【松前ひろ子 歌手生活55周年 】山あり谷ありの歌手人生、今の姿を両親に見せたい

インタビュー

松前ひろ子・デビュー55周年シングル『おんなの恋路』が2024年1月17日に発売された。従兄・北島三郎氏の一言に背中を押され、歌手を夢見て家出。北島氏の内弟子として修行後1969年9月1日『さいはての恋』でデビューするも、その2年後に交通事故により歌手生命を絶たれ、8年後に再デビュー。今年55周年を迎えるが、その道のりは平坦ではなかった。歌手として活動する一方で、三山ひろしなどが所属するミイガンプロダクションの社長も務めるパワフルな松前さん。新曲のことや55年の歌手人生を振り返っていただきながら、今の思いを伺いました。

今の時代に合った“夫婦の形”を描いた歌

──『おんなの恋路』はこれまでにない曲となっていますね。

松前
これまで夫婦演歌ばかり歌ってきましたが、55周年ということもあり、今回は夫婦演歌ではない歌を歌いたいと、ディレクターさんにリクエストしました。歌詞だけ読むと不倫の歌のように思う方もいらっしゃいますが、入籍していない夫婦を描いた歌となっています。マイナー調なのにメジャー調に聴こえて、さらにテンポ感が良いのがこの歌の魅力です。

──この曲を歌う時のポイントを教えてください!

松前
淡々と歌うこと。噛み締めて歌っていると乗り遅れます。そしてリズムを感じながらメロディーを正確に覚えること。これが基本です!一番最後の決め言葉“すべて捨てても 悔いはない”の部分の“悔いはない”にしっかりアクセントを入れてくださいね。ここの部分が決め手になるんです。“夫婦(めおと)かなんて”の“か”の部分もとても大事なので意識して歌ってもらえると、かっこよく決まりますよ。

── MVについても教えてください。こちらに出演されている男性も歌い手さんですか?

松前
コロムビアレコード所属の岡本京太郎さんで日本舞踊がとってもお上手な方。山口県ご出身とのことで親しみを覚えました。三山ひろしの新曲『恋…情念』のMVでも踊っている方です。こうしてご縁をいただき嬉しいです。

歌が上手くなる秘訣は“素直さ”

── 『人生舫い舟』はイントロ部分の胡弓の音色が素敵です。

松前
舫い舟は岸辺にとまって紐で繋がれている舟のこと。舫い舟と夫婦2人の人生を重ねています。昔は苦労したけどそんな過去も今は笑い話。この歌のような人生を歩んでいる方達も多く、皆さんこの歌に共感してくださいます。

── この曲を歌う時に意識する部分は?

松前
ワルツは頭の音にアクセントを入れてください。“あなた”の“あ”は口を笑うように開ける。この歌だけに限らず、カ行ではしっかりとアクセントを入れて、ラ行では巻き舌に。そして小さい“つ”は、飲み込むように歌います。そこを意識すると歌がグッと変わってきます。持って生まれた声や声帯はその人の財産。それを活かして歌うことで唯一無二の歌声ができると思っています。やっぱり素直な人は歌が上手になります。

── そして松前さんのお店、Liveレストラン青山で恒例のカラオケ大会が開催されます。今年はデビュー55周年特別企画として、65歳までと66歳以上の各1名にグランプリが選出されるとのことですが。

松前
やはりどんなに上手な60代、70代の人も50代の声量には勝てません。今回はもっと多くの人に希望をもってもらえるように部門を分けました。皆さん是非ご参加くださいね。お会いできるのを楽しみにしています。

── 松前さんはアイディアも豊富で企画力もお持ちです!

