。当時の自分のらしさが詰まった原点として、この機会に皆さんに聴いていただきたいと思いました。

音楽人生を支えた、桑田佳祐さんからの言葉

——長いキャリアの中では、苦しい時期もあったかと思います。そんな時、馬場さんを支えた「言葉」や「音楽」はありましたか?

馬場
僕は小学生の頃からサザンオールスターズが大好きで、ファンクラブにも入っているんです。そんな憧れの桑田佳祐さんが、2012年にラジオ番組の「桑田佳祐が選ぶ邦楽ベスト20」で、僕の「平凡」を1位に選んでくださったことがあって。

——それは、ファンとしても音楽人としてもこれ以上ない喜びですね。

馬場
 本当に嬉しかったです。桑田さんが「平凡」という曲を聞いて、才能を感じるね」と言ってくださった。その言葉の録音は今でも大切にとってあります。それまでは、どこか自分に自信がなくて「最後はダメだろうな」なんて思っていた部分もあったんですけど、桑田さんがそう言ってくれるなら嘘じゃないだろう、と。その言葉一つで、これまでの苦労が全部一掃されたような気がしました。

聖地・大阪フェスティバルホール、そして未来へ

——馬場さんにとって、大阪はやはり特別な場所だと伺っています。初のホールライブも大阪でしたし、今回2月23日のフェスティバルホール公演も完売。大阪のファンとの関係性も深いですよね。

馬場
大阪の皆さんはいつもストレートで、アンケートに「馬場さん、だんだん良くなってきましたね」と書いてくださった方がいて(笑)。良くなかったら二度と来ないはずなのに、ずっと通って「あ、良くなってきた」と認めてくれる。その愛のある厳しさに、いつも勇気をもらっています。

——3月にはなんばパークスでのフリーライブ、8月には大阪市中央公会堂でのアコースティックツアーも控えています。

馬場
フリーライブは、ご家族やお友達を誘って気軽に足を運んでほしいですね。中央公会堂も趣のある大好きな会場です。新曲の初披露もできたらいいなと考えています。

——最後に、30周年を超えたその先の展望を教えてください。

馬場
ライブが少なすぎると怒られることもあるので(笑)、もっと歌う回数を増やしていきたい。音楽は、何十年やっていても新しい発見がある世界です。60代、70代になっても「こんな押さえ方があるんだ!」という発見を楽しみながら、一歩ずつ上手くなっていけたら。そんな風に、自由なペースで音楽の旅を続けていきたいと思っています

編集後記

インタビュー中、馬場さんは時折照れくさそうに笑いながら、一つ一つの質問に対して真剣に言葉を探してくださいました。その姿は、私たちが楽曲を通して感じてきた“誠実で、少し不器用で、でも温かい”馬場俊英そのものでした。

常にファンというチームメイトを信じ、一個の「音楽」というボールを追い続けてきた馬場さんの節目となる30周年。ベストアルバムに刻まれた数々の名曲たちが、また新しい風に乗って誰かの「スタートライン」になる。そんな瞬間を、これからも一人のファンとして追いかけていきたい。そう強く感じたインタビューでした。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき