【イルカが語る ~あいのたね♡まこう!~に託した祈り】プレ55周年、4人の孫を持つシンガーの”遺言的”メッセージ

インタビュー

大阪城ホールでの「君と歩いた青春」コンサートを終えたばかりのイルカさん。360度埋め尽くされた会場を振り返りながら、「昭和世代にとっては奇跡的にうれしいこと」と笑顔を見せる。来年55周年を迎える彼女が今、最も大切にしているメッセージ、それが、プレ55周年 イルカコンサート〜あいのたね♡まこう!~だ。

言葉に込められた祈り

プレ55周年 イルカコンサート ~あいのたね♡まこう!~というタイトルについて語る時、イルカさんの表情は穏やかながらも真剣味を増した。全てひらがなで書いたのは「小さいお子さんでも読んでもらえたら」という想いから。この言葉が彼女の心に降りてきたのは、世の中の「愛に逆行していること」があまりにも多いと感じた時だった。

頻発する災害、予想もしなかった戦争の勃発、そして2年半にわたってコンサートを奪ったパンデミック。それらから派生する人々の心の中に「憎しみの種」が蒔かれていく現実を目の当たりにして、イルカさんは考えた。

「戦っている中で泣いている子どもたちを見ると、この子は一生それを背負っていくのかなという気持ちが何ともやるせなくて」

4人の孫を持つおばあちゃんとしての「遺言的な気持ち」が、この楽曲を生んだ。憎しみの心さえも包むような温かい気持ちを忘れずに、どんなに小さくても“あいのたね”まいておけば、いつか子どもたちが大人になった時に花が咲き、実がなって、また愛の種がまかれていく――そんな循環への願いが込められている。

20年来の相棒と歩む道

インタビュー中、印象的だったのは頸椎症について語った場面だ。14年前に医師から「ギターをやめなさい」と言われた時、「やめるわけにはいかない」と迷わず答えたという。

「ギターを弾いて歌うのがイルカちゃんでしょって思うだけ。ギターはもう一心同体みたいな感じだから」

重いギターを肩から背負って演奏することで手が痺れるようになったが、スタッフが考案したギタースタンドを使うことで問題を解決。「一緒にずっと歩いてきた仲間だから」と語る彼女にとって、ギターは単なる楽器を超えた存在なのだ。

コンサートで育った楽曲

9月21日にデジタルリリースされた新曲「あいのたねまこう!」(配信限定)は、珍しい成長過程を辿った楽曲でもある。レコーディングの前にコンサートで披露し、「一番しかないんだけどいい?」「サビができたんだけど歌ってくれる?」と観客に問いかけながら、1年以上かけて完成させていった。

「この歌はコンサートで育ってきた子だよって、そんな感じがしますね」

この曲は、レジェンド・鈴木茂さんとのコラボレーションによる“ホームメイド”な作品。初めて聞く人でも「無理やり歌ってください」と笑いながら促すイルカさんの姿からは、コロナ禍を経て「お客様と一緒に歌える」ことへの特別な思いが伝わってくる。

50年の時を超えた「なごり雪」

1975年の大ヒット曲「なごり雪」について語る時、イルカさんの表情には客観的な驚きが浮かんだ。「この子、もう自分たちの手から遠いところに行くぐらい大きな存在になっちゃった」と作者の伊勢正三さんと話すという。

世代を超えて愛され続ける楽曲について、「作者であるとか私が歌ったとか、そういうことをもう超越して、皆さんの胸の中で育てていただいた歌」と表現。自分の子どものように思っている歌が「親をどんどん越えていく嬉しさ」を感じているという。

健康管理という現実と向き合って

55年のキャリアを振り返り、「こんなに長く歌ってこられると思ってなかった」と率直に語る。コロナ禍で迎えた50周年では、数十本のコンサートが全て中止となり、「このまま引退かな」と思った時期もあった。

だからこそ今は「健康管理しかない」と笑う。かつては毎晩お酒を飲んで騒いでいたが、今は「全く飲まない」。代わりに「お湯を飲んでても酔っ払える術を身につけた」と茶目っ気たっぷりに話す姿に、年齢を重ねることへの前向きな姿勢が表れている。

すべての活動に通じる思い

音楽活動にとどまらず、ラジオパーソナリティ、IUCN国際自然保護連合初代親善大使、絵本・エッセイの執筆、大学での客員教授など、多岐にわたる活動の軸について問われると、即座に答えが返ってきた。

「すべては“あいのたねまこう”という気持ち一つですね」

祖母から教わった「何か物を借りたら、もっときれいにして返しなさい」という言葉を胸に、「今の世の中、地球をそういう風にしているかな」と自問しながら、未来のために努力を続けている。

12月7日の東大阪市文化創造館でのコンサートについて語る時、イルカさんの声には特別な温かさがあった。「大阪で毎年やってや」という声援への感謝を込めて、新しい歌と懐かしい歌の両方を用意しているという。

「皆さんに青春していただける懐かしい歌もたくさん用意しています」

55年というキャリアの重みと、それでもなお前を向いて歩み続ける意志。プレ55周年 イルカコンサート ~あいのたね♡まこう!~は、単なる周年記念を超えた、未来への希望のメッセージなのかもしれない。会場で響く歌声が、また新たな愛の種となって、誰かの心に根を張ることを願いながら。

取材・文・撮影:ごとうまき