【号泣必至】3.11と生活保護を掛け合わせた社会派ミステリー『護られなかった者たちへ』

映画
ベストセラー作家・中山七里の同名ミステリー小説を「感染列島」 「64 ロクヨン」 「8年越しの花嫁 奇跡の実話」の瀬々敬久監督と阿部寛、佐藤健の共演で映画化。
宮城県仙台市で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生した。被害者はいずれも善人で人格者と言われていた男たちで、宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎は、2つの事件からある共通項を見つけ出す。そんな中、知人を助けるために放火、傷害事件を起こし服役し、刑期を終えて出所したばかりの元模範囚、利根泰久が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。しかし犯人としての決定的な確証がつかめない中、第3の事件が起こってしまうーー。
容疑者の利根役に佐藤健、刑事・笘篠役に阿部寛、清原果耶、倍賞美津子、吉岡秀隆、永山瑛太、林遣都と豪華キャストが脇を固める。

護ろうとした者たち

“魂が泣く”とは言い得て妙だ。
事件が起きた背景を知ると憤慨と哀しみで胸が締め付けられる。誰も本作の犯人を責めることはできないだろう。もっとも憎むべき相手は国なのかもしれないが…。
本作は社会福祉のあり方と理不尽を巡って描かれるミステリー。未だ大きな爪痕を残す3.11東日本大震災の背景も絡められることにより“護られなかった”との言葉がより幅広い意味合を持ち私たちに訴えかける。大筋は原作と同じであるが、映画の方が東日本大震災との関係をより深く絡めながら時系列を細かく入れ替え、過去と現在を交錯している。

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

かんちゃんを護った利根
飢えで意識が薄れていく中で利根とかんちゃんを護ろうとしたケイさん
家族を護ろうとしたが護れなかった笘篠ーー。
『護られなかった』とはケイ達のように社会保障を受けられずに命を失った人、東日本大震災によって命を失った者、または震災によって愛する人を失った者たちのことで、私たち皆が大切な“何か”を護ろうと生きている。

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

本作を観て涙を流す人は多いだろう。だけどただ泣いて終わりではない。護られようとすべきものが護られず、護に値しない者を護る(不正受給など)今の法律と歪んだ社会が変わらないといけない。そのためには私たち一人一人が声をあげる必要がある。
そして、終身雇用制度が崩壊し、幸せな未来が約束されない不安定な現代の日本を生きる私たちはまさに「一寸先は闇」で、よほどの資産家か富裕層の家庭出身でない限り、誰しも貧困の沼に引きずり込まれる可能性があって本作に描かれている事は決して他人事ではないのだ。
もし自分自身が、または愛する人や身近な人が貧困の沼に陥った時に、私たちはどうすればいいのか・・・。原作と映画に共通して描かれているメッセージが印象的だ。以下原作より引用。
「声の大きいもの、強面のするものが生活保護費を掠め取り、昔堅気で遠慮や自立が美徳だと教え込まれたものが今日の食費にも事欠いている。護られなかった人たちへ。どうか声をあげてください。恥を忍んでおらず、肉身に、近隣に、可能な環境であればネットに向かって辛さを吐き出してください。この世は思うよりも広く、あなたのことを気にかけてくれる人が必ず存在します」

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

それにしても、豪華なキャスト陣。ちょっとした役にも主役級の俳優が顔を揃えていてこれだけでも観る価値はある。そして重要な役どころに清原果耶を差し出すあたりも心憎い。なにせ重い内容となっているため、何度も観るとさすがに心が折れそうになるが、できるだけ多くの人に観てもらいたい良作だ。

護られなかった者たちへ

監督:瀬々敬久
脚本:林民夫、瀬々敬久
原作:中山七里
キャスト:佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒方直人、岩松了、吉岡秀隆、倍賞美津子
製作:2021年製作/134分/G/日本
配給:松竹
文/ごとうまき