実話を基に着想を得たサスペンス
リドリー・スコット監督がメガホンをとった『ハウス・オブ・ グッチ』は、 家族経営で財を成したイタリアを代表する老舗ブランド「 GUCCI(グッチ)」 の脆く儚い創業者一族の崩壊を描いたサスペンスドラマ。本作はサラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション小説「ハウス・ オブ・グッチ」を原作とし、GUCCI創業者グッチオ・ グッチの孫にあたる3代目社長マウリツィオが1995年3月27 日、ミラノの街で銃弾に倒れた実話を基に製作されている。
あらすじ
GUCCIの創業者の孫で弁護士を目指していたマウリツィオ・ グッチと、 父の経営する運送会社で働く22歳のパトリツィアはあるパーティ ーで出会って瞬く間に恋に落ちる。 上昇志向が強いパトリツィアを見抜き警戒していたマウリツィオの 父ロドルフォは二人の結婚に猛反対するも、 二人は父の反対を押し切り結婚する。「GUCCI夫人」 という肩書きを手に入れたパトリツィアはグッチの実質的な経営者 だったアルド(マウリツィオの伯父) に気に入られたのを機に経営に興味のない夫を説得しGUCCIを 継がせるように仕向ける。 野心を剥き出しにあの手この手で経営権を手に入れようと奔走する パトリツィアだが、 その上昇志向が仇となりいつしか夫婦関係に亀裂が生じる・・・。
グッチ家の崩壊を招いたマウリツィオの妻であるパトリツィア・ レッジャーニを「アリー スター誕生」のレディー・ガガ、夫マウリツィオ・ グッチをスコット監督の『最後の決闘裁判』 に続き再びタッグを組んだアダム・ドライバーが演じる。スコット監督が本作の映画化を考えたのが2006年、 13年後の2019年にグッチの承諾を得て、2021年2月に撮影がスタートしたという。
深淵のような人間の欲深さを感じる作品
本作に描かれるのは人間の業、栄枯盛衰、憎悪や手酷い裏切りなどが容赦なく描かれていて、 残酷でありながらも痛烈かつ秀逸なストーリーにグッと引き込まれる 。159分と長尺ではあるが全く退屈なくむしろ前のめりに、かじりつき見てしまう面白さがある。
GUCCI一族の崩壊がいかにして起こったのかーー。 見る側にとってはその強烈な登場人物や興味深いエピソードにクスッと笑ってしまうが(‟他人の不幸は蜜の味”ってやつです)当事者であるGUCCI一家にとっては良い気はしないだろう。 実際に映画の製作途中や完成時には一族からは本作が非難されてい るという。
純粋に恋に落ちて夫婦になるも、 次第に欲が出て自らグッチを崩壊に招いたパトリツィア。 パトリツィア達も家族経営の問題に直面し乗り越えようとするも肝 心の夫婦関係が破綻し悲劇の始まりとなる。
長年にわたって良好な夫婦関係を維持することの難しさ、 事業を何代にもわたって続けていくことの困難さ( 世間では3代目で終わると言われる)が描かれていると同時に、 全てにおいて“物事”には終わりがあることを思い知らされる。
レディー・ガガの女優魂に驚嘆
男女二人の出会いから恋人になり新婚時代を経て関係が壊れるまで の二人の表情の移り変わりが巧みに演じた華やかなレディー・ガガと (演技も素晴らしかった) と安定のアダム・ドライバーが素晴らしい。レディー・ガガの女優としての作品は「アリー・スター誕生」に続く二作目となるが、彼女の実力は今作によって確固たるものになった。また彼女は役作りに対してもとてもストイックに取り組んだという。パトリツィアについてできるかぎりのリサーチをし現場に入る前には、脚本を何カ月もかけて読み込み、シーンを分析して挑んだ。
また脇を固める俳優たちからも目が離せない。老いても尚セクシーでダンディなアル・パチーノ、 大仰なメイクを施し間抜けな3代目のパオロを演じたジャレット・ レトなどの熱演もキラリと光る。
アル・パチーノが日本語を話すシーン、 劇中での日本人客の登場など、 日本に対するオマージュも感じられると同時に当時のGUCCIと日本人との 関係性も描かれている。
そしてため息が出るほどの豪邸や豪華なインテリア・・・。とりわけ劇中に何度か流れるオペラやイタリア音楽がセンスよく使 用されており、どことなく漂う重厚感がサスペンス感をグッと深めている。レディー・ガガは衣装デザイナーに「パトリツィアをファッショナブルにしすぎないでほしい」とお願いしたそうだが、絶妙なバランスで引き算された煌びやかなファッションにも是非注目してみてほしい。
ハウス・オブ・グッチ
監督:リドリー・スコット
脚本:ベッキー・ジョンストン ロベルト・ベンティベーニャ
製作:ケビン・ファイギ エイミー・パスカル
キャスト:レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジャレッド・レト
原題:House of Gucci
製作:2021年製作/159分/PG12/アメリカ
配給:東宝東和
文/ごとうまき