【ロングインタビュー】岩崎宏美 デビュー50周年、感謝のグランドフィナーレへ 「歌は、皆さんと共に歩んできた人生そのもの」

アーティスト

1975年4月25日、「二重唱(デュエット)」で鮮烈なデビューを飾った岩崎宏美さん。あれから半世紀。「ロマンス」「思秋期」「聖母(マドンナ)たちのララバイ」……。彼女が届けてきた歌声は、常に私たちの人生の傍らにあり、時代を彩る希望の光でした。2025年末、37年ぶり15回目となるNHK紅白歌合戦への出場を果たし、日本中にその変わらぬ美声を響かせたことも記憶に新しいところです。

現在、デビュー50周年を記念した全国ツアーの真っ只中にある宏美さんに、紅白の舞台裏から、4月12日にオリックス劇場で開催される「Grand Finale!」公演への想い、そして50年貫いてきた歌手としての信念をたっぷりとお聞きしました。

「こんな難しい歌を歌っていたの?」20代の自分に驚くことも

── 昨年末のNHK紅白歌合戦、本当に素晴らしいステージでした。37年ぶり15回目という大舞台でしたが、改めてどのようなお気持ちで立たれたのでしょうか。

岩崎
「うたコン」などでNHKホールに立つ機会は時々ありましたが、紅白はやはり空気が違いましたね。37年前は紅組・白組それぞれに専属バンドがいたものですが、今はステージが広大で、バンドはいない。共演者の方々も、昔馴染みは水前寺清子さんや天童よしみさんくらいで(笑)。

── 時代の変化を肌で感じられたのですね。

岩崎
まさに「浦島太郎状態」でした(笑)。でも、Mrs. GREEN APPLEさん、Vaundyさん、RADWIMPSさん……大好きなアーティストの方々にたくさんお会いできて、すごく刺激的だったんです。出番が前後だった、ちゃんみなさんとも、舞台裏で結構お話しする機会があって。若いパワーに触れられたのは、とても幸せな経験でした。

── さて、いよいよ4月12日にはオリックス劇場で「50周年記念コンサート 〜永遠のありがとう〜 Grand Finale!」が開催されます。昨年7月から始まったこの記念ツアーを振り返って、今いかがですか?

岩崎
今回のステージはメドレーを4つ盛り込んでいるのですが、とにかくこれまで歌ってきた曲数が多いので、全部合わせると38曲にもなるんです。お喋りに夢中になると時間がなくなっちゃうので、必死ですよ(笑)。でも、改めて過去の楽曲に向き合うと、「私、20代でこんなに難しい歌を歌っていたんだ!」って驚くことがあります。

── 特に「難しい」と感じる曲は?

岩崎
例えば「火曜サスペンス劇場」の主題歌メドレーですね。「家路」や「橋」、そして「愛という名の勇気」。これらはどれもヘビーなバラードで、ノリで誤魔化せるような曲じゃない。当時は必死に歌っていましたが、今歌ってもかなり体力を消耗します。

── 「聖母たちのララバイ」も、カラオケで愛唱するファンが多い名曲ですよね。

岩崎
 よくファンの方から「軽く歌えますよ!」なんて言われるんですけど、心の中で「そんなに簡単に歌いこなしていいの?」って思っちゃう(笑)。でも、あの曲を歌いきることで、何か一つ階段を登ったような、晴れやかな気持ちになれるのかもしれませんね。フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」のように。

大阪・オリックス劇場は「弾ける」場所

── グランドフィナーレの地に大阪を選ばれたのは、関西のファンにとっても嬉しい限りです。

岩崎
 東京でのデビュー記念日(4月25日)を目前に控えたこの時期、大阪で締めくくれるのは私にとっても感慨深いです。オリックス劇場は、いつも良い意味で「弾けられる」場所なんですよ。

── 大阪のお客さんの印象はいかがですか?

岩崎
本当にフレンドリー! 昔、デビュー2年目くらいの頃、神戸国際会館でのステージを鮮明に覚えています。当時は緊張して、台本通りに喋るのが精一杯だったんですが、私がお話しするたびにお客さんがドッと笑うんです。私が同じことを二度言ってしまったら、「さっきも聞いたで!」って客席からツッコミが入って(笑)。

── 関西ならではの距離感ですね(笑)。

岩崎
普通なら傷つくかもしれませんが、不思議と嫌じゃなかった。「あ、そうでしたね!」って返せる温かさがあるんです。昔、MBSラジオの「ヤングタウン」でやしきたかじんさんやオール阪神・巨人さんとご一緒していた時期もあって、毎週大阪へ通っていましたから。たかじんさんに美味しいお店へ連れて行ってもらったり……私にとって大阪は、とても馴染み深い大切な場所なんです。

親衛隊との絆、「永遠のありがとう」

── 今回のセットリストには、レコーディング以来あまり歌っていなかった隠れた名曲もあると伺いました。

岩崎
 はい。A面だけでも60曲以上ありますから。今回は曲の繋がりを大切に構成しました。3つ目のメドレーでは客席に降りて歌う演出もあるのですが、そこには今も「親衛隊」の皆さんがいてくださるんです。

── 50年経っても変わらぬ熱量で支えてくれる存在……素晴らしいですね。

岩崎
 彼らの顔を見ると、もう「分かっているわよね」という阿吽の呼吸があるんです。今回の新曲「永遠のありがとう」は、まさにそんなファンの方々への思いを込めた一曲です。

── 「永遠のありがとう」を歌われる際、どのようなお気持ちになりますか?

