【挑戦するパパ、ママへのオマージュ】育児と仕事の両立の葛藤を描く『約束の宇宙(そら)』

エンタメ

完璧な宇宙飛行士がいないように、完璧な母親(父親)もいない。

働くママが7割越えとなり専業主婦が絶滅危惧種になりつつある昨今、かつて日本に蔓延っていた“三歳児神話”はすでに崩壊しつつある。社会はワーキングマザー達が活躍できるような環境に整いつつあるも、地域や年齢層の高い世代からは働くママ達への理解がまだまだなのが現状(ちなみに、それぞれの家庭の事情や個人の向き不向きもあり、決して働くママを持ち上げているわけではない)。やはり子育てや仕事、自己実現との両立は想像以上に大変で、実際に子どもを産んで育ててみないと理解することは難しい。そのため育児をしながら働く女性とそうでない人との価値観の違い、それぞれの立場からの言い分や小さな不満などが度々ニュース記事でも取り上げられている。

一方で他国に比べ日本は、家事育児における男女格差が非常に大きい。“世界一家事をしない日本の男性”、それを役割分担だとあっさりと受け入れてしまう女性達が少なからずいるこの国の現状では、本作に共感する人が果たしてどれくらいいるのだろうかーー。

あらすじ

『約束の宇宙(そら)』はシングルマザーの宇宙飛行士と愛娘との愛と絆を描いた作品。

欧州宇宙機関(ESA)で日々訓練に励むフランス人宇宙飛行士サラは、物理学者の夫と離婚し7歳の娘ステラと2人で暮らしている。そんなある日、サラは「Proxima(プロキシマ)」と名付けられたミッションのクルーに選ばれた。子供の頃からの夢が実現し喜ぶ反面、宇宙へ旅立てば娘と約1年もの間、離れ離れに。過酷な訓練の合間に、サラはステラと「打ち上げ前に一緒にロケットを見る」という約束をする。

サラを演じるのは、「007 カジノ・ロワイヤル」「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」のエバ・グリーン、「クラッシュ」のマット・ディロン、「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが脇を固める。監督に「博士と私の危険な関係」のアリス・ウィンクールが、脚本も手がけ、音楽を坂本龍一が担当している。

欧州宇宙機関(ESA)の協力を得て、施設から小道具に至るまですべて本物を使用したという宇宙飛行訓練の描写はリアリティ溢れ、飛行士らの取り組みや考えも参考になる。

(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

仕事と育児の両立の難しさや葛藤に共感の嵐

本作の評価は観る人の年齢、環境、子どもの有無や価値観によって大きく異なるのではないかと。

主人公サラのあまりにも自己中な行動に批判の声も少なからずあるが、筆者は彼女の思いには強く共感する。どんな職業や立場であれ、愛する子を思う母としての気持ちはみんな同じ。彼女の“子供と少しでも一緒に居たい”、“約束を守りたい”、”毎日娘と電話で話したい”という思いは多くの母親に共通する気持ちではなかろうか。

ママがハッピーでいることが最高の子育て!

仕事(または介護や勉強など)をしながら子育てに奮闘するお母さん達(お父さん)は日々子どもとの時間や教育、自分の仕事ややるべき事や夢などの葛藤に加え、「これで良いのだろうか?」と不安に駆られる日はないだろうか。”子どもは親の背中を見て育つ”と言うが、親の葛藤や頑張りって子供達にも伝わっているはず。外野の声は気にせずに、自分の選んだ道に自信を持って進むべきで、“ママのハッピーが子どものハッピー”でもあると私は信じている。

(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

エンドロールには実在する宇宙飛行士たちが

原稿を書いている4月24日、星出彰彦さんたちが乗った宇宙船が国際宇宙ステーションのドッキングに成功したとニュースが流れてきた。家族を残して旅立った星出さんや星出さんの無事を祈るご家族の幸せを祈るばかりである。エンドロールには国家事業であり世間から注目される偉大な任務と子育てを両立させた実在の女性宇宙飛行士たちの写真が映し出される(その中には日本人の山崎直子さんの姿も)。過酷な訓練と徹底した自己管理に加えて、子育てという重労働を両立させるには強靭な体力とメンタル(選ばれし超エリート)でないと成し遂げられないこと。

さらには1年近く子供や家族と離れ離れに暮らすことになり、そんじょそこらの出張とはワケが違う。こちとら1泊2日の出張でさえも寂しくて不安なのに。相当な覚悟と腹をくくっての任務である。

しかし忘れていけないのは、育児と仕事の両立が成り立つ裏には夫や祖父母、周りの強力なサポートがあってこそ実現できることが大前提である。女性が活躍するには、社会全体で子育てをするということがセットになっていることを痛感する、と同時に「ママ社長」「ママ宇宙飛行士」など女性が活躍をすることが珍しいような職業に対しての、差別的なネーミングにも違和感を覚える。ママが活躍すれば『子どもはどうした?』などと言った声も少なからず浴びさせられる。そんな社会自体を変えていくべきだし、そこに関してはまだまだ課題が山積みだ。

本作を通してワーキングマザー(特にバリキャリママ)や、シングルマザー、特殊な職業のママの子育てと仕事の両立の葛藤や苦労を知るきっかけにはなるのではないだろうか。

(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

監督:アリス・ウィンクール
キャスト:エバ・グリーン、ゼリー・ブーラン=レメル、マット・ディロン
製作:2019年製作/107分/G/フランス
原題:Proxima
配給:ツイン
文/ごとうまき