【桂南天インタビュー】師匠から受け継いだ渾身の3席を披露!「神の手からの学びが落語にも生きている」

インタビュー

桂南天の独演会が2025年6月28日(土)、ゲストに桂小鯛と桂弥壱を迎え、『阿弥陀池』『鬼あざみ』『火焔太鼓』の3席が披露される。会場は昨年も好評を博した東大阪市文化創造館ジャトーハーモニー小ホールで、心地よい空間での落語体験が期待される。落語ファンから初心者まで幅広い層に愛される南天さんに、独演会の見どころや自身の落語への思いなどを語ってもらった。南天さんの軽妙な語り口と深い芸の背景に迫るインタビューをお届けする。

演目の構成と『鬼あざみ』を中心に据えた理由とは?


── 6月28日の独演会についてお聞かせください。東大阪市での公演は2回目ですね。

桂南天

はい、2回目です。昨年の6月に初めてやらせてもらって、すごくいい会場だったんですよ。2020年にできた新しいホールなんですが、コロナでほとんど稼働しなかったみたいで。昨年から本格的に動き出して、やりやすい場所ですね。音の響きもいいし、お客さんの反応もダイレクトに感じられる。すごく楽しみです。


── 今回の演目は『阿弥陀池』『鬼あざみ』『火焔太鼓』の3席ですが、どのように選んだのですか?

桂南天


なんとなくなんです。(笑)。いや、冗談じゃなくて。最初に『鬼あざみ』をやりたいって思ったんですよ。この噺は笑いが少なめで、緊張感のある人情話。ちょっと劇画的というか、映画的な雰囲気があるんです。光の明るさや暗さ、登場人物の動きが頭の中で映像として浮かぶような噺ですね。それを軸に、前後にどんな噺が合うかを考えました。最初は『阿弥陀池』で軽快に笑いを届け、最後は『火焔太鼓』で明るくハッピーエンドに。こういう流れだと、お客さんが楽しめるんじゃないかなって思ったんです。

──演目の順番にもこだわりがあるんですね。


桂南天

そうですね。まずは流れを考えるんです。最初は親しみやすい笑える噺で場を温めて、次にギュッと心をつかむような噺、最後はハッピーな気持ちで帰ってもらえるように。この3席は、僕の中ではバランスがいいんです。

師匠・桂南光からの継承と変化する芸


── 3席とも師匠の桂南光さんから教わったものだそうですね。特に思い出深いエピソードはありますか?

桂南天


特に『阿弥陀池』は、僕が師匠の家に2年間住み込みで修行させてもらった最後に教わった噺で、思い入れが深いです。師匠がやってるのを入門する前から見てて、めちゃくちゃ面白くて。だから自分でやる時も、毎回進化させたい!って思っています。「次の阿弥陀池が最高の阿弥陀池」って感じで、毎回変わってるんです。同じタイトルでも、話すたびにニュアンスや表現が変わる。それがお客さんにとって新鮮で、僕にとっても挑戦です。

──『火焔太鼓』についても教えてください。


桂南天

『火焔太鼓』は古今亭一門で大事にされてる噺。なので、実は古今亭以外ではあまりやらないんです。それを師匠が大阪の気質に合わせてアレンジしたんですよ。江戸弁を大阪弁に変えるだけでなく、江戸っ子の粋な感じを大阪のノリに置き換えて。2016年に朝日放送の生放送の企画でこの噺を初披露したんですが、めちゃくちゃウケたんです。ユーモアと人情が詰まった噺で、絶対笑ってもらえると思います。


──今回のゲスト、桂小鯛さんと桂弥壱さんについてもお聞かせください。


桂南天

弥壱くんは前座で、桂吉弥さんの弟子。6、7年目くらいの若手で、すごく素直で爽やかな芸風なんです。前に座って会場の空気を整える大事な役割なんですが、彼はひねくれることなく、ちゃんと笑いを取れる。スクスク育ってる感じですね。一方の小鯛くんは桂塩鯛さんの弟子で18年目。めっちゃ面白いんですよ! 新作も古典もできて、テンポが良くて気持ちいい。笑いも大きいし、僕のおすすめの若手です。2年前に僕が企画した若手推薦の会でも出てくれて、今回も楽しみ。二人との化学反応が楽しみで、彼らがいい空気を作ってくれるから、僕も負けずに頑張れます。

──南天さんにとって、落語の魅力や現代における意義は?

桂南天


意義なんてないですよ(笑)。いや、僕にとっては、落語は純粋な娯楽。役に立つとか、平和をとか、そんな大それたことは考えてないんです。世の中の理不尽さや不条理も描きつつ、それを笑い話に昇華する。それがお客さんの想像力を掻き立てるんです。例えば「綺麗な花」って言ったら、みんながそれぞれ違う花を想像するでしょ? それが落語の醍醐味。令和の時代だからこそ、想像力を刺激するエンタメが必要だと思うけど、僕としては「面白いかどうか」が全て。面白い!と思ったら来てください、っていう感じです。

脳腫瘍手術を乗り越えて…「神の手」からの学び


── 2020年に脳腫瘍を公表され、手術を受けられたそうですね。その体験が落語に影響を与えた部分はありますか?

桂南天


実は昔からあった聴覚神経腫瘍が大きくなって、脳を圧迫し始めたんで手術したんです。担当してくれたのが『神の手』と呼ばれる福島孝徳先生。テレビでも有名な名医で『僕に任せたら大丈夫!』って、すごく頼もしいんですよ。あ、ホントに大丈夫なんだって安心する。その圧倒的な自信って大事なんですよね。僕もそんな先生を真似て、落語のマクラでも「大丈夫、絶対ウケるから!」という空気を作ったり、舞台に立つ時に「任せてください!」って気持ちで臨むことがあります。先生のおかげで聴覚も残ったし、感謝しかないですね。2024年3月にご逝去されましたが、ホントにすごい人でした。

師匠・南光の教えと芸の哲学

──師匠の南光さんとのエピソードで、特に印象に残っていることは?

桂南天


師匠の家で修行してた時、食器乾燥機に皿を並べる順番を細かく指導されたんです。「この順番で洗って、こう並べたら風が通って効率よく乾く」って。最初は「面倒くさいな」と思ったけど、師匠はそれが落語の段取りと同じだと言いたかったんですよね。「ここでこれを言えば笑いが来る」って設計図が師匠には見えている。それが芸の骨子なんです。「芸は人なり」って言葉通り、師匠の几帳面さや理不尽じゃない指導が、僕の落語にも影響してます。怒られても、それが正しいってわかるから、受け入れられたんです。


── 落語以外では、バイクや写真、ライブ鑑賞など趣味も多彩ですね。

桂南天


ハーレーでツーリングしたり、写真撮ったり、歌舞伎やライブに行ったりね。北海道や九州、能登半島も回りましたよ。写真はスマホで撮ってトリミングするだけだけど、いい感じになるんです。ライブは歌も芝居も好きで、最近はボブ・ディランや竹原ピストルさんのライブも行きました。落語だけじゃなく、いろんな刺激を受けて、リフレッシュしてます。それがまた舞台に生きるんですよね。

──最後に、独演会を楽しみにしているファンや初めての方にメッセージをお願いします。

桂南天


もう、任せてください! 間違いなく面白い会になります。『阿弥陀池』で笑って、『鬼あざみ』でグッと引き込まれて、『火焔太鼓』でハッピーな気分で帰ってもらえる。ゲストの小鯛と弥壱も最高の噺家だし、絶対楽しめます。安心して来てください!

インタビュー・文・撮影:ごとうまき