ラストに思わず涙する。予備知識なしでも楽しめる作品
『シカゴ7裁判』は、1968年シカゴで開かれた民主党全国大会での暴動によって裁判にかけられた7人(実際には8人)の被告たちと、あらゆる手を使って彼らを有罪にしようとする薄汚い権力側との争い言わば“政治裁判”を描いている本作は、わかりやすいストーリーだけどケレン味あり、スピード感あふれ最後にはしっかり泣かせてくれる痛快法廷劇。現在もNetflixで好評配信中。
思えば2020年は秀逸な法廷劇の作品が揃っていた。『黒い司法』『コリーニ事件』そして『シカゴ7裁判』本作は第93回アカデミー賞で作品、脚本、助演男優など6部門にノミネートされ、第78回ゴールデングローブ賞でも脚本賞を受賞し話題となった。Netflixオリジナル映画として2020年10月16日から配信され、劇場では10月9日から公開された。私は公開してすぐに劇場で鑑賞し二度目はNetflixで、二度の鑑賞によって見えたこと、改めて『シカゴ7裁判』の魅力を解説したい。
事実とは異なるストーリー、改変されていることをお忘れなく
弁論が延々と続く法廷劇はどこか堅苦しさがあり好みが分かれるであろう、しかし本作はセンスの良い音楽、構成、登場人物たちのテンポ良いディスカッションやセリフに散りばめられたユーモアに加えて、実話を題材にしたドラマティックな脚本によって鹿爪らしい法廷劇から一皮剥けた“エンタメ×社会派映画”として仕上がっている。
脚本を手がけたアーロン・ソーキン監督は「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ・ジョブズ」を過去に手がけているが、彼の脚本の特徴として実在した人物や、実際にあった出来事を基にしながらも、ほぼオリジナルとして断片的な事実を所々に織り交ぜながら、現代社会に沿った大衆受けするようなストーリーとなっている。そのため本作は訴訟の経緯やラストなどをいじっていたりと、歴史を改変しているとも捉えられる。
民主主義のあり方とは?言論の自由とは、正義とはなにか?などといったアーロン監督が改変して伝えたかったメッセージ性を読み解いていくと楽しい。
アーロン・ソーキン監督の脚本の凄いところは、登場人物たちの予備知識なしでも物語が進むにつれて自然と彼らのキャラクターや生い立ちが垣間見れるところである。それをごく自然に会話や討論、カメラワークなどに忍ばせ、表現しているところはさすが。
民主主義のために戦った英雄達ともう一人の英雄(犠牲者)
タイトル通りシカゴ7裁判はデモに参加した7人の英雄達が裁判にかけられた。だが、実際の裁判にはデモに参加していない黒人のボビー・シールが8人目として法廷に並んでいる。
ボビーは陪審員への悪印象を狙っての同時起訴、さらには弁護人もつけずに裁判は進んでいく(途中の検察側のボビーに対する痛ましい暴力行為には憤りを感じる)。こういったことから、いまだ消えることのないアメリカの根深い人種差別が浮かび上がる。
それにしても豪華な顔ぶれのキャスト陣、エディ・レッドメインは相変わらずイイ男だし(大好き♡)、ジョゼフゴードン=レヴィット 、マイケル・キートン、ケルビン・ハリソン・Jr.、サシャ・バロン・コーエンをはじめとする映画好きなら必ず見たであろう顔が勢揃い。
冒頭に述べたように、予備知識なしでも十分に楽しめる作品となっているが、時間があれば鑑賞前に事前に事件のこと、さらには1968年のアメリカの雰囲気などをあらかじめ知っておくとより一層楽しめるはずである。
シカゴ7裁判
文/ごとうまき