【アカデミー賞有力】シンプルな家族愛の物語に誰もが恋する感動作『コーダ あいのうた』

(C)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
映画
フランス映画『エール!』のハリウッド・リメイクで、家族の中で唯一健聴者という高校生の少女ルビーが夢に向かって一歩踏み出す、笑って泣いての名作が1月21日から全国の劇場で公開中。
まだ2022年が始まったばかりだがすでに今年のベスト作品、いや、個人的にはこれまで見てきた数多くの作品の中でも「一生もののベスト10」には入るほどの名作かなと。さすが、世界配給権の争奪戦で26億円で落札されただけあり。というのも、本作は新しい才能を発見することを使命とする「サンダンス映画祭」にてグランプリ・観客賞・監督賞・アンサンブルキャスト賞の史上最多4冠を受賞、アカデミー賞有力との呼び名も高い。
「どうせお涙頂戴的なストーリーでしょ」と斜めに構える人も、滅多なことでは泣かないそこのあなたも、主人公とその家族たちの愛に自然と涙するに違いない。美しい歌声にのせて届けられる音楽とストーリーが幾重にも重なり深い感動が胸に刻まれる。

あらすじ

歌うことが生きがいの17歳のルビーは家族で唯一の健聴者。朝3時に起きて一家が生業とする漁業を手伝いながら家族の通訳係を担っている。一方で高校では憧れのマイルズがいる合唱クラブに所属。ルビーの歌声を聞いた顧問のV先生は彼女の才能を見抜き、夜間と週末のレッスンを約束し音大受験を推薦する。学業や家族の通訳、漁業を掛け持ちしながら歌のレッスンに励むルビーは、あまりの忙しさから歌のレッスンに遅刻するようになる。家族に理解してもらうために音楽大学への進学の夢を打ち明けるが、両親や兄にとって“音楽”や“歌”は未知のもの、家族から理解を得ることが難しかった。またこれまで通訳をし助けてきたルビーの不在によって残された家族への不安も募る。家族とともに暮らし、これまで通りに“家族を支えていくか”、“自分の夢を追うか”でルビーは選択を迫られる。そんな中、秋のコンサートが開催、舞台上のルビーを見守る両親は観客たちの様子を見てルビーの才能にようやく気付く。届くはずのない歌声がどのようにして両親に届くのだろうか。ルビーの一歩踏み出す勇気が、家族のこれまでと、これからを‟力”へと変えていく。

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手話をマスターしたジョーンズと実際に聴覚障がいを持つ俳優たちが競演

テレビシリーズ「ロック&キー」などで注目の集まるエミリア・ジョーンズがルビー役を演じ、本作を演じる中で初めて歌のレッスンを受けて魅力的な歌声を披露している。エミリア・ジョーンズの手話講師指導のもとASL(アメリカ式手話)と ろう文化を猛勉強し、さらにはトロール船での漁業も学びマスターするという凄まじい役者魂に感嘆する。

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また耳が聞こえないルビーの母ジャッキー役には「愛は静けさの中に」のオスカー女優マーリー・マトリン、父のフランク役にトロイ・コッツァー、兄役にダニエル・デュラントと実際に聴覚に障がいのある俳優たちが演じている。
シアン・ヘダー監督は聴覚障がいを持つ俳優たちと通訳を介さずに、自ら手話を習得し彼らとやりとりしていたという。また手話マスター(=演劇の経験が豊富でろう文化や歴史を理解する者)のアレクサンドリア・ウェイルズが監修として参加することで、ろう文化やASL(アメリカ式手話)を正確に描いている。

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音楽×手話 語り口と深く絡み合う選曲

本作の魅力の一つが魅力的な音楽の数々だ。手話と音楽に共通することは‟言語化できない身体から湧き上がる感情”をそれぞれ表現すること。『ムーラン・ルージュ』『ラ・ラ・ランド』の音楽を手がけたマリウス・デ・ヴリーズがスコアを手がけているが、本作の語り口と深く絡み合う選曲も心に響く。特に、ジョニ・ミッチェルの名曲『青春の光と影』(Both Sides, Now)の歌と手話との融合には心が大きく揺さぶられるだろう。

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タイトル「コーダ」の意味

 「コーダ」とは“ろう者の親を持つ健聴者”という意味を持つ、主人公ルビーはコーダであり、音楽の記号の「コーダ」(=楽曲の終わりを示す)を意味している。次の章の始まりを表し、家族を支えてきたルビーや家族の新たな旅立ちとしての意味を表し、音楽にも深く関係する本作と巧く掛けている。本作の公式パンフレットも楽譜を見立ててデザインされておりパンフレットも是非手に取ってみてほしい。

ヤングケアラーについての問題提起

 プロットや音楽を純粋に楽しめる一方で‟ヤングケアラー”という社会問題も本作でやんわりと提起されている。現在アメリカでは140万人の未成年者がヤングケアラーに該当、日本でも中学生の約5.7%、高校生の約4.1%が存在している。ヤングケアラーの問題点として「学業や進学に影響」「宿題や勉強の時間がとれない」「友達と遊ぶ時間がない」などが発生し部活や進学をやむなく諦めるケースもあり、本作でもこうした問題が描かれている。もちろん、本作はヤングケアラーの問題を直には描いていないが、ルビーのような少年少女が先進国でも問題になっている(日本でも2020年5月にヤングケアラー相談窓口が設けられた)。依存は愛ではない。愛する子の幸せを願い送り出す勇気、自分の為に自分の人生を歩む勇気も必要であると教えてくれている。

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レビュー(ネタバレあり)

文句なしの脚本、選曲、演出美しい歌声と物語に何度も涙が頬をつたう。
本作は暗くて泣ける作品と思っていたが、コミカルな要素も強くとにかく笑える、そして泣ける。まず、脚本がずば抜けて素晴らしい。そしてルビーを導き優しく見守るメキシコ出身のV先生の存在が抜群だ。

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健聴者でありながら耳に障がいのある家族と板挟みになっているルビーの心境や葛藤を美しく伸びやかな歌声とともに描き出される本作、特に筆者が目に焼き付いているシーンが、学校でのコンサートだ。両親たちからの視点で描いた無音になるシーンがあるのだが、父が周りを見渡し観客の表情を確認、時には涙を流し娘の歌声に感動している人たちを見て、間接的に娘の才能に気づく父親の表情には釘付けになる。
また夜空の下でルビーが耳の聞こえない父に歌うシーン、ルビーの喉に手をやり娘の歌声を肌で感じる姿から自然と涙が止めどなく溢れ、ラストのオーディションシーンは言うまでもない、何度涙を拭ったことか。
コミカル要素も(下ネタも)たっぷりな爽快な感涙もの。少しでも気になる人は是非見てほしい。明日への希望となる名作だ。

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コーダ あいのうた

監督・脚本:シアン・ヘダー
オリジナル脚本:ビクトリア・ベドス スタニスラス・カレ・ド・マルベルグ エリック・ラルティゴ トーマス・ビデガン
製作:フィリップ・ルスレ ファブリス・ジャンフェルミ パトリック・ワックスバーガー ジェローム・セドゥー
キャスト:エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、
原題:CODA
製作:2021年製作/112分/PG12/アメリカ・フランス・カナダ合作
配給:ギャガ

文/ごとうまき