【立川談春が環状線の車両を貸切りラジオ公開収録!】来年は40周年!「伝統を守りながらも、時代の価値観に合わせてチャレンジ」現代版「芝浜」は必視聴!

インタビュー
 最もチケットが取れない旬の落語家の1人として人気を博す立川談春。彼の記念すべき40周年公演を迎えるにあたり、会場の森ノ宮ピロティホールにほど近い環状線の電車内にて11月28日(火) FM802「Saturday Amusic Islands Afternoon Edition」の公開収録にDJの樋口大喜とともに参加した(オンエア日は2024年1月6日(土)12:00~18:00の番組内)。社内にてリスナー達が見守る中、終始穏やかで笑いに満ちた収録となった。本記事では公開収録の模様と、収録後、電車内で行われた囲み取材でのインタビュー記事をお届けします。

ラジオ収録の模様

 2024年に芸歴40周年を迎える談春は「続けていれば誰でも迎えられます(笑)。バンドと落語で10年続けられるって競争が違いますから」と謙遜。2019年に大阪フェスティバルホールが閉場する際に、最後の5日間に談春の独演会を敢行。「思いのほかチケットが売れて、お客さんが喜んでくださった。その次の年から僕は大阪でやるようになりました。」と、振り返る。
立川談志に影響を受けて、17歳で入門。「落語ではなく立川談志という人に影響を受けた。当時、特に関東で落語家になるには相当な覚悟が必要でした。落語口調が邪魔をして、テレビやラジオには出れませんでしたから。当時はバブル期。落語は聞かれませんでしたね。」と40年前を回顧した。

撮影:渡邉一生

 談春は「国立演芸場花形演芸会大賞」を始め、数々の賞を受賞。さらに多くの映画・ドラマに出演し、マルチな才能を発揮している。日曜劇場『下町ロケット』では殿村を演じたことで、一気にその名が広まった。「落語家は1人で出て、1人でやる。全部自分に責任がくるけど、ドラマはチームで関わる。私が下手を打つと、ドラマに関わる全員のキャリアに傷がつくから……、プレッシャーが凄かった。」と、振り返った。

撮影:渡邉一生

さらに“こう思ってもらいたい”という気持ちはなくなってきたと40年の中での心境の変化を語る。「噺を聞いて、お客さんそれぞれの頭に何か浮かんでくることが今一番の喜び。」とニコリ。「その辺はラジオとも似ていますよね。」と樋口。落語に魅せられ、自身も着物を着て落語をするようになった樋口も談春を前に、落語愛を語る。談春は「この年齢でこんな世慣れた受け答えは私とできないよ(笑)。」と樋口を称賛した。

撮影:渡邉一生

 12月28日(木)にはフェスティバルホールにて、〜三ヶ月連続人情噺 その三「芝浜」〜、2024年1月から10月まで森ノ宮ピロティホール10ヶ月連続公演『立川談春 独演会』が開催される。「『立川談春 独演会』1月の演目は「夢花」とのことで、今後の夢を聞かれた談春は、「毎日自分で幸せだと思うような生き方をすること。10ヶ月連続公演もベストアルバムみたいな感じで、集大成のつもりですし、こう言えるようになったことが嬉しい。」と、しみじみと語った。

撮影:渡邉一生

収録後インタビュー

大阪公演のテーマは“チャレンジ”

── 公開収録終了後の今のお気持ちは?
談春
電車って借りられるんだね(笑)。西九条行きの電車が横で走っている中、車両を借り切ってできるなんて一生ないでしょうね。貴重な経験ができました。

現代の女性が共感する現代版「芝浜」は必視聴!