松前
昔から大好きなんです。過去にレコード会社の方から“もし歌い手を辞めたらプロデューサーになってみてはどうですか?”なんて言われたことも。それでも“私は歌手です!”と言い続けてきました。4月に弊社からデビューする小山雄大の選曲なども私がプロデュースしています。

今後も歌手と社長を両立していく

── 小山雄大さんが4月10日に『道南恋しや』でキングレコードさんからデビューされますが、ミイガンプロダクションもさらに賑やかになり、今後が楽しみですよね。

松前
長年民謡が歌える演歌歌手を探していました。そんな時にご紹介いただいたのが20歳の小山くん。民謡も歌えて、北海道札幌出身。同じ北海道出身なので縁を感じますし、会った時から私たちの中に家族のような風が吹いていました。やるからには、三山くんの側で勉強させました。昨年の9月から三山くんと共に全国を巡りました。小山くんには三山くんの舞台を見て、盗みなさい!と伝えています。

── 三山ひろしさんは小山さんについて何かお話されていますか?

松前
“彼のことはまだ少ししか一緒にいないので分かりませんが、松前先生のことはよく分かります。先生が喜んでくださるのであれば何でもやります!”と言ってくれました。三山くんとは19年一緒にいますが、今でも私たちの教えを大事にしてくれています。小山くんも三山くんのようになってもらえたら……。

── 今年はご自身の55周年に加えて、小山さんのデビュー、9月からは三山さんのツアーも始まり、とても忙しいですね。

松前
自分の足も完全に良くなっていないのにね(笑)。だけど、あそこもここも悪いから危ないから家でじっとしていなさい!と言われて、猫と過ごしていたらダメになってしまうと思うのです。賑やかな場所が好きなので、東京にいるときは食事会ばかりです(笑)。私は全然飲めないのですが、皆とワイワイ過ごすのが楽しくて。

── 松前さんはお着物を沢山お持ちで、後輩の歌手の方に譲ったりされているとのことですが。

松前
差し上げると着物が減るのですが、結局買っているので量は変わりません。着物が大好きなんです。皆さんに“着物を見るのが楽しみです”なんて言われると、なお張り切っちゃって見栄張っちゃうんです(笑)。この間は由紀さおりさんがお誕生日だったので、お着物を三山くんに持たせて届けてもらいました。由紀さんはテレビでその着物を着て下さっていて、とっても嬉しかったです。そして、お返しにダイヤモンドのブローチをいただきました。とっても気に入っていて、今日も付けてきました!

55年を振り返って

── これまで山あり谷ありの歌手人生を歩んでこられました。55年を振り返って印象的なエピソードや今の思いを教えてください。

松前
今の姿を両親に見せたい。両親の喜ぶ顔が見たかった。父が最期に“ひろ子の舞台をもう一度見たかった”と言って、天国に旅立ったことも……。悔しくて悔しくて、その悔しさをバネにしてこれまできました。ですが、今も昔もお世話になった方々に恩返しをして生きていこうと思っています。

松前
主人(中村典正)や娘にも感謝しています。主人が亡くなって4年半、いつも良いことがあったら報告します。仏壇で手を合わせていると、自然と涙が溢れてくるんですよ。主人はずっと私の側にいてくれていると思っています。

── 歌手として、ミイガンプロダクションの社長としてお忙しいと思いますが、今の目標は?

松前
会社を三山くんに引き継いでもらって、小山くんが成長して三山くんの片腕になってくれるのが今の夢です。孫の成長も楽しみです。以前三山くんが“先生のところに来て良かった。初めて家族の愛を知りました。”と言ってくれました。もう、本当に嬉しかった。

──松前さんは笑顔がとっても素敵。その笑顔の源は?

松前
特に意識はしていないのですが(笑)。これが自然なんです。舞台は“ありのままで”がモットー。司会を務めるBS日テレ『あさうたワイド』でもカメラの回っていない時に、自分の言葉でお客さまに挨拶をし、気持ちをお伝えしています。人は誰かがいないと歩けない。これからも感謝の気持ちを忘れずにいきます。今後もありのままの私を見てくださいね。

インタビュー・文:ごとうまき