フランス映画界の名匠フランソワ・オゾンの35年越しの力作
1985年フランスノルマンディーの海辺の街を舞台に、16歳と18歳の一夏の究極の初恋を描いたノスタルジックな作品。フランソワ監督が35年前に出合ったエイダン・チェンバーズの小説「Dance on My Grave(おれの墓で踊れ)」を自身の青春時代を投影し映画化。10代の複雑な胸の内を繊細かつ丹念に捉えている。
あらすじ
16歳の少年アレックスは、自由奔放で美しい18歳のダヴィドと恋に落ちる。アレックスにとっての初恋であり、ダヴィド以外目に入らないほどの灼熱の恋だった。しかし、ダヴィドは突然の事故でこの世を去ってしまう。生きる希望を失ったアレックスはダヴィドと交わした「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という奇妙な誓いによって力強く動き出す。
本作の魅力の一つは“ボーイズラブもの”という特別感がなく、ごく普通のラブストーリーとして仕上がっているから、老若男女楽しめる作品となっている。色調もレトロでノスタルジック漂う本作、85年、特にこの時代に青春を謳歌した大人の人たちは懐かしさを覚えるのではないだろうか。
同性愛を扱った最初のヤングアダルト小説のひとつといわれている原作は、1982年に出版された。1980年代であれば現代のように同性愛に対してオープンで寛容ではなかったはず。オゾン監督は「少年ふたりの恋愛に皮肉を加えず、古典的な手法で撮って、世界共通のラブストーリーにした」と語っているそうだ。
18歳の美青年ダヴィドは、男性も女性もさらには中年男性だっていけちゃう自由を愛する色男でその守備範囲には脱帽もの。そんなモテ男に夢中になったウブなアレックスの胸中を繊細かつ大胆に描き出している。移り変わりの激しい10代の感情を生き生きと瑞々しく捉え、希望に満ちた少年たちの表情が印象的だ。
“死”に対して強烈な憧れを抱いたアレックスが愛する人の死に直面し、その砕けちった絶望からどう抜け出していくのかーー。再生していく手法も古典的でありながら斬新かつシュール。
劇中の“遺体安置所”、“墓地”でのシーンは失礼ながらも笑えるシーンだ。一見重くなりがちな“愛と死”といったテーマさえも前向きに描き出すところにフランソワ監督の手腕を感じる。
恋とは歓びと哀しみの紙一重
相手を独占したいけど出来ないもどかしさ、狂おしいほどの恋心と嫉妬心、かつて10代の頃に経験した、甘くて狂おしいほどの恋愛感情がフラッシュバックする。瑞々しく純度の高いラブストーリー、ボーイズラブものに難色を示すことの多い男性も、今作は見て損はないかも。
Summer of 85
文/ごとうまき