濱口イズムが炸裂!巧みな会話劇に引き込まれる『偶然と想像』

(C)2021 NEOPA / Fictive
映画

偶然と想像」は「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督初の短編オムニバスとなる。「ドライブ・マイ・カー」と言えば「ゴールデン・グローブ賞」で非英語映画賞(旧外国語映画賞)に選ばれた「ドライブ・マイ・カー」。日本作品では1960年に受賞した市川崑監督の「鍵」以来62年ぶりで、カンヌ国際映画祭での脚本賞受賞などに続く栄誉となり先日話題になり、濱口作品に改めて注目が集まっている。濱口竜介監督は自身で脚本を書くことが多く本作も濱口監督が脚本を手がけた。

 

親友の“気になる人”が、自分の元彼だったという「魔法(よりもっと不確か)」は古川琴音、中島歩、玄理の3人が、50代にして芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みし彼を陥れようと、自分のセックスフレンドである同じ大学の女性を彼の研究室に送り込む「扉は開けたままで」には渋川晴彦、森郁月、甲斐翔真が演じる。仙台で20年ぶりに再会した高校時代の同級生の二人の女性。若かりし頃の思い出や近況を話しながらも、次第に会話のすれ違いが。実はとんでもない真実が隠されている「もう一度」に、占部房子、河合青葉が演じ物語を紡いでいく。異なる三つの物語から構成される本作からは、あり得ないようなまさかの“偶然”と秀逸な会話劇から“想像”を掻き立てられる。敢えて感情を込めずに棒読みでの演出が用いられる“濱口イズム”が堪能できるだろう。

三つの物語を深掘り、ネタバレ含むレビュー

「魔法(よりもっと不確か)」

冒頭から、二人の女性のタクシーの後部座席での長回しシーンが印象的だ。親友から打ち明けられる“気になる人”、合致する幾つかのエピソードに、「あれ?もしかして私の元彼?」と勘づく彼女。そこから展開される3人の想像の世界、あなたならどんな行動をとるのだろうか?

「魔法(よりもっと不確か)」
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「魔法(よりもっと不確か)」
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「扉は開けたままで」

本作は好き嫌いがはっきりと別れる作品だろう。セフレ、不倫、報復、ハニートラップ、エロス…拒否反応を示す人も少なからずいる一方で多くの人が好むテーマでもある。こちらも見るものの想像を遥かに超えた会話劇に唸り、笑わされる

「扉は開けたままで」
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「扉は開けたままで」
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「もう一度」

三つの物語の中で筆者が一番好きな作品だ。高校の同窓会に出席するために仙台に帰っていた女性が駅のロータリーですれ違った高校時代の同級生と思い出話に花を咲かせるのだが、少しずつ違和感が生じる…。

「もう一度」
(C)2021 NEOPA / Fictive

それぞれが偶然の出会いから想像した誰かを演じるのだが、これがなかなか面白い。想像を超えたすれ違いやミスと滑稽さ、「そういうことだったのか!」と、本作のタイトルの意味と結びつく。
誰にでもありそうな日常を特別な日常に仕立て上げた濱口竜介監督、“言葉の魔法”“独特の間”がクセになる。濱口作品にこれからも目が離せない。

偶然と想像

監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介
プロデューサー:高田聡
キャスト:古川琴音、中島歩、玄理、渋川晴彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河合青葉
製作:2021年製作/121分/PG12/日本
配給:Incline
文/ごとうまき