【真のリーダーとは】『生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事』

エンタメ
戦時下の教育により「玉砕こそが美徳」とされた価値観、時代に周囲の人々に「生きろ」と言い続けたある一人の男がいた。
太平洋戦争末期の沖縄県知事・島田叡(しまだあきら)である。
資料としては島田叡の写真数枚のみで、本人の音声や映像は残されておらず、新聞記事や部下が残した手記、沖縄戦を生き延びた県民や、当時の軍や県の関係者、遺族への取材を中心に、島田叡という男の生き様を浮かび上がらせたドキュメンタリー。

 

概要

沖縄の住民約9万4,000人、沖縄出身者も含んだ日本軍約9万4,000人、アメリカ軍約1万2,000人が亡くなったとされる沖縄戦、1945年4月1日、沖縄本島中部に上陸したアメリカ軍は、島を南北に分断した。迎撃にあたった日本軍は、南部に撤退して持久戦を展開したため、沖縄県民を巻き込んだ激しい地上戦となった。6月23日、組織的戦闘は終わった。

(C)2021 映画「生きろ 島田叡」製作委員会

1944年10月10日、米軍による大空襲で壊滅的な打撃を受けた沖縄。翌年1月に内務省は新たな沖縄県知事として、当時大阪府の内政部長だった島田叡(あきら)に白羽の矢を立てた。
死地に赴く事を承知の上で、島田氏は妻と娘二人を大阪に残し、沖縄に向かった。
知事就任と同時に、彼は大規模な疎開促進、食料不足解消のため自ら台湾に飛び、大量のコメを確保するなど、さまざまな施策を断行した。
米軍が沖縄本島に上陸した後は、壕を移動しながらの行政続行、しかし戦況の悪化に伴い、大勢の県民が戦闘に巻き込まれ、日々命を落としていく。
やがて島田自身も理不尽極まりない軍部からの要求と、行政官としての住民第一主義という信念の板挟みとなり苦渋の決断を迫られることとなる。

(C)2021 映画「生きろ 島田叡」製作委員会

(C)2021 映画「生きろ 島田叡」製作委員会

真のリーダーとは。今の日本の状況に通じる

死を覚悟して挑んだ一人の男と沖縄の哀しきドキュメンタリー。
戦時中の悲痛な状況が僅かな映像からもひしひしと伝わると同時に
“国家のことばかりで民の声を無視している”と、生き延びた県民の声が強く残っている。
本作から見る当時の状況は、今の日本の状況に通じるものがある。
オリンピックに関して多くの国民が中止を望んでいるにもかかわらず“オリンピック実施ありき”で民意を反映しない政府の姿勢。結局日本は何も変わっていないのだ。
偉い人、立派な人とは、肩書きでも学歴でも財力でもなく
“後ろから、背中を拝まれる人の事だ”という島田氏の言葉を覚えている人が出ていた。
時代の価値観や極限状態での状況下で失っていく良心や人間性、しかし島田叡はその心を最後まで失うことはなかった。
真のリーダー像とは?本来の官僚のあるべき姿が彼のような人物ではないだろうか。
また同時に沖縄の悲しき歴史も忘れてはならない。沖縄に刻まれた歴史から、未来への教訓を学び、活かしていくことが戦争で犠牲になった人たちに手を合わせる一つの方法ではないだろうか。

(C)2021 映画「生きろ 島田叡」製作委員会

生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事

監督:佐古忠彦
プロデューサー:藤井和史 刀根鉄太
撮影:福田安美
製作:2021年製作/118分/G/日本
配給:アーク・フィルムズ

文/ごとうまき