西野亮廣が原作を手掛けた大ヒット絵本が3Dアニメーションで映画化、映画『えんとつ町のプペル』
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未来を担う子ども達に伝えたい物語
この年末、街やSNSでは「えんとつ町のプぺル」が盛り上がりをみせている。本作はお笑い芸人「キングコング」の西野亮廣 氏が原作を手掛けた大ヒット絵本を3Dアニメーションで映画化。
西野さんが絵本を?とご存じでない人もいるかもしれないが、彼は2008年頃から、超売れっ子芸人として活躍する傍ら絵本製作に取り組み、これまでにも絵本作家としての実績を積んできている。また国内最大のオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」(会員数は7万人を超える)も運営。また、当時まだ浸透していなかったクラウドファンディングをはじめ、様々な活動に取り組み、行動し挑戦し続けている。そんな彼を見て応援する人も多くいる一方で、バカにしたり陰口を叩く者もいたそうだ。しかしそんな誹謗中傷の声までも受け止め、ひたすら自分と向き合い努力し続けた結果の待望の映画化。これは観ないわけにはいかないでしょう。
まず、最初に言っておくが、私は西野さんのファンでもなく、サロンメンバーでもない。つまり、ニュートラルな視点で本作を鑑賞したつもりだ。そのうえでの私の率直な感想を述べたい。
作品について
原作の絵本 ~絵本業界の常識を覆す~
西野氏が脚本・監督した原作は、クラウドファンディングを使い資金を募って制作したという。なんと完全分業制(イラストレーター・クリエーター総勢33名)を取り入れた手法は、昔ながらのスタイルを続けてきた絵本業界に新しい風を吹かせた。さらに、絵本を全頁無料公開するという業界の常識を覆し、結果、累計発行部数は55万部数だという。
あらすじ
煙突だらけの「えんとつ町」、街にはそこらかしこに煙突が立ち、灰色の煙で覆われて空も星も見ることができない。煙突掃除の仕事をしているルビッチは身体の弱い母と二人暮らし、高いところが苦手なルビッチが煙突掃除をするのにはある理由があった。それは亡き父が生前語ってくれた物語を見るためだった。『黒い煙のその先に、光り輝く世界がある』と信じ、それを紙芝居にして子どもたちに伝えていたが、周りからは嘘つき呼ばわりされていた。そんな父をルビッチは信じ、いつも煙突に腰掛け空を見上げ、星を探し続けた。ハロウィンの日に突然現れたゴミ人間プペルとの出会いがルビッチの運命、そしてえんとつ町の人々も変えてゆく。
美しい美術とアニメーション技術、早くも海外からオファーが・・
脚本、製作総指揮は西野亮廣が務め、監督は伊藤計劃原作の「ハーモニー」で演出を務めた廣田裕介。またアニメーション制作は世界的に高く評価をされている職人集団「STUDIO4℃」が手がけた。STUDIO4℃は「海獣の子供」(第92回アカデミー賞の長編アニメーション賞にエントリー)「鉄コン筋クリート」などでも高い評価を得ている。
この作品が持つポジティブなメッセージ性と、その繊細な絵のタッチ、アニメーションのクオリティーの高さが世界からも注目され、北米、ヨーロッパ、アジア、中東などの40社以上から問い合わせがあったとのこと。そんな中、早速韓国、台湾での公開が決定したという。
豪華 声優陣
ルビッチ役には芦田愛菜、ゴミ人間プぺル役に窪田正孝。特に窪田正孝さんの声が素晴らしく、プぺルがはまり役。彼の持つ優しく温かい声は抱いていたプぺルのイメージそのものである。
その他にも、立川志の輔、小池栄子、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)今注目の女優・伊藤沙莉、宮根誠司、國村隼と豪華声優陣が名を連ねる。特にオリラジの藤森さんの独特な声が良く活かされていて、「お見事!」としか言いようがないほど完成されていた。
本作から考える、日本社会の悪しき側面
「信じ続ける人」「信じるものを馬鹿にする人」そして、かつては「信じていたが夢を諦めた人」に対してもフォーカスし描かれている本作は、夢を追う人、挑戦する者に向けた強烈なメッセージが込められている。ものすごく感動する一方で、なんとなくモヤモヤさも感じていた。これはなんだったのか、と考えたときに、それは私が日々感じている、”日本社会に対するジレンマ”だった。
同調圧力が世界一強い日本
2020年、コロナという見えない災害が踏み絵となり、炙り出された人々の価値観や本質 。”マスク警察”や”自粛警察”は同調圧力、村社会からの典型的な例であろう。また、「自粛」「自己責任」など、その背後に潜む日本社会の「闇」も見え隠れしている。
「人と違う」ということを極端に嫌い、周りからはみ出すことを恐れ、またそこからはみ出すもの、他人と違う事をするものを陥れ、排除しようとする傾向が強い日本人。そしてマジョリティであることに安心するらしい。
その”刷り込み”は保育園や幼稚園、学校教育から始まり、私たちはそのまま大人になっている。そしてその大人が子どもを育て・・といった無限のループが昔から繰り返されている。
その悪しき風習を断ち切るには、今、大人たちが変わる必要がある。
本作のような作品がこの先も多く生まれ、エンタメ業界が日本の人々の意識をどんどん変えていくといいなと。そして、教育現場に携わるものの本作を観て今一度、考えてほしい。
こんな息苦しい世界を次の世代に渡せない。
西野氏が舞台挨拶時に語った「挑戦者が笑われる世界を終わらせに来た」
個人的にはこの言葉がバシバシ刺さった。本作は西野氏自身の物語でもあり、挑戦する人々に向けたエールである。
さらに誹謗中傷をするものに対して西野氏は『人は理解できないものを詐欺か宗教で片づける』『知らないから嫌っている事がほとんど』であると、自分自身が嫌われることに対しても冷静に分析し、受け止めている。普通はこんなことはできないはずだ。なんて器が大きく懐の深い強い人なんだと、もう、尊敬でしかない。
親子で、そして親自身が心から楽しめる
本作の魅力の一つとして感じたことだが、SNSや映画のレビューなどを見ていると、親子で鑑賞している人も多いと感じた。いや、むしろ親御さんのほうが積極的に子どもを誘って劇場に行っている様子だ。かくいう私もその一人。
例えば私も大好きな、新海誠 作品『君の名は』や『天気の子』だと、未就学児や小学低学年までの子どもには少し難しい感じがして、子供たちとは一緒に行けなかった。対して子供が大好きな定番の作品は、というと・・・私が楽しめない。正直観たくもない映画を2時間近く観るほど辛いものはない。
このように親子共に楽しめる作品ってそんなに多くなく、そういった意味では『鬼滅の刃』や本作も含め今年は当たり年だったように思う。
本作を観ての感想
クオリティーの高い映像美に、ルビッチとプぺル、そしてお父さんをはじめとする登場人物に思わず感情移入してしまう声優陣達のパフォーマンス。様々な感動が、ロザリーナが歌うエンディング曲と共に一気に爆発。エンドロール後、思わずスタンディングオベーションしたくなるような、温かい感動に包まれた。実は、一緒に行った9歳の長女、7歳長男たちよりも母親の私のほうが作品中盤からワンワン泣きじゃくり涙していたかもしれない。ちなみに5歳になったばかりの次女はというと、映画より目の前のポップコーンに夢中で、彼女はまだ完全には理解していないようだった。
KANSAIPRESS編集部から
文/ごとうまき
年末、激動の2020年を締め括るに相応しい、素晴らしい作品に出会えてよかったと心から思う。来年も良き年でありますように。