【多岐川舞子インタビュー】和装でサックスを奏でる演歌歌手が語る、亡き父への鎮魂歌と新たな挑戦

インタビュー

2025年10月22日にリリースされた多岐川舞子の新曲「お別れメランコリー」。前作「京都 別れ雨」に続き、サックスをフィーチャーした楽曲だが、今回は表題曲としてサックスを全面的に押し出した作品となる。「前作「京都別れ雨」はカップリングから繰り上がってメインになった歌だったんです。今回は最初から表題曲として、サックスをフィーチャーすることを前提に作っていただきました」

前作の反応が予想以上に良かったことが、この挑戦を後押しした。「ずっと演歌を歌ってきたので、このスタイルでパフォーマンスする事に不安もありました。でも、すごく良い反応で手応えがあったので。まだ知らない方に浸透できるように、もう一回やってみたいと思ったんです」

和と洋の融合により生み出された偶然の産物

多岐川といえば、着物姿でサックスを演奏するスタイルが強烈な印象を残す。しかし、このスタイルは計算されたものではなく、偶然の産物だったという。

「最初はドレスにサックスというスタイルでやりたいと思っていたんです。でも、ある日、衣装を着替える時間が取れなくて。着物にサックスを持ってみたら和と洋が融合して、すごく印象に残るスタイルになりました」

サックス歴は22年になるが、本格的に取り組むようになったのはここ7〜8年ほど。「最初の頃は年に1回、コンサートで1曲だけ練習して発表するような感じでした。自分の曲が吹けるようになってから、頻度が増えてきて。音を安定させるのが難しくて、ここ3〜4年でようやく正確な音が出せるようになってきた感じがします」

亡き父への想いを込めた鎮魂歌

「お別れメランコリー」は男女の別れをテーマにしているが、同時に亡き父への想いも色濃く反映されている。

「男女の別れの歌ですが、父との別れもあったから、それを盛り込んでほしいというのは最初からお願いをして。サザンオールスターズの『愛はスローにちょっとずつ』が、私の中で恋愛の歌なんだけど亡くなった人への想いがよみがえる歌だったんです。YouTubeのコメント欄で亡くなったお母さんを思い出すという感想を書いている人を見て、同じように思っている人がいるんだって。そういうふうに思えるような楽曲にしたい。歌うたびにお父さんを浄化していくような、鎮魂歌という気持ちを込めて歌わせてもらっています」

歌詞に登場する「真夜中の電話 優しい言葉が」というフレーズは、まさに父親との思い出そのものだ。「しょっちゅう電話してくれた父でした。社交的な人だったので、誰かと交流を持ちたくて。歌手を目指していたからか、声も亡くなる直前まではりがありちゃんとしていました。前日までしっかり話もできたんです」

作詞家との濃密な共同作業

作詞を手がけた日野浦かなで氏とは、もともと同じ事務所で働いていた仲。今回の制作では、北千住のゲストハウスで一泊しながらの濃密な時間で歌詞を完成させた。

「大筋は事前に作ってきてくれていたんです。お父さんとの電話のことを入れてほしいとか、そういう話をして。そこから細かいところ、語尾をこう伸ばしたいとか、この言葉がいいとか、好きに言わせてもらって。話しながらあっという間にできちゃいました」

挑戦しがいのある楽曲

徳久広司氏が手がけた曲は、少し難易度が高い仕上がりになっている。「先生に『一般の方が歌いやすいように、もっと優しいメロディにしてほしい』って言ったんです。でも先生は『ちょっと挑戦しがいのあるところを残して、皆さんにチャレンジしてもらう形でいいんじゃないか』って」

難しいのは冒頭の入り。「『あのビルを』って歌うところが、半拍休んで入るんです。裏を取るというか、そこがちょっと難しい。でも、リズム感のしっかりした方は難なく歌われていますし、流れで歌うとパーッと歌えちゃうんですよ。起承転結がわかりやすい展開になっているので、ちょっとしたコツをつかめば歌えると思います」

多岐川は東京と大阪でレッスン会も開催している。「ピアノを弾きながら、1時間半くらいのレッスン会です。5回くらい練習すると、皆さん上手に歌えるようになって。皆さんがやった事がないであろう発声練習もやったりして。距離も縮まるし、アットホームですごく楽しい時間です」

カップリング曲は真逆の世界観

カップリングの「ほろ酔いワルツ」は、表題曲とは真逆の愛を歌った楽曲だ。「あえて真逆の歌を書いてほしいとお願いしました。これもまたメロディー先行なんです」

この曲は短時間で完成した。「30分で作って下さったんです。『3拍子のワルツで本当に簡単な詞とメロディーで、この歌もサックスを吹きたいからそれができるように』とお願いしたら、その場でギターを弾いて。『こんな即興で作ったのはなかなかないぞ』と先生も笑っていました」

歌い方も表題曲とは異なり、優しく柔らかい印象。「最初に入りやすいのはこっちのメロディーだと思います。耳にスーと入っていく。『お別れメランコリー』は皆さんが歌っていただくのに少し時間はかかるかもしれないけれど、歌いこなせると爽快感がすごいんです」

37年のキャリアが辿り着いた自由な表現

デビュー37年目を迎える多岐川。ターニングポイントについて尋ねると、「デビュー3年目に『あなたの女』という歌がヒットして、そこから女歌の路線を守ってきました。30周年を超えたあたりから、自由な発想で楽器を持ちながら歌ってみたいとか、自分がチャレンジしたいことを先生たちにお願いして。一曲一曲が本当に納得で出せているというのは楽しいですね」

個性的なスタイルを確立できたのも、長年やってきたからこそ。「最初の頃は、ブームについていくのが精一杯でした。綺麗な女性歌手の皆さんについていこうと必死でした(笑)。でも今は、多岐川舞子というスタイルで個性を出せるようになってきたかな・・・」

ふるさと南丹市への想い

南丹市文化観光大使も務める多岐川。18歳で上京してから、ふるさとへの想いは深まった。「あって当たり前と思っていた田舎でしたが、帰った時に、紅葉が綺麗とか、草の匂いってこういう匂いやったなぁとか。いろんなことを再認識するようになりました。やっぱり広々とした自然を見るとほっと落ち着きます」父親が入院する前も心配で、定期的に帰郷していた。

最後にファンへの想いを語ってくれた

「今回のスタイルも皆さんに受け入れていただけるように、そしてまだまだ私を知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、生のステージを少しでも多くの皆さんに届けられるように機会を増やしていきたいです。皆さんにもワクワクしながら見ていただけるようなステージングとなるよう、この歌でステップアップしたいと思っています。父への思いを重ね、魂を込めて、頑張って歌っていくので、応援してください」

和装でサックスを奏でる演歌歌手・多岐川舞子。亡き父への想いと、新たな挑戦が詰まった「お別れメランコリー」は、彼女の新たな代表曲となりそうだ。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき