【死を決めた日】あなたの死生観と倫理観を揺さぶる『ブラックバード 家族が家族であるうちに』

エンタメ

“安楽死“をテーマに、安楽死を決断した当事者本人とそれを見送る家族達のそれぞれの視点を多角的に捉えたヒューマンドラマ。同時に日本と外国での安楽死に対する捉え方が浮き彫りになる一作でもある。本作は2014年製作デンマーク映画「サイレント・ハート」をリメイク、同作の脚本家クリスチャン・トープが自ら脚色を手がけ、「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督がメガホンをとった。スーザン・サランドン、ケイト・ウィンスレット、「ジュラシック・パーク」シリーズのサム・ニール、ミア・ワシコウスカなど豪華キャストが顔をそろえる。

 

静謐さの中で交錯するそれぞれの感情、明るみになる秘密ーー

あらすじ

筋萎縮性側索硬化症(ALS)という体の自由が次第にきかなくなる難病で余命もわずかとなったリリーはある週末、夫ポールと暮らす海辺の邸宅に、娘のジェニファー、アンナとその家族、そしてリリーの学生時代からの大親友リズを集める。安楽死を決めたリリーが、“家族が家族であるうちに”過ごすために自ら用意した最後の時間だった。それぞれ平静を装いながらリリーの願いである最後の晩餐を共にする彼らだったが、あることをきっかけに緊張感が弾け、それぞれの秘密が明かされていく。

前半は家族の穏やかな最後の晩餐を描いているも、後半からは母の安楽死を巡り意見が分かれる姉と妹の大げんか、さらに明るみになる家族の秘密、まさかのどんでん返し劇に唖然となる!しかしこのどんでん返しによって‟安楽死”というテーマと同時に‟真実の愛”についても考えさせられる。非常に難しく重い作品である。

(C)2019 BLACK BIRD PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED

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議論し自分で決める欧米人と、うやむやにし他人に任せたい日本人

つい最近では難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者が急性薬物中毒で死亡し医師2人が逮捕されたニュースが流れたところだ。日本では違法となる安楽死は、あなたはどう考えるだろうか?ある調査では日本人の8割近くが安楽死の合法化に賛成している。もちろん筆者も賛成。なのに安楽死の法制化は一向に進まないのは、宗教的な理由の背景の他に日本人特有の“人に迷惑をかけてはいけない精神”と面倒なことは後回し、同調圧力に屈しやすく周りの空気を読んで行動する国民性が影響していると言われている。超保守な日本が変わるのは50年先くらい?

とはいえ、もし自分が安楽死を望むような状態になったとして、自分の家族はどう思うか?はたまた自分の親が安楽死を望んだ場合、自分ならすんなりと受け入れられるだろうか?頭の中でグルグルと様々な感情や思考が駆け巡り、答えは出ない。

(C)2019 BLACK BIRD PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED

「自ら安楽死を選ぶ人は、鬱などではなく、知的で明快で分析的である」(劇中の台詞より)

本作からは安楽死というテーマ一つにしても、しっかり議論し答えを導き出す欧米人の特徴が顕著に現れている。安楽死を望む本人、見届ける家族の感情、多角的な視点から捉え、観客へ答えを促しているようだった。

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ブラックバード 家族が家族であるうちに

監督:ロジャー・ミッシェル
キャスト:スーザン・サランドン、ケイト・ウィンスレット、サム・ニール、ミア・ワシコウスカ
製作:デビッド・ベルナルディ ロブ・バン・ノーデン シェリル・クラーク
原題:Blackbird
製作:2019年製作/97分/PG12/アメリカ・イギリス合作

文/ごとうまき