【演出家・福田雄一 インタビュー】ミュージカル「『サムシング・ロッテン!』7年ぶりの再演に込められた熱い想いを語る

インタビュー

2026年1月、オリックス劇場で上演されるミュージカル『サムシング・ロッテン!』。2018年の日本版初演から7年の時を経ての再演となる本作について、演出家の福田雄一さんにお話を伺った。

7年ぶりの再演!

――まず、今回の再演が決まった経緯を教えてください。

福田
初演はコロナ前、ちょうど「ビートルジュース」の打ち上げの時でした。僕のミュージカルは基本的にアンサンブルが固定メンバーなんですが、みんなでお酒を飲んでいて一番盛り上がったのが「ロッテン、もう一回やりたいですね」という話だったんです。

福田
僕、滅多に言わないんですよ、ミュージカルで再演したいって。非常に飽き性で、一回で全てをやり切る感じがあって。初演の時もやり切った感はあったんです。でも、あまりにも内容と曲が好きすぎて、普通にお客さんとしてもう一回見たいなって思ったのが初めてだったんです。見たいんだったら自分で演出しないといけないなって。それでプロデューサーの藤井さんに「やらせてくれないですか」ってお願いしたのが3年前。3年かけて、今回実現に漕ぎつけました。

大胆なキャスト刷新とその狙い

――今回、中川晃教さんと瀬奈じゅんさん以外のキャストを一新されました。その理由は?

福田
僕が同じメンバーで再演する場合って、だいたい何かやり残したことがあるときなんです。でもロッテンは完全にやり切ったと思ったんですよ。だから、やり切った感があったので、メンバーを変えて、もうちょっとバージョンアップしてやるしかないなって。あっきー(中川晃教)と瀬奈さんは、このミュージカルの根幹を支えてくれる2人なので、この2人はステイのまま。あとは全員変えましょうというご提案をしました。

シェイクスピア役・加藤和樹への期待

――シェイクスピア役に加藤和樹さんを起用された理由は?

福田
ブロードウェイ初演では、僕が一番好きな役者であるクリスチャン・ボール(Christian Borle)がシェイクスピアをやっているんです。彼はカーテンコールで圧倒的な拍手を浴びていました。シェイクスピアって、1幕はバリバリのイケメンでナルシストなんですけど、2幕に彼の見せ場があって、トビーという名前でニックの劇団に忍び込んでくる。そこでクリスチャン・ボールは相当笑いを取ったんだろうなと想像できるんです。和樹くんって、まさにそういう役者じゃないですか。わりとシリアス系のイメージが強いんですけど、彼の内面はまるで違うんですよね。ものすごく人懐っこくて面白い人なんです。1幕はイケメンで、2幕は誰も今まで見たことがない和樹の面白い一面でやったらいいんじゃないかなって。キャスティングを始めた初日にLINEして、次の日「やります!」って返事が来ました。

運命的な出会い――大東立樹(CLASS SEVEN)と矢吹奈子

――今回のキャスティングで印象に残ったエピソードは?

福田
すごいご縁なんですけど、今回の翻訳・訳詞・タップ振付を僕の長男・響志(なるし)が担当しているんです。響志が「ピーターパン」でジョン役をやった時の、弟のマイケル役が大東立樹くんなんです。プロデューサーさんから提案が来た時、写真を見て「これってリッキーですか?」って家族ラインに送ったら、「うわ、リッキーだ!」ってなって。12年ぶりの再会です。

福田
そして矢吹奈子さん。指原莉乃さんが「HKTにめっちゃ可愛い子がいるんですよ」って、奈子ちゃんの写真(当時小6)を毎日LINEで送ってきてたんです。「福田さん、何かに使ってあげてください」って(笑)。今回、響志と一緒に子役をやっていた立樹くんと、指原が僕に売り込んできた奈子ちゃんという二人が入ってきた。あまりにも運命的だと思いましたね。

石川禅とのコメディへの情熱

――石川禅さんの起用についても教えてください。

福田
前作『エドウィン・ドルードの謎』で山口祐一郎さんと一緒に仕事をさせていただいたんです。その舞台を禅さんが観に来てくれて、褒めてくださって。「僕は本当にいつかあなたとお仕事をしたいです」って言ってくださいました。禅さんって、僕の中ではコメディの達人のイメージがあるから。それで今回、禅さんにお願いしました。

福田流演出術――「個人戦」のミュージカル

――稽古場での演出方法について教えてください。

福田
前回、あっきーに稽古の3日目くらいに言ったんです。「福田ミュージカルは、団体戦ではなく個人戦です。日本の芝居は『和をもって』と教わってきたかもしれないけど、福田ミュージカルには和はありません。個人で面白いことを言ったやつが勝ちです」って。次の日からガラッと変わりましたね。やりたかったんですよ、みんな。役者さんって楽しいことやりたいんです。

福田
僕のミュージカルは、稽古の半ばになると地獄絵図みたいになるんですよ。全員が好きなこと言うから、全く調和が取れてない時期が訪れる。でも僕には特殊能力があって、役者さんが20日半の稽古期間中にずっと言い続けることを、全部記憶することができるんです。そして「Xデー」という日があって、「じゃあ出し尽くしましたね。頭から決めていきますよ」って。その僕が全部決めたものを1週間くらい稽古して舞台に上げるっていうのが僕のやり方なんです。

アドリブではなく、計算された笑い

――福田作品はアドリブが多いイメージがありますが。

福田
よく言われるのですが、正直言ってアドリブは一つもないです。僕のミュージカルでアドリブをやるのはジェシーだけです。あとの人は全部決まってます。お客さんには即興に見えても、全部決まってるんです。

――最後に、観に来られる方へメッセージをお願いします。

福田
このミュージカルは、ミュージカル作品へのオマージュがたくさん登場しますが、知らなくても全然大丈夫です。ストーリーがものすごくシンプルなんです。弱小劇団の座長が、予言者に騙されて一生懸命、『ハムレット』と間違って『オムレット』っていうミュージカルを作る話。コメディはシンプルなのが絶対いいと思ってるんです。難しい筋書きとか一切なく、一個一個のシーンが楽しめる。最低限『シェイクスピア』だけ知っていれば大丈夫。それぐらいの気持ちで十分楽しめると思います。

ミュージカル「サムシング・ロッテン!」大阪公演
日程:2026年1月8日(木)〜12日(月・祝)
会場:オリックス劇場

ミュージカル「サムシング・ロッテン!」 <オフィシャルHP>

取材・文・撮影:ごとうまき