『なんだ、レズビアンの作品か』と思ったそこのあなた、まずは見てほしい。これは愛の本質やあなたの死生観さえも問いただす問題作だと。また水原希子の凄まじい演技力と彼女たちの身体を張った官能的な濡れ場は息を呑むほど美しい。

「あなたは愛する人のためならば人を殺せますか？」

このような“究極の質問”をされた場合、筆者の答えはイエスでもありノーでもある。イエスの理由は、きっと自分の子どもたちの命を守るためなら手段は選ばないであろう。それ以外はその時になってみないと分からない、というのがノーの理由だ（だけどやはり殺人はダメ）。そんな私は鈴木杏演じるレイの兄嫁の心情に近く、実は劇中での彼女のセリフに一番共感した。

作品紹介とあらすじ

本作は“生（性）と死”、“愛と憎悪”、LGBTQなどをテーマに“極限の愛”を問う恋愛ロードムービー。中村珍による漫画『羣青（ぐんじょう）』をNetflix映画『彼女』というタイトルでリメイクし、現在Netflixで配信中である。

高校の同級生だった七恵からDV夫を殺してほしいと言われ、七恵の夫を殺したレイ。彼女は七恵の事を高校時代から想い続けていた。そこから二人の逃避行が始まるーー。

友達でも恋人でもない、ただ“好きな人”。その人のために殺人まで犯すレイの極限の愛は、人によっては理解し難いことであろう。

狂おしいほどに人を愛したことがありますか？

私たちは生きている間に、血の繋がりのない他人を深く深く、狂おしい程に愛することが何回あるだろうか。そもそも、“全てを投げ打ってまで愛せるような人”に出逢えること自体が奇跡に近いし幸せなことではないだろうか。無論、そのような相手に性別や年齢、国籍などは一切関係ない。

“極限の愛”に“死とセックス”を結びつけた作品はこれまで世に多く出ており、その多くが男女の愛を中心に描いている。「同性愛者の究極の愛」を新しい切り口として描いている本作は、多様性が提唱される昨今の問題に寄り添いながら、人間の複雑な感情を繊細に美しく、時に大胆に描いている。

“レイと七恵”二人の関係を中心に物語は進んでいくが、随所に出てくる親子愛や兄弟愛なども見逃せない。レイと同棲していた真木よう子演じる34才の”彼女”も幼い頃から同性愛者として生きているが、その母親も彼女がレズであることを理解し、ありのままの娘の姿を受け入れている。“子どものありのままの姿を受け入れる”という親の愛、レイに振られても愛する人の幸せを一番に願う彼女の姿からも“愛すること”の真髄が描かれており、このシーンでは特に心が大きく揺さぶられた。何度も何度も涙を拭い、LGBTQへの理解が深まったように（つもり）感じたのは私だけだろうか。

そんな愛に溢れた本作を手がけたのは、『火花』や『ヴァイブレーター』『軽蔑』などの廣木隆一監督。懐かしいYUI（現在はyui)の「CHE.R.RY」をはじめとする劇中歌とともに日本の美しい自然や古き良き風景を、揺れ動く彼女たちの胸中を感じながら楽しんでほしい。