── 12月28日(木) にフェスティバルホールで、〜三ヶ月連続人情噺 その三「芝浜」〜の公演がありますが、昨年から大きくアレンジされたとのことですね。
談春
年末は「芝浜」を聞きたいというご要望が多く、ここ数年は「芝浜」をやっています。特に20代〜40代の女性に聞いて欲しくて、とっても有名な「芝浜」を驚くほどに変えました。というのも、落語は今の女性が共感できるような女性像を描いた作品が少ないのです。今の時代を生きている女性が聞いて、この夫婦像だったら許せるという夫婦像を「芝浜」でやりたかった。そうすることで、自分が死んだ後の落語の寿命が少しでも延ばせるのじゃないかと。
談春
前半は「蜘蛛駕篭(住吉駕篭)」と、これまでの「芝浜」を知らない人にも知ってもらう為、談志の「芝浜」の特徴部分と、これまで10年以上私がやっていた今までの「芝浜」の特徴部分をして、後半は大きく変えた「芝浜」を一席します。過去にフェスティバルホールで「芝浜」を聞いた人にこそ、これからの「芝浜」も是非聞きにきてもらいたいです。“お前は今年一年どう生きてきた?”と、いつもフェスティバルホールに問いかけられ、フェスティバルホールに報告に行けている自分はとっても幸せです
── 噺家として、時代の変化を感じておられるということですね。
談春
感じています。20代〜40代の女性たちに共感を持ってもらいたくて「芝浜」を変えたのも、「芝浜」を聞いて泣いているのは男の人だし、最終的には縋る女を演じているのですね、と言われたことがあったから。女性の力が必要不可欠になってきた現代において、「芝浜」に今の夫婦像や新たな女性像を丸ごと入れることはできないかもしれないけれど、ノックぐらいはしたいと思いました。落語に描かれる価値観を違和感なくやっていくのは大きなテーマであり、避けて通れないし、もっと言えば挑戦すべきテーマだと思うのです。
── 2024年1月から10月まで森ノ宮ピロティホール10ヶ月連続公演『立川談春 独演会』、長期の連続公演は2012年以来とのことですが。
談春
40周年を記念しての独演会は、東京での連続公演は“ベストアルバム”のつもりでいますが、大阪ではチャレンジというつもりでいます。大阪公演では、大阪ではあまりやってこなかった噺を適度に散りばめています。また談志から受け継いだ噺もします。今、談志師匠がやっていたものを受け継いでやっているのは私だけなんです。なぜ他の弟子がやらないかというと、長くて難しくて面白くないから(笑)。私は初めて談志師匠の噺を聞いたとき、かっこいい!って思ったんですよね。だから私が思う面白いかっこいい落語を大阪で魅せます!
──大阪のお客さまの印象は?
談春
ふと気がつくと、結構大阪で長くやっていますよね。大阪のお客さまは受け入れられなくても面倒臭い、受け入れられるともっと面倒臭い。というのも、日本人は大阪のお客さまに対して誤解しているんじゃないかな、って思うんです。落語に関して言えば一番きちんとしないと聞いてくれない。落語を聞きにきたんだから、ちゃんと落語をやれ!という明確な意思表示をする、日本でも稀有な土地柄だと思うんです。大阪は、私好みのコミュニケーションを取ってくれるので好きだし恋しい場所です。

原動力は不安と追憶

── 2012年に連続公演されましたが、当時は「嫉妬が原動力」になっていたとのこと。今回の原動力は?
談春
「不安と追憶」です。やっぱり不安なんですよ。この先どうなるのだろうかと。それに、もっと上手くなりたいし、まだまだやりたい。60歳が見えてきましたが60年を四季に分けると15年ずつ、僕の場合はそろそろ冬に入る。冬に入るなら冬の過ごし方があって、僕は実りが過ぎて収穫も終わったんです。だから冬なりの頑張り方をしよう。そろそろ締めくくる前提で動くのではないか?と。こう思うようになったのは談志の影響が大きいのかもしれません。
──来年40周年、落語界においてどのような存在になっていきたいですか?
談春
談志が13回忌で立川流は40周年を迎えました。立川流のイメージと実際にやっていることとは落差があります。だけどイメージだけは凄いですよね。落語に興味のない人だって知っているから。だけどこの先を流石に考えないといけないということをそれぞれが思い始めました。演者個人の力では限界があるし、皆で何かをしていく道筋を考えることに効果があるのかもしれません。そういった意味で一番布教力があるのが立川流ではないでしょうか纏まらないから立川流だと言われているイメージをそろそろ払拭した方がいいかもしれませんね。
取材・文・撮影(インタビュー部分):ごとうまき