岩崎
実は、この曲を歌っている時は親衛隊のみんなの顔を直視できないんです。見ちゃうと、込み上げるものがあって泣きそうになっちゃうから。いつも少し上を向いて歌っています(笑)。2コーラス目からは私自身も作詞に参加させていただきました。長年バンドリーダーとして、また「うたコン」や紅白でも私を支えてくれている作編曲家の上杉洋史さんと共に作り上げた、今の私の等身大のメッセージです。

言葉を届ける。それが歌手・岩崎宏美の信念

── 宏美さんの歌声は、デビュー当時から変わらず瑞々しく、艶やかです。その礎には、幼少期の合唱団での経験があるのでしょうか。

岩崎
 小学校2年生から、森先生という方の「森児童合唱団」で歌を習っていました。姉も妹(良美さん)も同じ道を歩んだのですが、そこでは「元気な子は大きい声で、出ない人は静かに」という、とても自由で健やかな教えをいただきました。

── その後、中学3年生で「スター誕生!」に挑戦されました。

岩崎
 同い年の森昌子さんが活躍されているのを見て、「私にもチャンスがあるかも」と思ったのがきっかけです。当時は昌子ちゃんも、百恵ちゃんも淳子ちゃんもみんな同い年。楽屋に行けば同級生がいるような、まるでクラブ活動のような感覚で楽しかったですね。ただ、3ヶ月に一度シングルを出していたので、譜面も読めないまま耳で必死に覚えてレコーディングする日々は大変でした(笑)。

── キャリアの中で、大きな転換点はありましたか?

岩崎
 25歳で独立し、ミュージカルに本格的に挑戦したことでしょうか。「レ・ミゼラブル」のファンティーヌ役のオーディションを受けた時、自分より声が出る人がたくさんいる中で、「役を勝ち取らなければならない」という厳しい競争を初めて経験しました。それまでは「人と競う」という感覚が全くない人生でしたから。その後、ディズニー実写版『美女と野獣』でポット夫人の吹き替えを任せていただいたことも、本当に嬉しい出来事でした。

── 宏美さんの歌は、一言一言の日本語がとても丁寧に、美しく響きます。

岩崎
 私は日本語の響きが大好きなんです。さだまさしさんの作る歌のように、綺麗な日本語で情景を細やかに説明できる表現に惹かれます。英語の歌も素敵ですが、やはり「言葉」を届けなければ意味がない。何と言っているかわからない歌ではなく、メッセージが真っ直ぐ届く歌を歌い続けたい。その思いはデビュー当時から、一度も揺らいだことはありません。

生きていくことは、戦士であること

──特に「聖母(マドンナ)たちのララバイ」は、今も多くの人の心の支えになっています。

岩崎
あの曲をいただいた時は、まだ23歳でした。歌詞の中に「戦士」という言葉が出てきても、当時はピンとこなかったんです。でもその後、エジプトのギザでコンサートをした際、現地の日本企業で働くご家族や子供たちが過酷な環境で懸命に生きている姿を目の当たりにして、「ああ、生きていくことは戦士なんだ」と初めて腑に落ちたんです。

── 震災の時も、宏美さんの歌は多くの人を励ましてくれました。

岩崎
2011年3月11日。あの日、私は新幹線で大阪に向かっていました。翌12日、大阪でのコンサートは満席。津波の映像を見て胸を痛めている皆さんに、何ができるのか……。「私には歌しかありませんが」とお伝えして歌ったあの日のことは、一生忘れられません。さださんが仰った「ヒット曲はみんなのもの。その歌で人を応援できるなら、大事に歌っていくしかない。」という言葉を、今も胸に刻んでいます。

「作らない自分」が導いてくれた50年

── デビューから半世紀。第一線で輝き続ける秘訣は何でしょうか。

岩崎
 「自分を作らなかったこと」でしょうか。ブリッコをしたり、自分を隠したりせず、自然体でいられたから楽だったんです。今、妹と一緒にステージをやることもありますが、彼女が昔の歌を歌う時にちょっと可愛らしくしているのを見て、「あんた、ブリッコしてんの?」って突っ込んじゃうくらい(笑)。

── 髪の毛の美しさも、デビュー当時から評判でしたよね。

岩崎
昔はキューティクルが多すぎて、夕方になると前髪がおでこにくっついちゃうくらい元気でした。学校の洗面所にある緑色の石鹸で前髪だけ洗っていたこともあるんですよ。今はもう、そんなことしたら大変ですけど(笑)。

── 最後に、4月のオリックス劇場公演を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。

岩崎
50周年という節目を、皆さんと共に作り上げられることが何よりの喜びです。ファンの皆さんは、私と一緒に各地を回るために一生懸命働いて、時間を作って集まってくださる。その声援に応えるためにも、一日でも長く歌えるよう、健康に気をつけて頑張りたいと思っています。初めての方も、私と親衛隊の皆さんとの深い「絆」を感じていただけるはず。4月12日、ぜひオリックス劇場でお会いしましょう!

【インタビュー後記】インタビュー中、時折見せる茶目っ気たっぷりの笑顔と、歌の話になった瞬間に宿る凛とした強さ。岩崎宏美さんというアーティストの魅力は、その高い歌唱力はもちろんのこと、嘘のない「誠実さ」にあるのだと感じました。50年分の感謝が詰まったグランドフィナーレ。きっと宏美さんと皆さんが歩んできた歴史を祝福する、最高の時間になることでしょう。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき