美しきイングランドを舞台に‟安楽死”と‟認知症”をテーマにした作品
極めて芸術的で儚い愛の物語に出会った。超実力派俳優たちの繊細な表情と湖水地方の美しい風景、心揺さぶられる音楽。本作は認知症と安楽死をテーマに、20年以上連れ添ったゲイカップルの愛の結末を描いている。今生きている私たちを待ち受けているものは遅かれ早かれ“死”である。死に対しどのように向きあうか、どのような死に方をするか、最期に隣に寄り添ってくれるのは誰だろうか、重いテーマではあるがきちんと向き合うべき課題でもある。
あらすじ
冒頭から映し出されるキャンピングカーで旅する2人のカップルは20年以上連れ添ったピアニストのサム(コリン・ファース)と小説家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)。タスカーは若年症認知症を患っている。サムの演奏会に向かうまでを2人はサムの実家を経由しハイランドの上を目指している。刻一刻と症状が悪化するタスカーは愛するサムに迷惑をかけたくない、そして自分の変わり果てた姿を見せたくないとサムに内緒で自死を目論んでいる。対してサムは、愛した人の面倒を見る、タスカ―を最期まで愛し貫くと腹を括っている。互いが互いを思い合うがゆえに2人の間で大きく意見が食い違うのだが、果たして二人の愛の最終章はどのような形で迎えるのだろうかーー。
スタンリー・トゥッチがコリン・ファースに共演を依頼し夢の競演が実現
無口で繊細でありながらもタスカ―を温かく見守るピアニストサムを「英国王のスピーチ」でアカデミー主演男優賞を受賞したコリン・ファース、作家のタスカーを、「ラブリーボーン」で同助演男優賞にノミネートされたスタンリー・トゥッチが演じるが、サム役とタスカ―役、最初は逆の配役だったという。また脚本を読んだトゥッチが20年来の親友であるファースに共演オファーしたというが、二人の強い絆が作品にも表れている。監督には長編2作目となるハリー・マックィーンが、オリジナル脚本を書きメガフォンをとった。
タイトル「スーパーノヴァ」の意味
題名のスーパーノヴァとは「超新星」、星がその核の原子力を失うと、爆発して粉々になって滅ぶがそのときの光は太陽よりも明るい光となって消えていく。その大爆発を超新星爆発と呼ぶらしい。銀河系の中で起きる超新星爆発による衝撃波は、星どうしの密度に揺らぎを生み出し、新たな星の誕生を促すという。「スーパーノヴァ」は死を目の前にし、夜空にロマンと人生そのものを感じているタスカ―そのものである。不治の病、いずれ自分自身がわからなくなり、かつて愛した人のことまでも忘れてしまう。本作はとても悲しい物語ではあるが、決してシリアスに描くのではなく、美しく、時にはユーモアを忘れずに繊細に描いているところを評価したい。
題名の「スーパーノヴァ」のように、人生を共にできる愛する人に出逢い、輝いた人生を送れる人がこの世にはいったいどれほどいるのだろうか。
コロナのせいで、長らく海外に行けていない。収束しても、おいそれとは行けやしない。しかしこうしてスクリーンを通して楽しむ旅も悪くはない。キャンピングカーで湖水地方を旅する2人と共に、スクリーンいっぱいに広がるイングランドの深い山々や広大な空も味わってほしい。
スーパー・ノヴァ
文/ごとうまき