「パレスチナ問題」音楽で争いは止められるか?予想を遥かに超える衝撃作!「クレッシェンド 音楽の架け橋」

(C)CCC Filmkunst GmbH
映画
長く分断と紛争が続いているイスラエルとパレスチナ。両民族がオーケストラを結成し、コンサートに向けて歩み寄り、対立を乗り越えていく姿を実在する楽団をモデルに描いたヒューマンドラマが1月28日から全国の劇場で公開中。本作を鑑賞する前に余裕があるなら今一度「パレスチナ問題」について再度目を通しておきたいところ。

深刻な分断、3つの民族が音楽を通して歩み寄る
 
音楽に壁はない。とりわけ古典音楽と言われるクラシックは国境も言語も、文化も風習だって軽く飛び越え我々人類は感動を分かちあえるはずだと思うだろう。本作にだって「音楽の力で対立する民族が分かち合い、乗り越える」って話だろうと想像するだろうが、残念なことに一筋縄ではいかない。我々の想像を遥かに超えた結末が待っているーー。

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あらすじ

世界的に高名な指揮者のエドゥアルト・スポルクは紛争中のイスラエルとパレスチナから若者たちを集めてオーケストラを編成し、平和を祈ってコンサートを開くというプロジェクトに参加する。オーケストラには、家族の反対や厳しい軍の検問を乗り越えオーディションを勝ち抜き、音楽家になるチャンスをつかんだ20数人の若者たちが集まった。しかし彼らもまた、分断し激しくぶつかり合ってしまう。そこでスポルクは、コンサートまでの21日間、彼らを合宿に連れ出した。寝食を共にし、互いの音に耳を傾け、経験と思いを語り合うことで、彼らの心も少しずつ心をひとつにしていくオーケストラの若者たち。しかし、コンサート前日にある事件が起こる。

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解説・レビュー

 本作の脚本と監督を務めたイスラエル出身のドロール・ザハヴィは1990年代からドイツに移住、彼が着想を得たのが、現代クラシック音楽界を代表する指揮者ダニエル・バレンボイムと、彼の友人の米文学者エドワード・サイードが1999年に設立した和平オーケストラ「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」というユダヤ人とアラブ人で結成された楽団からという。ストーリー展開される中での多くがフィクションであるものの、実在する楽団についても取材をしたため実話に基づくエピソードも点在する。楽団を設立したバレンボイムは、アルゼンチンのユダヤ移民の子で、家族と一緒にイスラエルに移住している。しかし、イスラエル政府のパレスチナ占領政策に批判、ユダヤ人とアラブの民との和解を目指す活動の一環とし楽団を設立した。

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劇中で演奏される音楽にも意味がある
 
楽団員たちが演奏する幾つかの音楽、カノン、ドヴォルザークの交響曲第九「新世界」より第二楽章、ヴィバルディ「四季」より「冬」、ラヴェルの「ボレロ」これらには物語の展開とともに全て意味が込められている。そのため、ある程度の音楽経験や音楽知識のある人が見るとより楽しめるはず。またタイトルの「クレッシェンド」とは、音楽記号で″だんだん強く”という意味を持つ。はじめは争っていた楽団員たちがだんだん理解し絆を強めていくーー。という意味が込められている。本作のラストに演奏される「ボレロ」も曲全体がだんだんと強く、大きくなっていく。

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本作同様に、イスラエルやパレスチナの若者のなかには、融和を互いに求める動きも少しずつ出てきだし、誰しもが争っているわけではない。欧州で長く続いたユダヤ人の迫害、ナチスのユダヤ人の虐殺、イスラエル建国、パレスチナ人への迫害、パレスチナとイスラエルの紛争…
本作にはこれらに対する贖罪が込められているからこそ、終始シリアスな雰囲気なのかもしれない。

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クレッシェンド 音楽の架け橋

監督:ドロール・ザハビ
脚本:ヨハネス・ロッター ドロール・ザハビ
キャスト:ペーター・シモニスチェク、ダニエル・ドンスコイ、サブリナ・アマ―リ
原題:Crescendo – #makemusicnotwar
製作:2019年製作/112分/G/ドイツ
配給:松竹

文/ごとうまき